気の向くまま |
魔界には数多く魔王と名を冠する者がいる。 力の大小は様々で、魔王だからとすべてが同列で強い訳ではないけれど。 キングフロストやヘカーテやアスタロトだってそうだし、紫色をした趣味の悪さを象徴するようなスーツ姿をとって、今レンの隣にいるロキだってそうだ。 どうして同じ名を冠しながら、彼らは自分の元にいるのだろう、と疑問に思ったのは今回が初めてではない。 けれどあえてそれを口にしなかった。付いてきてくれるならそれでよかったし、情もある。ロキに関しては微妙だが、戦力という点においては頼りになる。 未だ神との争いは続いているのだ。 胡散臭い外見や口調に倣うように、ロキはこれまた胡散臭そうに紅茶を飲んでいる。ロキは存在自体が胡散臭いから、何をしていたってどこかおかしいのだけれど、ただ紅茶を飲んでいる仕草ですら胡散臭いと思えるのだから、これはもう笑うしかない。 「何か面白いことがあったのかい?」 訊ねられて素直に答えてやる気はなく、なんだと思う?と曖昧に返す。 「答える気はないってことかな?」 その言葉を鼻で笑い飛ばして、紅茶と共にテーブルに置かれたクッキーを一つ摘んだ。 「ねえロキ。ベルの王って魔王の中でも特別なの?」 クッキーを噛み砕き嚥下した後、ふと思って訊ねてみた。 「そうだねぇ…特別ではあるけど、僕にとってはそこまで特別じゃあないかな」 カップの中の紅茶を飲み干してソーサーに置く。おかわりはいるかい?と言われたので頷くと、いやに恭しい動作で紅茶が注がれた。 「二杯目だからね、ストレートよりミルクを入れた方がいい」 そう言って、ロキは勝手にミルクを入れて、普段レンが入れるより一粒多く砂糖を入れた。マリが好んで手に入れてきた砂糖は星やらハートやらの形をした小さなもので、一粒多く入れてもさほど甘すぎる、ということはなかった。 「そうそう、僕にとって君が特別なのはね」 唐突に話が戻されて、カップを口につけたままレンは数度瞬きをした。 「ベルの王だからじゃない。君がベルの王だからなんだよ」 それはア・ベルの因子を持つ、という意味なのだと思う。 ふう、とため息を一つ吐いて、いつの間にか空になっていたロキのカップを手に取り、先ほど彼がしたように、おかわりは?と訊ねた。 「本当に君はおもしろいねぇ」 気が向いただけだ。他意はない。気が向かなければ頼まれたってロキなんかに紅茶を注いでやろうなんて思わない。 「高くつくからね」 相変わらずの胡散臭さで言うものだから、レンはばかじゃない?と呆れるしか出来なかった。 「でも、君がベルの王にならなかったら、ア・ベルの因子を持ち選ばれたのが君じゃなかったら。そのどちらがかけていても僕はここになんていなかったよ」
きっとうちのロキは主人公のことがほんとに好きなんだな。…と書いてて思った(え!) 2010/10/26 改訂
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