アルバムの中に
こんこん、と控えめな音がした。
それは彼からの控えめな合図。扉の向こうにいる彼は、きっとまたいつものように心細げな顔でアツロウが扉を開けるのを待っているはずだ。
パソコンのディスプレイから目を離し立ち上がる。開いているよ、と言っただけでは彼は入ってこないのだ。

「レン」

予想通りの表情だった。
弱弱しく笑って、入ってもいい?と聞く。アツロウがそれを断ったことは一度たりともないのだけれど、彼はいつもそうやって訊ねた。
だからアツロウもいつものよにそれに苦笑を返して、手を引いて部屋に招き入れた。

「パソコンやってたの?」
「うん」
「こないだ撮ったやつだね」
「そう、プリントアウトして撮っておこうと思って」
「あはは、みんな変な顔してる」

先日撮った写真。デジカメは便利だ。わざわざ現像に出さなくてもパソコンに読み込んでプリンタとインクさえあれば形にすることが出来る。
珍しく含むもののない笑顔で写っているナオヤとカイドー。お腹を抱えて笑っているマリ。涙を浮かべて笑っているレン。そこには自分だって大げさとも言える笑顔で写っていた。
レンの言う通り、普段の自分たちから考えるとおかしいくらいに屈託のない笑顔。
けれど、きっとこれをレンは何より望んでいたと思うから、自分たちのアルバムを作ろうと思ったのだ。

「変な顔…だけど、笑ってるね」
「これが魔王軍の日常のひとコマって言ったら笑われるぜ」
「え、スクープされたらどうしよう」

ディスプレイの明かりだけの室内。独特の色味の明かりに照らされたレンはどこか作り物のように見えて、必死でおどけて見せた。
それにノリ良く彼は付き合ってくれるけれど、どこか空々しい印象を受ける。
何があったと聞こうとして、けれどそれより早く、レンが言葉を発した。

「夜って怖いよね」

ああ、と思う。
彼は夜が好きだ。月が好きだ。けれど一人で眠ることを恐れる。
一度だけ、彼が漏らしたことがあった。夜、一人で眠ると悪夢ばかりを見ると。そしてそれは、日を追うごとに誰かからの語りかけに変わり、まだ間に合う、頭を垂れよと厳格な声で責められるのだと。
誰か、は、神だ。
責め苛まれる悪夢ばかり見ては確固たる意思の元に魔王となったレンだって辛いに違いない。
だからこそ彼は自分以外の体温と呼吸を求めるのだ。

「ねえアツロウ」
「うん?」
「…一緒に寝てもいい?」

伺うように見るレンに、先ほどと同じく苦笑で返し、パソコンの電源を切った。

       

体が大きい訳でもないアツロウとレンは一つのベッドに並んで寝転がっても、もともとベッド自体が大きいこともあって狭いということがない。
それなのにわざわざ身を寄せ合って眠るのは、存在を感じていたいからだ。
手を繋いで、額をくっつけて、共に眠りに突けば彼が悪夢に怯えることはない。アツロウも彼を失くす心配をしなくていい。

こんな時、天使を屠る力があったって、何の役にも立たないのだと実感する。

「もっとちゃんとやれたらいいのに」
「え?」
「レンが哀しいのも苦しいのもどうにかしてやれるような人間になりたいよ」

あの写真のような笑顔ばかり浮かべていてほしい。
心細げに夜を迎えるのではなく、ゆるやかな眠りに身を任せられるように。
思いばかりが先行して実が伴わないことが悔しかった。
目を閉じ唇を噛んでいると、アツロウ、と何度か呼ばれ、仕方なく顔を上げる。予想外に優しい表情でレンが笑っていた。

「オレは救われてるよ」
「レン…?」
「部屋に入れてくれること。一緒に寝てくれること。手を繋いでくれること。たくさん、救われてる」
「マジで?」
「大マジ。もっとちゃんとやらなきゃいけないのは、オレの方だよ。一応これでも魔王なのに」
「レンはすごいよ」
「アツロウだってすごいよ」

悪戯っぽい笑顔で笑って、二人で笑って、こんな瞬間こそ切り取って形にしておくべきだと思った。
そしていつか、たくさんの写真を見て、また笑えたらいい。

              


嫌な事もあるけれど、楽しいことだけ残しておいて、いつかの未来も笑顔であれるように。

一緒に寝てもいい?と聞く主人公と、お前はすごいと褒めあうアツロウと主人公が書きたかっただけ(笑)

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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