『ロタティオン』






太陽が
空や海や大地を紅に染めながら
地平の向こうに消えていく

この世で一番長く闇が支配する日


だからなのか

暗黒に沈むを恐るるは
太陽に焦がれ治まらないは
暗闇に魅かれ止まないは

だからなのか

闇の中に佇む姿から目が離せない
打ち消されぬ強い輝きに魅かれる
誰にも穢されぬその白さに触れたくなる

だからなのか…






そこまで書き殴って…破いて捨てた。
これじゃまるで熱烈なラブレターだ。
例え書かれてる当の本人が気付かなかったとしても…もしも、万が一、これを見た敏い奴らは口にするだろう。
部屋の窓から見える赤い光がどんどん闇に飲まれていくのを見詰めながら転がしたペンをもう一度取った。





赤き光は地上の断末魔
黒き闇は優しき子守唄

眠れ 眠れ
深く眠れ

まだその時は遠い

眠れ 眠れ
深く眠れ

暁に吼える
獅子の夢を見よ


蒼き森に眠る子よ
白き大地に意味を聞け

踊れ 回れ
運命の輪よ

交わる場所は遥か彼方

回れ 紡げ
運命の輪よ

闇に飲まれる
焔の歌を聴け





「アンタが机に向かってるなんて珍しいな」

その声に我に返って振り返るまでも無く、脇から伸びてきた手が俺の前からソレを奪い取っていく。

「“赤き光は地上の断末魔”…?」
「返せ」
「何なんだ、コレ」

見られても、多分コイツには解らない。
だが見られるのは気分の良いもんじゃ無い。
俺の憮然とした態度を気にも掛けないような口調で尋ねてきたその白き顔。
返答を待つその穏やかな表情に惹き付けられながら、軽く鼻を鳴らして抗議の意を露わにしてもコイツはまったく気がつく素振りも見せない。

「まったくテメェは激しく鈍いな…見られたくねぇからテメェが居ない時に書いてたんだろうが」
「…そうか。で、コレの意味は何なんだ?」

呆れて言葉も出なかった。
だがコイツのこの鈍さは今に始まった事じゃないのも重々承知の俺は諦めるしかない様で。

「さっきまで見えてたんだよ、ココから…丁度あの辺りにな」
「…夕陽の事か」
「ああ」
「じゃあその後の “暗き闇” と言うのは夜なのか?」
「それ以外に何が有る」
「…普通に書けばいいだろ。どうしてこういう回りくどい書き方するんだ…解らないな…」
「テメェな…俺の日記だ。俺の好きに書いて何が悪い」

続け様に問われる事に不貞腐れた様子をわざと露わにしながら、視線を床の上に落としてそう低く吐き出すように返す。

「俺が解らない」
「は?」

思わず疑問の意味をたっぷりと含んだ呻きが零れて、床の上を転がっていった。
例え激しく鈍いコイツだったとしても、その呻きが抱えていた疑問の意味は解ったのかもう一度さっきと変わらない音程で “俺が解らない” と繰り返されて。
全くコイツの思考は俺の書いてる詩のような日記よりも難解だ。
どこがどう繋がってそうなるのか理解に苦しむ時が多々ある。

「どうしてお前が理解する必要が有るってんだ?ソレは例えお前がそうは見えなくても俺の日記だ。俺以外が理解する必要なんてねぇだろうが」
「今日はアンタの誕生日だろ?」
「あ?…それが何だってんだ、関係ねぇだろ」
「有る。関係は有る」

そう言い切った癖してどう説明するかを考え、言いあぐねてる辺りが既に理解に苦しむ。
だがココで俺が切って捨てたらコイツはその後この件に関して一切口を開かなくなるのはもう解りきってる事だった。
だったら待つしか道は残されてねぇ。
俺はそれから暫く待たされる苦痛を味わいながら、マネキンの如く動かなくなったスコールが自分の世界から帰ってくるのをひたすらに待つしかなかった。

「今日はアンタの誕生日だ」

不意にパタンと俺の日記を閉じて、漸く戻ってきたスコールは確認するように口を開き始めた。
待ってるのは苦痛だが、こうしてコイツの中の世界に触れられるこの瞬間は散々待っていた甲斐が有る言葉を聞ける事が有る。

「そうだな」
「俺にはアンタが何を考えてるか解らない」
「らしいな」
「だから、アンタが生まれた日くらいはアンタを理解してみようと努力してるだけだ」
「…」
「だから俺が解らないのは困る」

そうして今回も俺は待っていた甲斐が有った訳だ。
今にも緩んで笑いそうになる顔を噛み締めた奥歯で噛み殺して。
険しくなってしまいそうな表情にほんの少しだけの笑みを表に出すとスコールが漸く安心したように肩の力を抜くのが解った。
コイツはいつもそうだ。
自分の中の事を人に伝えると言う事を酷く恐れる。

「なるほどな、そういう繋がりだったのか」
「ああ…だからもっと解りやすい言葉で書いてくれ。今だけで良い」
「俺を理解したいんだな?」
「今日くらいは」

そして一度安心すると今度はやけに防御が甘くなるのは弱点だと思う。
俺の問い掛けにもあっさりと言葉と共に頷いたスコール。
こういう無防備な反応は多分の俺以外が見る事などないだろう。

(相手が踏み込んでくると警戒を強固にする癖にな)

そうして俺はいつもその弱みに付け込む…コイツにしたら悪者の筈なのに。
どうしてそんなに無防備な顔を見せてしまうのか。

「 …仄白き城 気高き王の城
城壁を守る者もなく
面影は常に人を惹き付けて止まず… 」
「サイファー?」
「良いから黙って聞け…」

固まったように俺を見詰めて動かなくなるその姿が愛しい。
まるで意味不明の古代言語を用いた呪文を聞かされてるかのように戸惑った瞳が俺の名前を呼ぶ事でココが今、果たして現実なのかどうかを確かめているようだった。
立ち上がり、抱き寄せて…その耳元に謳う様に。

「 眠るは一人の王
恋しきかな 恋しきかな
求むは天の頂き

繁る緑 湛えた水面
色付く花を見る者はなく
滴る蜜は吸われる事無く溢れゆく 」

「ちょ…何やっ、て…」

「 綻ぶ紅花 揺れる風
愛しきかな 愛しきかな
望むは天の頂き 」

「止めろ、サイファー…わ、解らない…っ!」

「 眠る一人の王よ
見たまえ 己が前に頭付く者を
見たまえ 己が為に謳う者を 」

「バ、カ…」

「 それは常に共に有り
それは常に傍に有り
それは常に求め続ける者なり… 」

スコールはもう何も言わなかった。
ただ黙って唇を噛み締め、闇の中に何かを探すようにその眼差しを泳がせて。
感じる全てを曝け出す事を恐れながらも。










仄白き城 気高き王の城
城壁を守る者もなく
面影は常に人を惹き付けて止まず

眠るは一人の王
恋しきかな 恋しきかな
求むは天の頂き


繁る緑 湛えた水面
色付く花を見る者はなく
滴る蜜は吸われる事無く溢れゆく

綻ぶ紅花 揺れる風
愛しきかな 愛しきかな
望むは天の頂き


眠れる王よ
見たまえ 己が前に頭付く者を
見たまえ 己が為に謳う者を

それは常に共に有り
それは常に傍に有り
それは常に求め続ける者なり


眠れる王よ
救いたまえ その懐をもって
救いたまえ その眼差しをもって

それは闇に溺れる者
それは陽に焦がれる者
それは…愛を謳い続ける者なり





† Fin †





---あとがき---

ポエマーサイファーでした(何事
誕生日を祝う筈が微妙な世界を漂わせてしまいましたね…。
と言うかいきなり耳元でポエマー炸裂させながらセクハラするなって話で。
スコールが理解しようとしてくれるのが嬉しくて炸裂してしまったようです(他人事



writing:H15.12.19





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