君の願った笑顔で
「久しぶり、アツロウ。元気でやってるの?」

「そう、よかった。水城くんは?」

「そっか…。気をつけてね」

一ヶ月に一度、ケイスケの元にはアツロウから定期的に連絡が入った。
特別な会話はない。道が分かたれ、すでに久しかった。
それでも定期的な連絡はまだ完全に彼らとの縁が切れたのではないとケイスケを安心させた。

関東周辺を赤い空が覆い、人はそこから徹底的に非難という形で退去させられた。国外に出た人間も多く、日本という国の中に人という種はごくわずかとなっている。
政府から通達があり、国外に出ることを推奨する旨をケイスケも他他の人間と同じく受け取っていたが、さすがに国外に出ることは憚られた。
人が犯した過ちの為に赤く染まった空。その罪を一身に背負って魔王となった少年。人の為に友達が戦っているというのに、受け入れられないからと言ってすべて放り出すようなことはしたくなかった。
だから今でも国内にいる。
時折天使や悪魔が戦っているのを見ながら、今はもう何の力もないケイスケは身を隠すことしか出来なかったけれど、それでも最後まで見届けようと思っていた。

柔らかく笑っているのが似合う少年は、とても優しく、同時ににとても残酷だ。
慈愛を注ぐ相手でなければ、それを侵害する相手であれば、容赦はしない。慈愛を受ける側なのだと理解していなければ、そして彼の人となりを知らなければ、ケイスケだって国外に逃げたかもしれないくらいに。
表立って魔王軍は人間を庇わない。けれど自分は知っていた。彼が何の為に魔王となったのかを知っていた。
それを知っているケイスケは人間が魔王を恐れる様をどこか愉快にも思っている。
噂ばかりが先行して凶悪な魔王像が出来上がっていた。
もしも彼らが、魔王の正体が年端もいかない華奢な少年だと知ったらどう思うだろう。信じないか、愚かにも力を我が物にせんと牙を剥くのだろうか。
果てなどないほどに優しい彼でも、周りの人間は決して慈愛深き者ばかりではない。そんなことをすればその人間の末路など考えなくても予想がつく。

愛されるべき神の子は、確かに周りの人間にとても愛されていた。

何も言わずにケイスケたちと離れたアツロウも、彼の従兄であり、ケイスケにCOMPを渡した張本人であるナオヤも彼のことをとても大切に思っている。
割って入る隙間もないほどに彼らの絆は強固だ。
魔の力を得、魔王と共にいる友達をうらやましく思ったけれど、離れたのは自分だ。そんな風に思う権利はない。
彼から離れていったあの頃の仲間は、今でも彼を思い、何故彼の傍を離れたのだと自問自答の日々だ。
もちろんケイスケもその一人で、時折時間を巻き戻せたらとも思う。
けれどあの時の自分は魔王となると言った彼を本当には理解出来ていなかったし、今だって魔に身を落とすことには抵抗がある。そんな様で彼の傍にいられるはずはなかった。
犯した過ちを取り返せと言った彼を思い出す。けれどこればかりは取り返せないのだとわかっていた。

(もっと自分が柔軟な思考の持ち主で、もっと気持ちに素直で、たとえばアツロウのように盲目に彼を思えたらよかったのに。)

その時、不意に風が吹いた。
風と共に、小さく声が聞こえた気がした。

今君たちは笑っている?と。

そして彼の望みを思い出す。
仕舞い込んだばかりのケイタイを取り出してアツロウにコールをした。毎回違う番号からかかる電話だ。すぐに掛けなおしたからと言って繋がる確立は低いのだけれど、どうしても伝えなければならないことを思い出して、出てくれ、と強く願った。
ケイスケの懇願が聞き届けられたのか、数回のコールの後、アツロウの声が少し驚いたような調子で聞こえた。

「あのね、言い忘れてたんだ」

「うん?うん、そう、水城くんに」

     

「僕たちはちゃんと、笑っているよって伝えて」

              


僕たちは君の願った通り笑顔でいるよ。

魔王ルートED後のケイスケ。
ケイスケもユズもミドリもみんな主人公たちのことを気に掛けてるといい。
一緒に行かなかったことを後悔して、それでも今更どうにもならないんだと嘆けばいい。
きっと主人公はそう思わせたことを嘆くだろうけれど。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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