僕は僕に嫉妬する。
幾千もの時の中で彼はたった一人だった。
可哀想だと思う。彼が何かを望み、それを自分に望むなら、それを叶えてやりたいとも思う。
ア・ベルであれという以外なら。

肌触りの良いシーツの海で、縋るように彼の肩に爪を立てる。
空調はいっそ寒さを感じるほどなのに、ナオヤとレンの間だけ、まるで温度が違っていた。

「あつい…」

穿たれる熱さの所為とも、物理的な気温の暑さの所為とも取れる言い方でレンは呟いた。
喉の奥でナオヤは笑い、汗をかいて額に張り付いていた髪をかきあげた。次いでレンの前髪も同じようにかきあげて額同士くっつける。
熱い。行為自体は不快ではないはずなのだけれど、どうにもこの熱さだけは苦手だ。内側からじわじわと熱が溜まっていくのも、時折冷気が肌を撫でてぞくりとするのも、ナオヤと自分の体温が同じになっていくのも苦手だった。
では何故身体を重ねているかと言えば、レンがレンであると彼に認識させる為以外の何物でもない。
多少の痛みも傷もすぐに回復する身体。同性に身体を開かれるということで傷つけられる吟持もレンは持ち合わせていない。だからこれはただの都合のいい手段でしかない。
いつだってレンを通して違う人を見ているナオヤの目を覚まさせるには、これが一番手っ取り早いように思えたのだ。

「ね、え…っ、ナオヤ、」
「何だ」

問いかけると律動を止めてこちらを優しく伺ってくる。
異物感をやり過ごし、そっとナオヤの頬に手を伸ばす。まっすぐ彼を見つめて、愛しているよ、と空っぽにも思える声音で言い放った。
それにどこか傷ついたような、喜んだような、そんな複雑な表情をして、それから彼も、お前を愛している、と言った。

「オレを?ア・ベルを?」

意地の悪い質問を投げかけながら、身体だけ縋るように腕を交差させて引き寄せた。

「ナオヤの前にいるのは誰?」
「蓮だろう、何だいきなり」
「ナオヤが抱いているのは誰?」
「…くだらん問答だ」
「うん、オレも心底くだらないって思ってる」

そう言って密やかに笑い、これ見よがしに腰を擦り付ければ促されたようにナオヤが動く。
内壁を擦る感触に目をきつく閉じる。けれど目を閉じたままでいるのは嫌で、膜の張った目をこじ開けて必死にナオヤを見る。
取り繕うことに長け、恐ろしいほど頭のいい彼が、無防備になる瞬間。達したばかりの僅かなその瞬間が好きだ。
そうして、彼が本当に無防備になった時にレンは言う。呪文のように繰り返し。

「ナオヤの記憶のア・ベルはこんな風に触れられないんだよ」

「ナオヤにア・ベルはもういらない。だってオレがいるでしょ?」

「ア・ベルなんか忘れちゃえ」

ナオヤがこの行為でレンに与えるものは間違いなく快楽だったけれど、レンはそれを追うことを良しとしなかった。
だから達した後でさえ、レンは意識をしっかりと保ち、言葉を紡ぐ。これが一番の目的であり、決して行為自体が目的ではないからだ。
そこにあるのは愛情というよりもっと根深い執着心のようなものだ。
元を正せばア・ベルも自分だということはわかっている。けれどそんな記憶をレンは持たないし、レンの知らぬ過去に思いを馳せ、愛しそうにア・ベルを語るナオヤを見る度、殴り倒してやりたい衝動に駆られた。
だからさっさとア・ベルなど忘れてしまえばいい。

「オレはナオヤを愛しているよ。カインでなく」

幾千の時の中でたった一人だった彼は、只一つの思い出を宝物のように握り締め、只管に生きてきた。
ナオヤが望むなら、声も目も心臓もやったっていい。身体どころか細胞一つだって好きにさせてやる。
けれど。

「だからいい加減、カインとア・ベルを捨ててよ」

それだけはどうしたって譲れない。

              


…えーと、一応色っぽい話のはずだった、んです、けど…!

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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