戦う理由
強くなりたい。圧倒的な力でもって他者を凌駕出来るような強さが欲しい。
すべてを壊し、すべてを支配する。強さこそがすべてだと思っていたし、力さえあればそれが幸せに直結するのだと思っていた。
けれど、ベルの名を持つ悪魔すべてを取り込んで魔王となったレンは人ならざるほどの大いなる力を手にした癖にちっとも幸せそうではなかった。

確かに彼は笑顔を浮かべていることが多い。
けれどそれはどこか刹那的な印象を受ける儚いもので、ふとした時、彼の面に浮かぶ寂しそうな表情を見る度、首を傾げたものだ。
圧倒的な、絶対とも言える力。悪魔はその足元に跪き、頭を垂れる。天使を一瞬で屠ることも出来る力を持つと言うのに何に悲観しているのか。
否。悲観という言葉は正しくない。
(何かに怯えてる…まさかな)
視界の遠くでケルベロスやオルトロスとじゃれあっているレンを見ながらカイドーはゆるく首を振った。
そう。普段はあんなものだ。悪魔たちと戯れては笑い、アツロウといる時は安心したように笑みを浮かべる。けれど。

レンが何かを思い出したかのように立ち上がり、悪魔に何事か声をかけ、歩き出す。
こちらに向かって歩いているのに、彼はカイドーに気づいていないのか顔を上げることはない。

(ああ…)

それは自嘲にも似た笑い顔だった。
悲しみの混じったそれは、ほんの一瞬表情として象られただけですぐに消える。
次の瞬間にはレンは再び混じり気のない笑顔を浮かべて、いつ気づいたのかカイドーに向かって手を振った。

「何してるの?」

あの表情は見間違いだったのかと思ってしまうほど完璧に作られた笑顔と雰囲気。けれどそれが虚構であることを知っている。
駆け寄ってきたレンの胸倉を掴んで引き寄せた。

「…どうしたの、カイドー」
「てめえ何隠してるよ」
「言ってる意味がわかんないよ」

おそらくみんな知らないふりをしているのだ。もしくは優しくその歪みを取り除いてやってるのかもしれない。
けれどカイドーには知らないふりなど出来ないし、真綿で包むような優しさも持ち合わせていない。
荒事ばかりに身をおいてきた自分は、こんなやり方しか知らない。

「何思ってんだ?何が不安だ?馬鹿みてえにでっけえ力手にして、なのになんでてめえはあんな顔すんだ?!」

刃に近い言葉で吼えた。
それにレンは少し戸惑ったようにして、見てたの?と言った。カイドーが頷くと、そう、と目を伏せる。
ゆっくりと手を離し拘束を解くとレンは曖昧に笑んだけれど、そんな笑みなど見たくないと思った。

「あのね、カイドー。オレはみんなに死にに行かせるんだよ」
「ああ?」
「神と戦え、天使と戦えって戦争をさせる。必ずしも五体満足に戻ってこられる訳じゃないし、呼び戻せるとは限らない。運良く消滅を免れても痛みはあるんだ。それはとてもひどいことだと思わない?」
「悪魔共が望んだことだろーが」
「オレが望んだからだよ」

そういうレンの顔は悲しみに歪んでいた。
けれど彼は言う。魔王であり、神と戦うと決めた彼は、天使を屠れと命を下し、戦場に送り出す。失った悪魔に対して嘆いても、天使が攻めて来ればレンはまた同じように命を下すのだ。
そこまで思ってようやくカイドーはレンの闇を解した。
傷つけたくないのにそれを命じ、その償いのように彼らと戯れ、その所為で沸いた情にまた苦しむ。堂々巡りだ。
頭のよくない自分にはこんな時に何を言ってやるべきなのかわからない。何か言ってやれることはあるはずなのに。
何かないのか。彼に言ってやれる何か、を必死で考える。
仮にも自分は彼より年上で、彼と共に道を歩んできたのだから。
(ああ、そうか)
ち、と舌打ちをして、それからレンの肩に手を置き、しっかりと彼を見据えた。

「くそ、てめえが沈んでっと調子狂うんだよ!」
「え?」
「…いいか、よく聞けよ」
「カイドー?」

ああもう、言葉が足りない。うまい言葉はとうに諦めたけれど、かといって感情を吐露するにもカイドーの語彙は貧困に過ぎた。
けれど口に出してしまったのだ。今更後に引くことは出来ない、と自分を叱咤する。

「死にに行くんじゃねえ。勝ち取りに行くんだ。てめえらの幸せを」

力を手にするだけでは幸せになれないのだと思った。レンが幸せそうに見えないのは、その途中だからだ。力を手にしたレンは、幸せを勝ち取りに行く義務がある。そして悪魔たちも、自分も、同じように自分たちの幸せを掴む為に戦場に立つ。自分の為に。
だから結果として死に至ろうと、その死はレンの為ではないし、レンの所為ではない。

カイドーとしては必死に訴えたつもりだった。それこそ無い頭を捻って言った。
せめてレンの心の闇が少しでも晴れるように。
けれど一向にレンからの反応は返ってこない。ぱちぱちと瞬きを繰り返すだけだ。
しまった、滑ったか、と慌てるカイドーにようやく返ってきたのは、

「ありがとう」

と言う言葉と信じられないくらいにきれいな笑顔だった。
頬が熱を持ったのがわかって、その場にしゃがみ込む。
不思議そうにレンがカイドーの名前を呼んだけれど、顔を上げる訳にはいかなかった。

(ああもう、しょうがねえな。早く神とやらをぶちのめして、オレがお前の幸せも掴みとってやるからよ)

(てめえはそうやって、ずっとへらへら笑ってやがれ)

              


カイドーは書いてて恥ずかしい。書きたくて書き始めたのに途中で何度かかゆくて挫折しかけた…!
力さえあれば世の中自分の思う通りになるとか思ってるあたりが青いよね。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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