『もうすぐ僕らは ふたつの時代を超える恋になる』






覚えてるよ。
…あの日もこんな風に寒い日だった。
キラキラ輝く栗色がもう見れないんだと…凄く悲しくて…悔しくて。
涙が拭っても拭っても止まらなかった…。



「アービン明日、暇〜?」

本来ならガルバディアガーデンに戻る筈だった僕はシド学園長の好意により、バラムガーデンの生徒として迎え入れられた。
今は専ら皆に追いつく為に正SeeDになる為の勉強中だ。
ガルバディアに居た時の成績とアルテミシアとの戦いの功績を考慮されて、実地試験はパスする事が出来た。
残る筆記をどうにか一度でパスしようと現在奮闘中。

(その位しなくちゃ皆に置いて行かれるばっかりだしね…)

今日も授業が終わった後、柄にも無いと思われるかも知れないけれど…図書館に篭って調べ物をしていた僕。
そんな所へセフィからの誘い。
デートの誘いかと二つ返事で答えたのに…行き先はショップの立ち並ぶディリングシティではなく、静かなバラムの町でもない。
決定的にショックだったのは二人きりでもないと言う事だった。



「セルフィ〜!」

トラビアガーデンはすっかり雪景色。
翌日の朝早くからラグナロクを駆り立てて連れて来られたのはセフィの母校。
…その無残な姿を見るのはこれで2回目になる。
決して諦める事をしない生徒達はセフィの登場でより活気付いた様に見えた。

「みんな元気やった〜?」

ラグナロクを降りた途端にあっと言う間に囲まれた笑顔は周りに明るい気持ちを感染していく。
その後ろ姿をスコールと二人で遠巻きに見ていた。

(セフィの笑顔はとびきり元気だもんね〜)
「アレは暫く動きそうに無いな…中で待機するか…」

スコールの独り言に苦笑しながら同意して、人垣に背を向けて今降りてきたばかりのラグナロクのタラップに足を掛けた時。

「アービン!班ちょとどこ行くの〜?!」

背中に投げられたその少し不安気な声に驚いて振り返る。
人垣を掻き分けてセフィがこっちに来ようとしていた。

「あっ!」

溶けかけた雪に足を取られて、細い腕が宙を掻く。
とっさの事だった。
伸ばした腕に触れた手が縋る様に捕まる。
僕は反射的にその身体を胸に抱き寄せていた。

(こんなに細かったんだ…)

腕の中に納まってしまった身体。

「えへへ、しっぱい〜…アービン助けてくれてありがとね!」
「あ、ううん。どうって事無いよ〜」

昔から変わらない笑顔がそこにあった。

「で、どこ行くん?」
「部外者は中で待機するだけだ」

改めて正面に立ったセフィが僕を見上げる。
後ろからの声に軽く笑いながら頷くとぷうっと膨れた。

「班ちょはともかくアービンもそないな事思うてたなんてショック〜」
「ショックって言われてもさ〜」
(困ったな〜…)

本当は嬉しいのにそんな事を考えた。

「あんたは向こうで待ってる奴らと存分に話せば良いだろ…俺達には関係ない」
「班ちょだけ中に入ればええやん!な、アービンは班ちょと無言でお茶したいん?」

助け舟を出してくれたつもりのスコールの言葉には少し棘が有る様に聞こえる。
その言葉に多分怒ってるんだろうセフィはワザとそんな風に言って。
…言われて少し考えた。

(そう言えばスコール、昔から無口で…今はそれに拍車が掛かってるんだよね〜…)

思わず首を横に振ってしまった。

「勝手にしろ」

どうやら怒らせてしまった様で。
スコールがタラップを上がっていく足音を聞きながら、セフィに手を引かれて輪の中に取り込まれる。

「セルフィ、誰やの?」
「アーヴァイン・キニアスです。ヨロシク」

隣に居た女子が僕の方をちらちらと盗み見ながら尋ねる声に帽子を取って挨拶すると男子から非難の視線を浴びた。

(どうして初対面でいきなり嫌うかな〜…)

帽子の影に溜息を落として、頭の上に封印すると笑顔を作って何事も無い様に顔を上げる。

「アービンはうちの幼馴染やねん」

嬉しそうなセフィの言葉に多分セフィの事が好きなんだろう…一部の男子の視線がよりきつくなる。
女子からは“きゃあ”と言う声が上がった。

(違うんだよ〜…本当にただの幼馴染なんだよ…悔しいんだけどさ〜…)

視線の意味も、黄色い声の意味も理解して無いセフィは楽しそうにニコニコ笑ってる。
やがてやっぱり僕は居なくても良かったんじゃないかと思えるくらいに皆と熱心に話してる横顔をぼんやりと見ていた。
その横顔は僕の視線に気付く事無くこっちを見る事もしない。
何だか切なくなって…気付かれない様にそっと輪を抜けてガーデンの中を彷徨った。
大きく崩れた瓦礫はまだそのままだったが、小さなものは既に片付けられていて。

(前に来た時よりも綺麗になってる…)

一通り見回して行く所も無い僕は仕方なくセフィが居る場所に戻ってきた。
元エントランスだった場所の片隅に忘れられた様にポツリと有る風雨に晒されて古ぼけているベンチを見つけて腰を下ろし、暫く俯いて…空を見上げる。

(…あ…リスだ)

冬の合間の小さな春を満喫しに出てきたのだろう。
細い木の枝の上で大きな尻尾をせっせと整えていた。
小さく微笑んでまた俯く。
暫く静かに座ったまま遠くの笑い声を聞いていた。
少し顔を上げてその笑顔の中心を見つめる。
栗色の髪が輝いていた。
その笑顔はもっと輝いていて。

(好きだと言えない僕と、気持ちに気付かない君ではどっちが悪いんだろうね?)

いつも前向きで好奇心一杯の瞳。
見ているこっちまで思わず笑顔になってしまう君の笑顔。
そんな君の魅力に僕はずっと惹かれてた。
それでも気持ちを伝えられないのはその笑顔を守りたいと思うから…。

(違う…そんなカッコイイもんじゃないよ…好きだと言って拒まれるのが怖いだけなんだ…)

あの時…一度君を見失った僕は毎日泣いていた。
泣いても、泣いても…もう君は居ない。
笑ってもくれない。



ねぇ…?
君は覚えてるかな…。
あの日僕らは約束したんだよ?
君が行ってしまう前の日に…。

『僕、大きくなったらセフィを探すよ。
どんなに大変でもきっと見つけるから…また逢えた時には二人で海に行こう。
セフィに貝殻のネックレスを作ってあげる。
その時ちゃんと“僕のお嫁さんになってください”って言うから…』

あの日、君は“待ってるね?”と笑ってくれた。



…もうずっと昔の事。
君が忘れていても僕は君を責められない。

(責められる訳が無いよ…)

キラキラ輝く栗色が人影から見え隠れするのをただ見ていた。
…それもつかの間…連日の勉強のせいだとは言いたくないけれど…暖かい陽射しに眠気が襲ってきて…動きそうに無いセフィに苦笑しながらベンチに体を倒してテンガローハットを顔の上に乗せた。





「…きて…、起きてよ〜…アービン!起きてってばっ!!」

帽子を持ち上げて少し怒ってる顔に“おはよう”と返す。

「おはようちゃうよ!もう班ちょは用事済ませたんやで?後はアービンだけなの!」
「あはは…ゴメン、つい暖かくてさ〜」

言い訳しながら体を起こして立ち上がるや否や腕を掴まれてぐいぐい引っ張っていかれる。

「ちょ、ちょっと、セフィ?どこ行くんだよ〜…」
「海!」
(海?)

訳も解らぬまま引っ張られてトラビアガーデンの近くの海岸へ。

「…で、僕は何をすればいいの〜?」
「一緒に貝殻集めて欲しいねん」

その笑顔と言葉にドキッとした。

(もしかして…覚えてくれてたの…?)

呆然としてしまった僕に“動く!”と声を掛けてセフィはせっせと貝を集め始めた。

(…違うよね…偶然だよ…ただの偶然。あんな昔の事、覚えてる訳ないから…)

自分に言い聞かせて貝を集める。
それでも一つ拾う度に鼓動が大きくなっていく。

(だ、駄目だ…僕、緊張してきた…)

貝を集めるセフィの姿が視界に入る度に眩暈を起こしそうな気分になる。
どの位集めるのかも解らないまま…その内手に持ち切れなくなって帽子にそれを入れていく。
帽子にどんどんと集まっていく貝。
それは僕の気持ちの様。
いつまで集めるのか、いつまでこうしているのか、どの位集め続けてしまうのか…解らない。

「アービン!どの位集まった〜?!」

どのくらいそうしていただろうか。
不意に掛けられた声にハッと我に返って貝を集めた帽子を抱えたまま立ち上がる。
離れた所で手を振ってるセフィの姿を見つけて胸が愛しさで一杯になった。
動けない僕にどんどん近づいて来る笑顔。
目の前まで来た栗色の輝きに彩られた笑顔が帽子の中を覗いてる。

(この手が開いてたら…このまま抱き締めてしまいそうだ…)

聞こえてしまいそうな位大きく煩い鼓動。

「どないしたん?顔、メッチャ赤いよ?」

ふ…と顔を上げてセフィが僕の表情を覗き込む。
恥ずかしくなって首を横に振って俯いた。

「何でも無いよ」
「ん〜?何でも無い顔ちゃうやん!熱でも有るん?」
「ううん、本当に大丈夫だよ〜…」

動揺してる気持ちを抑えてワザと明るく振舞う。
ちょっと位無理してでも“笑わなくちゃ”と思う。
僕の望みはセフィの笑顔。

(君が笑ってくれるならそれで良いんだ)
「所でこの貝はどうするの〜?」
「ん?繋いでネックレスとかブレス作んねん。もうすぐクリスマスやろ?せやから年少の子らにプレゼント〜!」

光が差す様に笑顔が戻ってくる。

「ラグナロクに戻って班ちょにも手伝ってもらわんと間に合わへんよね…アービン、戻ろ!」
「うん」

キラキラ輝く栗色の笑顔。

「セフィ、好きだよ」

遠ざかろうとする背中に思わず呟いた。
…背中は振り返りもせずにどんどん先に歩いていく。

(やっぱり聞こえなかったか…)

淋しい様な…それで居て少しホッとしてる僕が居る。

(ギクシャクしたりするよりは…僕だけの中に納めてる方が良いよね…)

そう自分の中で決着を付けて…自嘲してもう大分遠くになっていた背中を追いかける為に足を踏み出した時。

「セフィ?!」

突然背中が消える様にしゃがみ込んだ。
慌てて小さくなってる背中の元へ。
貝を落としたという訳でなく、足元に何か有る訳でもない。
それでもセフィは俯いたまま動かない。

「…どうしたの?!どこか痛いとか…えっと…セフィ?」

理由が解らなくておろおろしながら声を掛けてみる。
それでも俯いたまま。

「…約束しとったけど…いきなり言うからうちどないしたらええか…よう解らん…」
「え…?」
「アービンの顔、よう見られへんよ…うち、どないしたらいいん?何て言うたらええ…?」
(聞こえてたんだ…それに…約束、覚えてた…?)

声が出なくなった。
頭が真っ白になってて…僕もどうしたら良いか良く解らなくなっていく。
でも。

「…そのままでいいよ。今まで通りでいい。…セフィは笑ってくれたら…それだけでいいから」

小さくなったままで顔も上げてくれないセフィの笑顔がただ見たかった。
出来れば一番近くで。
昔みたいに同じものを見て、笑って居られたらそれだけでいい。
それだけは伝えたかったから。

「それでええの?今まで通り一緒に笑ろてたらええの…?」
「うん」
「解った。何かえらい恥ずかしいけど…うち頑張るわ!」

頬を染めた笑顔が僕を見上げた。
今までに体験した事が無いほど愛しくて。
思わず抱き締めた細い体が腕の中で小さく身じろぐ。

「笑ってる元気なセフィが好きだよ。元気が出ない時は僕が笑える様に…元気になれる様に頑張るから、セフィの一番近くに居ていいかな…?」
「…うん…アービンならええよ…一緒に居ってな?」
「うん」

腕の中で…すぐ近くでセフィが恥ずかしそうに笑う。
その衝動はごく自然に湧き上がって来て…顔を上げた愛しい笑顔を愛で、指先に触れた唇に釘付けになっていく。





「セルフィ!アーヴァイン!どこに居るんだ?!」

遠くでスコールが呼んでる声がして、我に返った。
途端に恥ずかしくなって慌てて離れる。
チラッと盗み見たセフィも何だかもじもじしてて…一緒の気持ちだった事に嬉しくなる。

「スコール心配してるみたいだし、戻ろっか?貝のネックレス作らなきゃだしね〜?」

何も無かった様に笑い掛けると、セフィも笑って頷いた。
差し出した手を繋いで、昔みたいに並んでスコールの所へ…。



僕らは多分これからもこのまま。
でも急ぐ事はない。
僕の傍で君が笑ってる。
これほどの幸せは僕には無いんだから。





†END†





---あとがき---


うーん、健全だ…(笑)
実はノーマルCPの中でアーセフィが一番好きです。
幼馴染の恋って近いようで遠くて近付きたいのに近付けない様な微妙な葛藤とかあったりするんで結構それにも萌え〜゜

サイスコと同時期にハマったCPは未だに私の心をこそこそとくすぐっていきます(笑)



First writing:H14.12.24
Manuscript change:H15.08.18




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