哀しみ特効薬
神の祝福を蹴飛ばして、愛された神の子は万魔の王となる道を選んだ。
道はあった。神の御許へ傅く道も、人であり続ける道も、すべてから逃げ出す道もあった。
けれど彼はそれらの道を選ばなかった。
慈悲だの自主性だのと言いながら、手を差し伸べることもしない神に傅くことを拒んだ。
人であり続けるということは、またいつか同じことが繰り返されることだと悩んだ。
すべてを知ってから投げ出すことは、どうしても出来なかった。

だから彼は自ら身を差し出す選択をした。

嘘だよね、とユズの唇が動いた。ミドリの眼が驚愕にだろうか見開かれた。ケイスケの表情が、どこか諦めたように曇った。
それで、ああ、さよならだ、と思った。
走り去っていく彼らの足音を聞いて、覚悟をしていたくせにどこか哀しくなる。
眼を閉じて、もう一度開ける。道は選んだのだ。もう戻ることは出来ない。
けれど意を決して歩を進めたレンを優しい声が呼び止める。

「レン」

え、と思った。友達思いの優しい親友は、きっとあの足音と共に駆けていったと思っていたのに。
どうして、と訊ねるより早く、親友は言った。

「お前はそれでいいのか?」

それは非難ではなく、確認だった。
封鎖が決行されてから日を追うごとに、静かな街には悪魔の声が響くようになった。喚くような、悲鳴のような、それ。今もどこからか聞こえてくる、それ。
本能に近い彼らの言葉は、やはり本能に一番近く届くから、どうして我らは悪なのだと泣き叫ぶから。天高く美しい空で歌を歌い、限られた祝福を時折人に落としていくだけの神なんかに膝を屈したりしたくない。
ベルの力を取り込むに連れて神魔の声はまるで耳元で囁くような音で聞こえてきた。
天使は人の愚かさと悪魔の不要さを、悪魔は天使の非情さと人の愚かさを。
アマネと話した時、彼女の中の天使は言った。悪魔は人を誘惑し堕落させる為に作られた存在だと。その時の憤りを覚えている。悪として作られた存在は、では悪でなくなったらどうすればいい。悪でいなければならないというのか。そして言うほど天使は、人に、生きとし生けるものに慈愛を注いでいるのか。
吐き気を覚えそうな感覚に眉根を顰めていると、アツロウが不安そうに顔を覗き込んできた。
少しの動揺を押し隠しながら頷けば、そうか、と返され、そっと手を握られた。
それが何を意味するのかわからなくて首を捻る。

「お前が選んだなら、オレもいくよ。」

それきりアツロウはそのことについて何も言わなかった。
繋いだ手の温度に何故か慰められているような気になって、レンは苦笑を浮かべることしか出来ない。
本格的に動くのは明日からだとナオヤに言われ、その言葉と共にキーケースが渡された。それがナオヤのマンションの鍵だとすぐに理解し、同時にそこで休めと言うことなのだと納得する。レンも、アツロウも、今更皆と仲良く避難所に身を寄せることは出来ない。
ありがと、と形ばかりに礼を言って、歩き出す。ナオヤもカイドーもやらなければならないことがあるらしいので、マンションへ向かう足音は二つきりだ。
本当なら、一つきりだったはずの足音。
ちらりとアツロウの様子を伺うと、彼は普段とまったく変わらない様子で歩いていた。本当にわかっているのだろうか、レンが魔王になるということがどういうことか。それについてくるということがどういうことか。
疑問が表情になって出ていたのかも知れない。アツロウが小さく噴出して、それから歩を止め向き直った。

「オレにとってはさ、お前がそばにいるかいないかの方が重要なの」
「ええ?」
「魔王になったって、救世主になったって、お前はオレの友達で、一等大事な人で、」

繋いだ手が引かれる。
抱きしめられて、夏場だというのに、あたたかい、と思った。

「お前は水城蓮以外の何者でもない」
「…オレ以外にはなれないからね」
「うん、だから一緒に行く」

万魔を従えその頂点に立つより、神の御許に傅き人を正しき道へ導くより、未来にあって欲しいものは彼と共に笑える自分。
他他の大事な人も、同じ道を行く人も、たとえば封鎖中のすべての人も、生きて笑って欲しい。自分だって笑っていたい。
そこに行き着くまでに相当な時間がかかるかもしれないけれど、とにかく、道を違えた人や巻き込まれた一般人はレンが魔王となり封鎖が解除されれば一応の平穏が訪れるはずだから、多少なりとも笑うことが出来るようになるだろう。
その時にはレンだって笑えると思う。神と戦う日々がやってきたとしても、たとえそれが苦しいばかりの出来事の連続でも、一人で歩むつもりだった道を、一人ではなく歩んでいけるから。

「アツロウはオレの哀しみを取り除く天才だね」

そう言って、後に魔王となる彼は笑いながら親友の頬にキスをした。

              


うちの小説では初ちゅー。…や、特に深い意味はないんです、主人公には、ね!アツロウにはあるだろうけど。ちなみに口ちゅーでも出来ます。深い意味がなくても(どうなのそれ)。
うちの主人公は仲魔になった子とえらく親密に接しているので悪魔が悪だと言い切る(?)ことに疑問があるのです。天使系の子もそうだと思うけど、根本的に神に疑問を持ってるので天使のよさを知っていても魔王になっちゃう子です。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル