愛し子よ
魔王軍は強い。当然ベルの王であるレンはその最たる存在だ。
対多数戦でさえ圧倒的な力でねじ伏せることが出来る。もちろんそれには付き従う多数の悪魔がいてこそでもあるのだが。
その時戦いをしかけてきた天使の数は予想以上に多かった。
どこから沸いてくるのか、倒しても倒してもキリがない。何千何万という数がやってきて、その白い羽で魔界を白く染めた。
魔王軍総出でそれに当たったけれど、退けるには至らなかった。
さすが創世の神というところか、数で攻められては、悪魔を作り出すことの出来ないレンには分が悪いと思い知らされた戦だった。

剣が最初に城を飛び出し、続いて盾が城を出た。そして充分に準備をして叡智と王が出る。
空の茜と同じ色で染められた大地には、天使の残骸よりも悪魔であったものの方が多く倒れていた。
今までとは違う。
感情を消し去り、まるで能面のような顔でレンは戦場に立つ。
百や二百なら一瞬で片がつく。けれど今回はそんな可愛らしい数ではない。
うまく立ち回っても力の弱い悪魔は次々に消滅していったし、どれだけ天使たちを切り裂き吹き飛ばしても次から次へと沸いてきた。
カイドーがその拳で天使を肉塊へ変える。ナオヤが魔法を唱え、天使を消し炭に変えた。アツロウが次々と襲い掛かる天使たちからレンを守り、レンが魔法を唱える。これだけの数の天使を屠るには力を集めるのも相当に時間がかかるが、それこそこれだけの数の差をひっくり返すにはレンの力無くしては出来ない。
悪魔たちは魔王とその側近を囲むように天使と戦い、時間を稼いだ。

「…っのやろ、何しやがる!」

百を優に超える数の肉塊の上に降り立ったカイドーの足元に矢が射掛けられる。
ふくらはぎを掠り、肉が削がれた。

「カイドー!」
「るせぇ!てめえは黙って呪文唱えとけ!」
「レン、危ない!」

一瞬レンがカイドーに気を取られた隙に、レン目掛けて炎の魂が飛んでくる。それをアツロウが庇い、アツロウの背が焦げた。

「大丈夫か?レン」

気づけば苦しげな悪魔たちの声がそこらじゅうで響き渡っている。
ナオヤはシールドを張り攻撃を防いでいたものの、防ぎきれなかったいくつかの攻撃で服も肌もぼろぼろになっていた。

ぴしり。

レンの中で何かが壊れる音がした。
普段は抑えられている始原の力が膨れ上がる。
アツロウに支えられながら、レンはまずい、と心の中で舌打ちをした。

「離れて…っ、アツロウ!」
「え?」
「ナオヤも、カイドーも、みんな、オレから離れて!」

有無を言わせぬレンの言葉に、三人はその場を離れ、それぞれにシールドを張った。
それを確認して、レンは己が内に響く声に身を任せた。

「ああああああっ!!!」

瞳の色が冷える。
ふわりと髪が散らばり、シャツが風にはためいた。
暗き闇が地から這い出て天使たちを掴む。

「…すげえ」
「レン…」
「力の暴走…か」

シールドを張っていなければ、その闇はアツロウたちすら喰らい尽くそうとするだろう。それくらいに見境なく闇はすべてを飲み込んだ。
闇に飲まれずにいたのは元々闇から生まれたものだけ。白き羽を持つものはすべて喰われていった。
すべてを飲み込み、辺りが静寂に包まれる。
レンを包んでいた風が止み、すぅ、と意識を失うようにレンは目を閉じ、落下した。

「蓮!」

一番レンに近い場所にいたナオヤが駆け寄り、どうにか地面に叩きつけられることは回避出来た。
蓮、と何度か呼びかけると焦点の合っていない目がナオヤを見返したけれど、それきりその瞳が開かれることは無かった。
カイドーとアツロウも駆け寄り、レンに声をかけるけれど、レンはぴくりとも動かなかった。

後でナオヤに聞けば、おそらくは力の暴走だろうと言った。
簡単に言った割には表情がどこか曇っているから、ナオヤとしても予想外だったのかもしれない。
カイドーもアツロウもナオヤも、みんな傷だらけで、回復呪文を唱える元気すらない。そういったことの得意な悪魔も力を使い果たしていたから、結局元人間らしく包帯と絆創膏で応急手当をする。レンから分け与えられた力があるから、じっとしていれば肉を削がれた足も、焼け焦げた背中もちゃんと回復する。
だから自分たちは大丈夫なのだけれど、と三人はベッドで横たわるこの城の主を見た。

城へ戻り、一度レンは意識を取り戻した。
けれど、傷だらけの三人を見て、レンはごめんなさい、と何度となく謝り、泣いた。
大群で攻めてこられたのだ、傷を負うことも仕方のないことだし、暴走したとはいえ、レンの力があってこそ撃退出来たのだからレンに非はないのだけれど。
あまりに泣き続けるものだから、ナオヤが適当なところでレンの意識を奪ったのだけれど(そんな過激な、とアツロウは思ったけれど、思うだけに留めておいた)。
次にレンの意識が戻るまでに自分たちは回復するだろうか。
きっと傷が消えていたとしてもレンは自分を責めるだろうけれど、せめて見た目だけでもどうにかした方がいい、と誰ともなく呟き、回復呪文を唱える。慣れない回復呪文の詠唱はそれだけでもひどく疲れるのに、戦いの後、力を酷使した後だ。余計に疲れる。どうにか体の方は元通りになったけれど、服はぼろぼろのままだ。着替える元気はさすがにない。
三人はベッドの周りに座り込み、目を閉じた。
傷ついたっていいと思ってレンと共にいるのだから、レンが哀しむ必要などないのだ。
だから早く目を覚ましてほしい。
今は傷つくかもしれないけれど、いつかくる穏やかな日の為に戦っているのだから。
きっとレンなら、暴走する力を我が物に出来る。今回のような戦いも、もっとうまくやれる。それだけの力のある王だ。
しばらくの間は天使軍も動いてはこないだろう。こちらだって迎える用意は出来ない。出来ればしばらく平穏であるように、とその場にいる全員が思った。

              


暴走するってことないのかしら。と思って書いてみた。エヴァに感化された訳ではない。多分。
甘さもラブもねえな…(がくり)

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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