いっそ傲慢なほど。
愛しているよと紡がれた言葉は、決して自分以外の誰かの為ではなかった。
無機質で冷え切った低い声に、掠れが混じる。
だから何も考えず、レンはその手に縋り付いた。
自分が彼の求めたア・ベルの因子を持つ者であることも考えなかった。
何かを考えれば、すべてがマイナスへと向かってしまうことを知っていた。

レンは相当にマイナス思考の持ち主で、それを自身でも理解していた。
良いことがあっても次には悪いことがあるのだと怯えたし、悪いことが起こればきっと畳み掛けるように悪いことが続くと思った。
だから自分に向けられる心地よい感情も、それを素直に受け取ることが本当に難しかった。
諦め癖がつき、曖昧な笑みばかり得意になった。
ただ、誰かと自分を比較して卑屈になるということだけは嫌だったから、ナオヤに対してもそう言った態度にはでなかった。
天才と呼ばれるほどの頭脳を持ち、美しく整った造作をして、いつもすぐ傍にいた彼。

けれど彼は、本当にレンの傍にいたのだろうか。ア・ベルでなく?

城の中にはお気に入りの場所が幾つかある。
晴れた日のテラス。バルコニーの柵の上。悪魔たちの集まる広場。
その中の一つであるナオヤの部屋のソファに寝そべってウォークマンを聞いていた。
アツロウに頼んでダウンロードしてもらった好きなアーティストの曲。バラードばかり聴いているのは、すぐ近くでパソコン画面ばかりを見ているナオヤに煩いと言われたくないからだ。
友人には気配りが出来ると言われたけれど、それは違う。面倒だからだ。余計な面倒はなるべく回避するに限る。
ましてこの従兄であり、彼の言葉を借りるなら兄であった男相手では口で勝てる訳もない。力を使えば口喧嘩よりは勝算はあるかもしれないけれど、無駄に力を行使して後で嫌味を言われるのも修理に借り出されるのも嫌だ。
だからなるべく音量を下げて、耳障りではないバラードばかりを聴いている。
そんなことをしてまでナオヤの傍がいいのか、ともしも誰かがレンに問うたなら、レンは即座にソファの寝心地の問題だと返しただろうけれど。
ソファだけの問題ではないのだとどこかで理解もしていた。

「ねえナオヤ」
「…なんだ」
「カフェオレ飲みたい」

ぴくりとナオヤの肩が動いたような気がした。
ミルクを多めに、砂糖は一つ。カップは持ちやすい取っ手のもの。膨大な知識の仕舞われているナオヤの脳の中にはレンの好みもインプットされている。
わかった、と言うナオヤの声は決して大きなものではなかったけれど、音量を小さくしていたお陰でしっかりと聞き取れた。
言われるまましばらく待つと、やはり好みそのままのカフェオレを手渡された。

「お前は卑怯だ」

と言う台詞と共に。
思わず、はい?と訊ねる。今の状況で言われるようなことではないと思って訊ねたのだが、ナオヤにしてみれば、まさに今だから口にした言葉だった。

「そう言えば俺が作ってくれるものだと傲慢なまでに信じている」
「…うん」
「そう言われれば作らない訳にいかなくなるともわかっているのだろう?」

ああ、なるほど。と思った。
無意識の甘えが未だ残っているということだ。
ア・ベルであれ、レンとしてであれ、ナオヤが自分に優しいことを知っている。
優しくされて、自分がア・ベルだからなのかと疑心を抱いても、優しいことには疑問を抱かない。
確かに傲慢だとも卑怯だとも言われたって仕方がないな、と猫舌な自分にも飲みやすい温度に作られたカフェオレを口に含みながら納得した。

「否定の言葉はいらんぞ」
「うん。言う気もない」

こくりこくりと飲み干してカップをナオヤのパソコンの隣に置いた。
先ほどそうしていたようにソファに寝転がると、先ほどにはなかった睡魔が身体を襲う。魔王になってからは平気で何日でも起きていられるし、睡眠自体をあまり必要とはしなかったけれど、気が緩むと今まで通り眠くなった。
本格的に寝てしまおうとヘッドフォンを取り頭元に置く。空調が聞いた室内はかけるものがなくても風邪を引くことはないのに、ナオヤは再び立ち上がり、いつも彼が羽織っている上着をレンにかけた。
部屋以上にナオヤの匂いの染み付いた上着の中でもぞもぞと体制を整え、レンはゆっくりと睡魔を手繰り寄せた。

「愛しているよ」

レンの髪を梳きながら彼が言ったのを、薄れ行く意識の中で聞いた。
考える、という動作が難しくなっていたからか、ア・ベルにではなく、自分に言ってくれたのだと信じることが出来た。
起きたら、今までのどのア・ベルの因子を持つ人間よりオレは上等な駒だろう?と笑ってやろうと思った。
だからア・ベルと呼ばないで、レンだけの名前を呼べ。

「…知ってる」

小さく答えてそのまま眠りに落ちる。
その言葉に、ナオヤが呼気だけで笑った。

              


ナオヤが愛してるとか言ったらきもい。…とか思っても胸の中にしまっておいてください。
拍手からのリクで魔王ルート後のナオ主と言われたのでそのつもりで書いたんですが、予想外に甘くなりました(がくり)。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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