言葉遊びに隠れた真実
穏やかな風に吹かれながらバルコニーでぼんやりと佇んでいると、突然先ほどまでとは違う風が吹いた。
その風の感触で気づく。また奴がきた、と。風と共に現れ、風と共に去る、胡散臭い悪魔の気配だった。

「ご機嫌いかがかな?魔王様」

背後から聞こえる声にげんなりと肩を落とす。あからさまに気分を害した風でレンは振り返った。

「たった今最悪になった」

レンの言葉に風と共に現れた彼、ロキは愉快そうに笑い、その距離を縮める。
あんまりと言えばあんまりなレンの言葉もロキは慣れていて、遠慮と言うものを知らないこの男は馴れ馴れしくレンの肩に手を置き、顔を近づけてきた。まるで口付けをするかのような距離にまで近づいた顔を鬱陶しそうに避け、実際に鬱陶しいんだけど、と口にする。

「つれないなあ。魔王様直々に僕に頼んだ偵察の報告にきてあげたのに」
「…どうだったの?」
「特に異常なし。能天気に生きてたよ」

そう、とだけ返し、レンは物思いにふける。
封鎖に巻き込まれた幼馴染。封鎖中に行動を共にした仲間はアツロウがケイスケとたまに連絡をとって安否を訊ねているけれど、ユズのことだけはアツロウも話したがらなかった。元気でいるんじゃないか?と言うだけで。
だから人に化けられて、尚且つすぐに消えることの出来るロキに白羽の矢を立て、偵察に行かせたのだけれど。
人選ミスだったかもしれない。もともとただの人間には興味の無い男だ。詳細な状況報告を期待した訳でもなかったが、これではとりあえずのところは生きている、としかわからない。それくらいのことなら、アツロウからの話で想像がついていたのに。

「ねえ」

かけられた言葉に我に返る。出来るだけなんでもない風を装って、何?と訊ねると、ひどく性質の悪い笑みを浮かべてロキは言った。

「ねえ、君ほんとはあの女の子、そんなに好きじゃなかったでしょ?」
「は?」

言われた言葉をうまく理解出来ずにレンは眉を顰める。
なんで?と彼に対する時のレンにしては珍しく素直に訊ねると、ロキはだって、と言葉を続けた。

「本当に大切なら、どこか遠くで穏やかに、なんて台詞出てこないよ」
「そんなことない」
「気づいてないのかい?大体今は君の近くの方がずっと安全だ。なのに君は彼女を迎えに行こうともしない。あの時だって、君が本当に望めば、彼女は君と一緒に来たはずだよ」
「……」
「だから君は、本当は彼女を望んでいなかったんだ」

そのくせ彼女らの安否を気遣うなんて、偽善もいいところだねぇ、と言うロキの言葉はもう耳に入ってこない。
いや、耳に入れる必要が無いと脳が判断した。
けれど無遠慮に触れてくる指先がそれを許さない。跳ね除けることさえめんどくさくなって、したいようにさせてやった。

「何が言いたいの?」
「君を愛しているよ」
「……」
「ほんとなのに」

顎を掴まれ、上を向かされる。成長の止まったレンの体は、どれだけ時間が経ってもこの男を見下ろす身長にはなれない。見上げる男のようになりたいとは思わないが、見下ろされるのも癪だった。
どこか憮然とした表情でロキを見ていると顔が降りてくる。きっと、逃げようと思えば逃げられたのだけれど。

「…目くらい閉じてくれてもいいんじゃない?」
「セクハラ悪魔」
「ハハハ!余裕だねぇ、小さな魔王様」

勝手にキスをしてきたのはロキの方だ。ヒゲがあたって痛い、と思うだけで、レンには何の感慨も浮かばない。
余裕だと言われるほどの状態ではなかったし、実際に驚いてはいたのだけれど、だからと言って、そうされてうれしいとも嫌だとも感じなかった。ようするにどうでもよかったのだ。

「余裕、なくしてあげようか」

言われてすぐ、乱暴とも言える動きで後頭部を掴まれ、先ほどよりも深く口付けられる。
逃げようと抗っても体制が悪すぎた。力を使えばどうにかなったかもしれないけれど、思った以上に混乱しているらしい頭では力をうまく引き出すことが出来ない。
息苦しくて涙ぐみ、先ほどロキが望んだ通り目を瞑らされた。どんどんとロキの胸を叩き、開放してくれと請う。
しばらくして叩くことすら疲れた頃ようやく開放された。

「ロキ…!」

自分に出来る一番怖い顔を作ってロキを睨みつけるけれど彼は胡散臭い笑みを浮かべるだけだ。
少しは落ち着いた。だからいける。そう思って力を発動させれば、彼は風にまぎれて消えた。目の前には傷ついた柵があるだけだ。

「危ない危ない!結構過激だよね、君!」

背後から芝居かがった笑い声がして、次いで後頭部に口付けられた。
振り返った時にはすでに姿はなく、声だけが聞こえる。

「今度はちゃんと続きさせてね?魔王様」

行き場のない苛立ちはバルコニーを犠牲にすることで発散させた。
修復する気はない。ナオヤかアツロウに探させて、ロキにやらせよう、そう決めてレンはバルコニーの惨状に見てみぬふりを決め込み、自室に戻った。

              


魔王になって道が違われたにも関わらず気に掛けられているユズたちのことを気に入らないロキの屁理屈。
うちのロキは言葉遊び的に愛してると口にしますが、案外と本当のことだったりするんです。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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