鎮魂歌
優しく包み込むように、彼が歌う。
安らぎあれと、彼が歌う。

自分が死んだ時もこうして、彼は嘆き、悲しみ、歌を歌ってくれるだろうか。

         

先日、天使との交戦があった。
魔界の領土へと侵攻してきた天使たちは軍隊というには少なく、けれど無害でもなかった。
力弱き悪魔が死んだ。どちらが悪魔だと言わんばかりの凄惨さで殺された。
戦い自体は魔王軍総出で出撃したこともあってすぐに終結したけれど、全軍で天使たちに当たることになった原因の小さな悪魔は消滅していた。
彼らは人のように肉としては残らない。死して力のすべてが消えた時、身体も滅ぶ。
戦いが終わった時には、力の残滓だけが残されていた。

「ごめんね」

レンが泣く。助けてあげられなかったことを優しき魔王は悲嘆する。もう少し早く声に気づき、天使の戦いもそこそこに甦らせていたら、と。
レンがすぐにその声に気づいてそこへ向かったから数体の悪魔の消失で済んだのだとわかっていた。王も盾も剣も叡智も旗も、レンの指揮の下みんなそこへ向かったからそれ以上他の弱い悪魔に被害が出なかったのだ。
マリが弱い悪魔たちを保護し、レンたちの力に飛ばされないように守っていた。天使はレンを狙い、それをアツロウは振り払った。天使の群れにカイドーが飛び込み、ナオヤが見事なまでにカイドーを避けて天使だけを魔法で焼き払った。
圧倒的な戦力差に天使が次々と倒れ、瞬く間に辺りは静けさを取り戻した。
最初に殺されていた悪魔以外、負傷者はいなかった。

レンは常々、悪魔たちにこう言っていた。
何かあれば、強い思いを込めて名を呼べと。
力の差を理解し、決して安易に天使に近寄ってはならないと。
自分の力が及ばず、死したなら城へ、心だけでも戻っておいで、と。

ほんの少しでも力を残していた悪魔はレンがその力でもって甦らせた。
甦った悪魔はしきりにレンに感謝していたけれど、それでも数体、完全に消えてしまった。
悪魔とよく戯れる庭で、レンが蹲っている。
悲しみに濡れた眼で彼は消滅した悪魔を思い、歌を歌った。傍にいるアツロウの方が苦しくなるほど切ないメロディで。
鎮魂歌なのだと理解出来た。天使との交戦で消滅した悪魔の為に彼は涙を流し、歌を歌う。
それを見る度、アツロウは胸が苦しくなった。そして今も苦しい。

王に涙され、安らぎあれと歌われた悪魔をアツロウは羨ましいと思う。自分が死んだ時もああして泣いて、歌ってくれたらと思う。
だから、メロディが途切れた時を見計らって声をかけた。

「オレが死んだら、レンはそうやって泣いてくれる?」

と。
振り返ったレンが、アツロウの言葉に、困ったように眉を顰める。涙に濡れたままの瞳を見ると、まるで自分が泣かせたようでばつが悪い。
服の袖で涙を拭い、レンは言う。優しくて、どこか傲慢な魔王が、王の盾と称されるアツロウに、言った。

「アツロウは死なないから、オレは泣かないよ」

子供がそうであるように、愚かしいほど真摯にレンは言った。
レンは魔王であり、アツロウは彼の盾だ。天使と戦う道を選んだ者だ。
それなのに死なないことを前提として彼は言っている。いつかあるかもしれない、そんな形の終末など許しはしないと言うように。
もちろんアツロウだって死ぬ気はないし、これは例え話だったけれど。
けれど、彼はアツロウが思っていた以上に深い意味合いでそれを受け取ったようだった。

「…でも、絶対なんてないんだよね。あの子たちみたいに」
「いや、ごめん、そういう意味じゃ、」

ふるふると首を振り、彼は続ける。

「きっとね、声が枯れるまで泣くと思うよ。子供みたいにわんわん泣いて、ずっと泣いて、そんで、掠れた声で、やっぱり歌を歌うと思う。それくらいしか、オレに出来ることはないから」
「……」
「絶望なんかしたことないからわかんないけど、きっとそれは絶望だと思うんだ」

自分の価値を測るようなことを言って、彼を傷つけた。いつもそうだ。うまくやりたいのにそれが出来なくて傷つける。そんな顔をさせたい訳ではないのに。間違いばかり繰り返し、その度自分を殴り倒したい衝動に駆られるのだ。
駆け寄って抱きしめ、ごめん、と何度か繰り返した。

「そんな絶望なんて知らなくていいよ」

自分の死が彼に絶望を与えると言うのなら、決して死にはしないと約束しよう。
優しくて悲しいメロディを彼が口ずさむことのないように、最大限の努力をすると誓う。
自分も、彼の周りの人も、悪魔たちも、彼の前から消えてしまわないように、とアツロウは誓った。
絶対と言えるものはないから、そうである努力だけは怠らないようにと。

「オレは絶対に死なないから、レンも泣かない」

嘘が嫌いなアツロウが吐いた優しい嘘にレンはようやく笑ったようだった。

         

(けれどもし、オレが死んでしまったら。)
(悪魔たちのようにオレもここへ帰ってくるから。必ず戻ってくるから。)

(優しく歌って、オレの為に泣いて。)

              


生と死が傍にあることも、アツロウの言葉が嘘なのも知っている。
けれどあまりに優しい嘘を吐くから、その嘘をオレは信じるよ。

「愛してあげる。」の後っぽい感じで。
拍手からいただいたアツ主リクのつもりで書いたんですが指定がなかったので思うまま書いたらこんな痛い話に…!

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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