愛してあげる。
悪魔たちの嘆きが聞こえる。
悪として作られ、悪としてしか存在を許されない悪魔たちの悲痛な叫びがレンの脳裏に木霊する。
選ばれたものだけの楽園を約束する天使たちは最初から選ばれないものとして作られたものの痛みを知らない。
堕天した御使いですら、その為に作られたのだと割り切ることの出来る優秀な神の駒。神に疑問も抱かない愚かな天使たち。
神に愛されるということは無能になると同義だ。
そのように作られたからと役目を果たす為だけに生きる天使がいっそ哀れに思えた。

だって完全な悪も完全な善も本当はこの世にありはしないんだ。

本能に忠実で、真っ直ぐに生きる様は原始的で、だからこそ純粋とさえ思えるのに、彼らはそれを知ろうとしない。
悪と括られ、それ以外の意味を持たないものとして悪魔たちを見、ナオヤを見、レンを見る。絶対者を崇めぬ異端者として。
神性も魔性も兼ね備えた人間であったはずの現魔王を見ても、彼らは何も感じない。ただ今はもう神の言葉に耳を貸さない愚か者と認識をして、そう作られたのだと思い込んでいるのだ。
すべてが定められたことだと。過程も結果も、すべては神の意思のまま動いているのだと愚かにも信じている。

ばかみたい、と口の中で呟いて、指先に力を込めた。
拳銃を模すようにして指先から力を放つ。数メートルは先にいたはずの天使が、肉塊へと姿を変えた。
後ろにはクーフーリンが控えているし、それ以外の悪魔たちも戦っている。盾も剣も戦力となるものすべてを注ぎ込んで望んだ戦いだ。戦力の差は歴然としている。
相手だけを見れば、こんな戦いにベルの王であるレンが赴く必要はない。けれど彼らは魔界へと足を踏み入れ、レンの愛する悪魔たちを蹂躙した。

助けて、王、と力弱き悪魔が叫んだのを聞いた。

レンが望めば悪魔たちの言葉はすべて耳に届くし、悪魔たちが強く望めばその言葉はレンに届く。もちろんその逆も出来る。とにかく消される寸前、悪魔は必死にレンを呼んだのだ。
もちろん中心地にいるレンがその言葉を聞いた時にはすでに遅く、その悪魔は息絶えていたのだけれど。
それからの行動は早かったと自負出来る。強い悪魔数体を差し向ければ良い程度の相手に総出で出撃し、圧倒的な力で淘汰する。
この辺りで一度、大いなる力を見せ付けなければ、愚かな天使たちは喜び勇んで魔界へやってくる。無駄な小競り合いを何度もするより、一度力の差を教え、馬鹿なことをしようという気すら起きないように。
案の定天使たちは浮き足立った。魔界に足を踏み入れたとは言え、まさか王直々に戦陣に立つとは思っていなかったのだろう。
思いの外簡単だった。統率の取れなくなった天使を屠るのは。
力すべてを出し切らなくても勝てた。ただ、レンたちの底の見えない恐ろしさに天使たちが怯えていく様が愉快だった。

(お前たちが殺した悪魔だって怖かったんだ。)

天使と悪魔は相容れないもので、悪魔の王が神に戦いを挑んでいるのだ。これは戦争だし、戦争というものにルールはない。
だから、力弱き悪魔がそれより大きな力を持つ天使に殺されたとて、仕方のないことだ。どんな卑怯な手を使ったって許される。これは戦争なのだから。
けれどそれを魔界の王であるレンは許さない。

「クーフーリン、天使たちを」
「…はっ」
「ゆっくり時間をかけて殺してあげて」
「承知した」

戦場にあるまじき嫣然とした笑みでレンは言った。
クーフーリンはレンの言葉通り動く。恐怖を与え、魔界へ足を踏み入れたことを後悔させるように、じわりじわりと天使を殺す。
それは獲物を甚振る捕食者にも見えたかもしれない。そうであれと命じたのだ、それでいいと思う。
レンを主と呼ぶ、強く美しい槍の使い手。そう彼もまた、純粋がゆえに美しい魂の持ち主だ。ゲイボルグを奮い戦場に舞う姿は神々しいほどに。
レンも向かってくる愚かな天使を一つずつゆっくりと打ち倒してゆく。圧倒的な戦力差を精々神に伝えるといい。下手に魔界へ足を踏み入れるとどうなるか、身を持って知るといい。

「BANG」

レンの一言で、すべての天使たちは倒れた。
内臓を撒き散らし、血で羽を染め、そこら中に倒れる天使の群れ。眉を顰めてもいいほどの凄惨な光景だと言うのに、何の感慨も浮かばない。それを少し悲しいと思う。
槍を収めてクーフーリンが呟いた。

「愚かな…」
「…クーフーリン?」
「神にどれほどの価値があるというのだ」

吐き捨てるように言ったクーフーリンの言葉は、確かに偏見に満ちているのだと思う。レンの側にいなければ、彼だって神の駒として戦っていたかも知れないのだ。
愚かだとレンが思うのも、彼が言うのも、結局は偏った見方でしかない。
振り返ったクーフーリンが、目の前に跪く。お疲れ様、と言うと、彼はいつもそうするようにレンの手を取り口付けた。

「主の身に危険が及ばなくて良かった」

所々天使の返り血が付いてはいるものの、怪我と呼ぶほどのものは負っていない。
それは当然と言えば当然のことだった。見せしめに出陣してわざわざ怪我を負うなどすれば、何を言われるか。けれど絶対はない。だからクーフーリンもどこか安心したようにそう笑ったのだ。

「ありがとう。みんなのお陰だよ」
「主」
「うん?」

一瞬呆けたようにレンを見つめ、彼は笑った。あまり感情を表に出すことのないクーフーリンだけれど、無感情という訳ではない。レンの前だとそれは顕著にわかる。
人に近い彼は人に近い感情を持っていて、悪魔とカテゴライズされるだけに、本能(彼の場合は騎士としての本能とも置き換えられるかもしれない)に忠実で真っ直ぐだ。視線はそれを物語る。

「神の駒である天使を、私は愚かだと思う。哀れみに近く、私は彼らを見る」
「……」
「神の駒であるくらいなら、私は主の駒でありたい」

いつだったか、茶化すようにナオヤに言った。優秀な駒だろう?とレンは笑ってやった。
あの時の自分はこんなにも真摯に相手を見なかった。だからわからない。こんな時、どう返せばいいのかわからない。
わからなくて、わからないから、溢れ出す感情のままレンは彼を抱きしめた。
一般に定着したイメージよりずっと優しく気高い悪魔たちを人も神も認めようとしない。
こんなにも真っ直ぐなものたちをどうして悪だと言えるのか。
戸惑ったように、主、と言うクーフーリンの声を聞きながらレンは思う。

(神に愛されなかったのが悪魔ならば、その分オレが愛してあげる。)

              


生きとし生けるものは独断と偏見に満ちている。
そして無垢であることと純粋であることは決して同義ではない。

戦ってる主人公が書きたかったはずなのにな…。うっかりクーフーリンだしな…。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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