気の向くまま
魔界には数多く魔王と名を冠する者がいる。
力の大小は様々で、魔王だからとすべてが同列で強い訳ではないけれど。
キングフロストやヘカーテやアスタロトだってそうだし、紫色をした趣味の悪さを象徴するようなスーツ姿をとって、今レンの隣にいるロキだってそうだ。
どうして同じ名を冠しながら、彼らは自分の元にいるのだろう、と疑問に思ったのは今回が初めてではない。
けれどあえてそれを口にしなかった。付いてきてくれるならそれでよかったし、情もある。ロキに関しては微妙だが、戦力という点においては頼りになる。
未だ神との争いは続いているのだ。

胡散臭い外見や口調に倣うように、ロキはこれまた胡散臭そうに紅茶を飲んでいる。ロキは存在自体が胡散臭いから、何をしていたってどこかおかしいのだけれど、ただ紅茶を飲んでいる仕草ですら胡散臭いと思えるのだから、これはもう笑うしかない。
争いが続いていると言いながら暢気にテラスで紅茶を飲んでいる自分も相当おかしいのだと自覚して、カップを持ったままレンは肩を揺らした。

「何か面白いことがあったのかい?」

訊ねられて素直に答えてやる気はなく、なんだと思う?と曖昧に返す。
ロキは片眉を吊り上げて、おかしそうに笑った。

「答える気はないってことかな?」
「よくわかったね」
「僕も今は君に傅く悪魔の一人だからね。王の考えることくらいは」

その言葉を鼻で笑い飛ばして、紅茶と共にテーブルに置かれたクッキーを一つ摘んだ。
傅くなんてとんでもない。大体魔王と呼ばれる者たちは大抵が尊大で、ロキなんかその最たる存在だ。
城の一室を与えてはいるものの、その部屋にいることの方が少ない。レンの部屋に主の許しなくあがりこんでくるか、大抵はどこかへ姿を消しているのだ。
おそらく北欧のトリックスターと呼ばれた彼らしく、敵に味方に気が向いた時だけ気が向くことをしているのだろう。そのことを別に咎めるつもりはない。だってそれが彼なのだ。

「ねえロキ。ベルの王って魔王の中でも特別なの?」

クッキーを噛み砕き嚥下した後、ふと思って訊ねてみた。
ゲームや神話で特別視される悪魔と言ったら普通はルシファーを一等先に思い浮かべる。一般的認知度が高いだけあって、やはり力は強かったし、ロキですら『あの方』と言葉を変えた。
それなのに、何故彼はレンの元にいるのだ。
今やレンはそのルシファーすら従えてはいるものの、それだけが理由とは思えなかった。

「そうだねぇ…特別ではあるけど、僕にとってはそこまで特別じゃあないかな」
「じゃあなんでオレと一緒にいるの?」
「君のことが好きだからだよ?」
「…いつも以上につまらない冗談だね」

カップの中の紅茶を飲み干してソーサーに置く。おかわりはいるかい?と言われたので頷くと、いやに恭しい動作で紅茶が注がれた。

「二杯目だからね、ストレートよりミルクを入れた方がいい」

そう言って、ロキは勝手にミルクを入れて、普段レンが入れるより一粒多く砂糖を入れた。マリが好んで手に入れてきた砂糖は星やらハートやらの形をした小さなもので、一粒多く入れてもさほど甘すぎる、ということはなかった。
一杯目の紅茶で舌が馴染んでいる分、その甘みは心地よいものだったけれど、それを言ってやるのはなんだか癪で、レンは黙ってそのまま紅茶を飲んだ。

「そうそう、僕にとって君が特別なのはね」

唐突に話が戻されて、カップを口につけたままレンは数度瞬きをした。

「ベルの王だからじゃない。君がベルの王だからなんだよ」
「それって同じじゃないの?」
「君であることが重要なんだ。君のお兄さんだってそうだと思うよ?」

それはア・ベルの因子を持つ、という意味なのだと思う。
いつかロキは言った。神の子として作られ、人の子として生まれ、ベルの王となり、神へ牙を剥く。それを愉快だと。
何が楽しいのかはわからないけれど、とにかく彼は魔王としての力の強さではなく、純粋に自分の娯楽の為にレンの元にいるのだろう。そして好き勝手に行動する理念もそこにある。完全な愉快犯。
他の魔王たちの思うところまではわからないけれど、とりあえずロキの場合はそういうことなのだろう。
気の向いたことを、気の向いただけ。さすがトリックスター、と心の中で呟いた。
神との戦いではそんなことを言っていられないけれど、レンだって普段は同じようなものだ。だからロキといて苛々するのは同族嫌悪というもので、どこか気が楽なのも、同族であるからだ。

ふう、とため息を一つ吐いて、いつの間にか空になっていたロキのカップを手に取り、先ほど彼がしたように、おかわりは?と訊ねた。
どこかおかしそうに目を細めてロキが頷いたので、やはり同じように恭しくカップに紅茶を注ぎ、彼にはミルクだけを入れた。

「本当に君はおもしろいねぇ」

気が向いただけだ。他意はない。気が向かなければ頼まれたってロキなんかに紅茶を注いでやろうなんて思わない。
そこまでの馴れ合いをするべき相手でもない。

「高くつくからね」
「お返しは愛情でもいいのかな?」

相変わらずの胡散臭さで言うものだから、レンはばかじゃない?と呆れるしか出来なかった。

「でも、君がベルの王にならなかったら、ア・ベルの因子を持ち選ばれたのが君じゃなかったら。そのどちらがかけていても僕はここになんていなかったよ」

              


きっとうちのロキは主人公のことがほんとに好きなんだな。…と書いてて思った(え!)
つかず離れずな感じがいいと思うんですが、ロキさんからはくっつきすぎ。主人公の方がドライだ。…対アツロウとの差がひどいよ!(笑)
でもどうやら佐倉さんはロキが好きなようです。胡散臭い大人大好き!(待て)

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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