俺は今、らしくも無く花を片手にのんびりと歩いている。 この木漏れ日の眩しい遊歩道を抜けた開けた場所でアイツが待ってる。 俺も全てが終わった後にSeeDになり、20を過ぎてそれぞれの道を見つけて。 毎日の仕事に追われながらも何故だか俺とスコールの縁は切れなかった。 (ま、運命の女神ってヤツに離せって言われても離さねぇんだけどよ) 今はSeeD達が挙って就職する派遣型の傭兵…つまりガーデンみたいな所で日々の依頼を受けて生きている。 スコールの奴は何をトチ狂ったんだか…キスティの進めるままに教員免許なんか取りやがってあのタヌキ親爺の元でまだ“指揮官”の肩書きを背負ったまま。 (あいつのあの周りに流される性格はどうにかならなかったのかよ…) 溜息を一つ。 眉をひょいと持ち上げて苦笑して。 「溜息と苦笑でカタが付くたぁ…俺も年食っちまったな、オイ」 あんなになるのが嫌だった“大人”ってヤツになり…いつの間にか俺も周りに合わせるという術を身に付けた。 ───あの事…イデアと…いや、アルテミシアと俺が起こしたあの事件の後。 世界を混乱に貶め入れた悪しき魔女とその騎士はガルバディア軍によって制裁を受ける予定に有った。 大人になる事を拒んだ代償は思っていたとおりにデカかった。 だが“まぁこんなもんだろう”と薄暗い独房の中で腹を括っていた俺の前に現れたのは先に解放されたママ先生とエスタの大統領でスコールの親父だとか言うラグナ…そしてスコール。 微笑んで頷くママ先生と“良かったなー助かったぞー?”しか言いやがらねぇラグナの後ろでスコールはいつもの様に横を向いて溜息を落とし、横目でちらりとだけこちらを見て…。 「帰るぞ、サイファー」 一言でカタを付けてさっさと自分は外に出て行きやがった。 解放された俺達を見送るガルバディア軍の奴らのあの忌々しそうな顔がまだ目に焼き付いてる。 …ママ先生は今、世界に散らばっていた魔女の力を持つ者達を集め、エスタに居る。 そしてガーデンに身柄を引き取られた俺にスコールが言い渡したのは 『一刻も早く正SeeDになり、ガーデン規則に則って20までガーデンでSeeDとして働き、卒業後はこちらが指定する所へ就職。ガーデンの要請を受けて派遣先に向かって貰う。コレは破られる訳にはいかない…契約だ』 苦々しそうな顔で吐き出したスコールの眼を見ていた。 “コレを守ってくれないとあんたは…” スコールの眼が苦しそうにそう語っていて。 その後俺とママ先生を解放する為にガーデンとエスタが総力を挙げてガルバディアに圧力を掛けた事を知った。 そうして俺は世界の…いや、スコールの望みに添う形で今こうしてココに居る。 『あーっ!!くそっ!もうこんな事やってられるかっ!!』 俺がそう叫ぶ度に…スコールの冷たい蒼が苦しそうに歪んで俺を見たから。 だから、生きてる。 ───視界が開けてザァーッと草花が風に揺れる。 辺り一面、緑の海の様。 その先に有るポツリと佇む黒い陰。 その横に居る人の姿を見つけて小さく舌打ちした。 「今年は先越されちまったか…まぁたまには許してやるぜ…」 緩やかな曲線を描く細い道を足を撫でて行く草を掻き分ける様に歩く。 「サイファー!遅かったなー!!先、来ちゃったぞー!!」 不思議な事に相変わらず大して変わらない容姿のままのラグナが俺を見つけて子供みてぇに手、振ってやがる。 「見りゃ解るんだよ!…ったく…あんたも相変わらず変わらねぇな!!」 ザッ、ザッと草が足を撫でる音が大きな音に飲まれながらしている。 漣が押し寄せる様な風の音を聞きながら2つの影の元へ歩み寄った。 「元気だったか?!1年ぶりだなーっ?」 「オイオイ…あんた、毎年同じ事言って楽しいか?」 「楽しいとか楽しくないとかの問題じゃないだろ?久しぶりに会ったんだから聞くのが当然っ!」 「解った解った」 近寄って来て俺の肩を叩いたり、自慢気に胸なんか張ってるラグナを軽くあしらって…俺はもう1つの影に歩み寄る。 「よぉ」 「ああ」 「今年も逢いに来たぜ?」 持ってきた花束を手渡すと嫌そうに眉を顰めた。 こいつも一つも変わらない。 「…あんたら、暇なんだな…」 そうして相変わらずの憎まれ口に苦笑する。 (どうしてコイツはこんなに素直じゃねぇんだろうな…?) 今は後ろで大人しくしてるラグナの姿を思い浮かべて…姿は似ていても、中身が違う事に笑った。 「テメェはやっぱりおふくろさんに似てるんだな…」 「おおっ!スコールはレインに似ててしっかりしてて美人だからな!」 俺の呟きを聞き取ったらしいラグナが後ろからチャチャを入れる様に口を挟んだ。 肩を揺らして笑う俺をきっとスコールはとても嫌そうな顔で見てるに違いない。 三人で肩を並べて…スコールを挟んでのんびりと丘を渡る風を見ていた。 「エスタでも噂になってるぞ?“傭兵を頼むならサイファー・アルマシー。どんな難題も期日内にカタを付ける”ってさ」 「そんな事ァねぇよ…少しぐらいは過ぎる」 「でも予定日内だろ?!優秀だよなーっ!」 「褒めても何も出ねぇぞ?」 こんな風に三人で肩を並べて話す様になったのはいつからか…─── ───その日はこんな風に風が気持ちいい日だった。 雲一つ無い青空。 窓辺で揺れるカーテン。 病的なほど白い室内に佇む人影に声を掛けた。 「よぉ」 「…あんたか…仕事はどうしたんだ?まさか放り出して勝手に抜け出してるんじゃないだろうな…」 読んでいた本に栞を挟んでサイドテーブルに置きながら眉間に皺を寄せて溜息を吐く姿は相変わらず。 「言われた通りやってるよ…テメェが口ウルセェからな」 「当たり前だ。大問題児を任される側として、あんたの仕事の事は全て報告して貰う様になってる」 言いながら別のテーブルに置いて有る真新しいファイルを手にとってパラパラと開く様を見ている。 「あんた、元は優秀なんだろうな…依頼者からの評価は全てAが付いてる」 「元々、優秀なんだよ」 「“元々”の奴がどうしてココに居る?確か今日まで任務だっただろ…」 「早くカタ付いて報告ももう終わったんだよ。…時間が有る時に逢っとかねぇとな?」 ニヤッと笑った俺にスコールは苦笑を浮かべて脇に有る椅子を勧めてくれた。 「…しかしテメェも偉くなったよな?定期健診で見つかった病気でコレか?」 個室の…だだっ広い空間の中にポツリと有るベッド。 作り付けの棚と両脇のサイドテーブルには所狭しと本やら資料やらファイルやら。 見舞いに来た奴らが置いていくらしい果物や花や折り菓子達が向こうのローテーブルの上に溢れんばかり。 「俺は普通の所で良いって言ったんだ…第一入院して検査しなきゃならないほどの重病でもないのにラグナが…」 その名前を聞いて“ああ”と呻いた。 苦しさを顔一杯に見せている姿に笑いを殺す。 「過保護な親父を持ったもんだな、お前も」 「まったくだ。早くガーデンに戻らないといけないのにどうしてこんな…息が詰まりそうだ…」 溜息を吐く姿が…ほんの少し陽に当たらなくなったぐらいで透き通る様に白くなっていて…スコールの姿が嫌に頼りなく見える。 「で、病名はなんだったんだ?」 「…聞いて驚け。ストレス性の胃炎と良性のポリープが3つ、後は疲労による血流内のたんぱく質の減少と軽い貧血だ」 「マジでか?」 「本当だ…担当医に聞いた。なかなか言わないから聞いた後に誰に口止めされてたのか問い詰めたら…首謀者が判ったぞ」 「…ラグナだろ?」 「…当たり。ラグナの奴がどうしても休ませたいらしい…健康の折り紙が付くまで出さないって宣言されたよ…」 諦めた様に俺の横で開いてる窓の外を見ている眼差し。 初夏の匂いを少しだけ含んだ風がサアッと俺の横を吹き抜けてスコールの髪を揺らした。 「もう夏の匂いがする」 「そうだな…外はスゲェぜ?頭がイカれそうな位太陽が喧嘩売ってやがる」 珍しく肩を揺らして笑う姿を見ていた。 ふっと瞳を眇めたスコールが身体をゆっくりと横たえる。 「オイオイ…人がせっかく来てやってるのにテメェは寝るのかよ…」 呆れた俺に布団の端から出た手がひらひらと俺を呼んでいる。 「…最近薬のせいで変な夢を見る…手、握っててくれ」 「はぁ?!」 余りにも唐突な申し出に思わず声を上げるとムッと眉を顰めた。 「嫌ならイイ」 呟いて引っ込めようとする手を慌てて掴む。 「嫌なんて言ってねぇだろ?!お前はまず言わねぇだろう事聞いちまったからビックリしたんだよ」 「悪かったな…」 「悪ィなんてのも言ってねぇ。…そんなに眠れねぇのか?」 「…全然…」 「薬替えて貰えよ」 「言っても聞く訳無いだろ。それに医学は俺の専門外…医者に任せるしかないんだ…」 諦める様な小さな呟きだった。 俺よりもきっとコイツの方がイライラしてるんだろう…言いながら握った手に時折力が篭る。 「…で?俺はいつまで握ってりゃいいんだ?」 それ以上の追及は首だけ向こうを向いて布団を被った姿が拒絶してたからヤメタ。 「俺が眠るまで…寝入ってしまうまでで良い。そうしたら勝手に帰ってイイから…それまで握っててくれ…」 「見送りはナシって訳か…了解」 ただ黙って少し細くなった白い手を握っていた。 時々確認する様に強く握る手を強く握り返す。 布団の下から呻く様な声がする度に少し覗いてる髪を撫で、“俺が居る”と声を掛けた。 そうして1時間もしない内に手に力が入らなくなって…少し冷たくなっていく。 「相変わらず冷てぇ手だな…オヤスミ」 布団の中に手を戻してやって立ち上がった時。 バアン!!とドアが開いて何人もの医者と看護婦の白い群れが押し寄せて来て…居場所も無く、だんだん端に追いやられながら…布団を剥がされ、白い胸に訳の解らない器具が取り付けられるのを、ただ、ただ…見ていた。 ───白く浮き上がる様な墓標に黒く掘り込まれた文字は初めて見た時よりも少し薄れて。 その前に手向けられた二つの大きな花束。 「早ぇな…もう5年経つんだな…」 「そんなになるかな…早いなー…」 風が優しく花を揺らしていた。 『サイファー…』 今もココに居るスコールは俺達が来るのを毎年待っている。 だから俺達は…毎年この日に誰よりも早くこの場所へ。 空はあの日のように…ただひたすらに青い。 †END† 何と言うか…どうも痛いです…(滅 改稿しつつ、またも自分で凹みました。 つーかこれといい『最後の言い訳』といい…私って結構Dead物スキーさんなのかも知れないなぁと思ってしまったり。 読むのは苦手な癖して書くのは好きってのはどうよ? どうなんだよ、自分…と小一時間問い詰めてみようと思います(縛 Manuscript change:H15.08.17 |