咎人たちの懺悔
人は禁忌を持つ。罪を犯すなかれ。清くあれ。美しくあれ。倫理と常識と正義を忘れるなかれ。
けれど、実際はといえば真実一度も罪を犯したことのない者などいないのが現状だ。
本当の意味で清廉なままの人などいない。
人ならざる身に堕ちた魔王にも、その常識は当てはまるのだろうか。
であるならば、レンは今も幾つもの罪を背負っている。天使を屠り、魔に身を堕し、魔に魅せられた。
神に刃を向け、魔王と名を冠し、悪魔を統べるようとしている。
幾つもの罪の塊だ。
(そういえば同性愛も人以外との交わりも禁忌だっけ)
まさに魔王と呼ぶに相応しい罪の塊だ。
レンが愛した悪魔たち。レンが求めたただ一つの魂は人ではないし、まして異性でもない。
目が覚めるような美しい青の色彩を持った古の騎士をレンは好いた。
悪魔を愛した。それは罪だ。彼は女性ではないし、それを愛してしまったのも、また罪だ。
レンは魔王となることを、ナオヤに言われたからではなく、自分で選び取った。
その選択をした時、レンは悪魔を悪と呼ぶ者たちを許せずに、そして彼らの悲痛な叫びに、迫害されるばかりの彼らを守りたいと思っていた。そして、人を守りたいと。
けれど、それは本当にそうだっただろうか。それだけだっただろうか。

自分は、ただ、彼を悪と呼ぶ者を許せなかっただけではないか。
彼の名を貶めた者を憎んだだけではないか。
彼を自分の元に繋ぎ止めておきたかっただけではないか。

その問いの答えを知る者はいない。

すべてのベルを取り込み、レンは魔王となった。
魔王となったレンに牙を剥く者をすべて排除し、青の騎士はレンを振り返った。
青色の髪がゆるやかに流れ、そして落ちる。
彼はレンの前にやってくると、膝を附き頭を垂れて、それからいつもするようにレンの手を取ってその甲に口付けた。
うれしいような、恥ずかしいような、けれどどこか悲しいような。そんな気持ちでレンはクーフーリンの触れる様子を見ていた。
彼は契約に縛られている。その契約を、レンは破棄してもいいと言った。そうでなければ、彼は一生、自分に縛られて生きていく。
そうであって欲しいと望む欲にまみれた自分を嫌悪しつつ彼の言葉を待てば、彼はレンの望むまま、私の主はあなただけだ、と言った。契約しているのだから、彼がそう言うことはわかっていた。わかっていて言わせた。
けれど、それが彼の中の真実であって欲しいと願った。それは欲深な人間らしく、また魔王という名に相応しい願いだった。

「魔王となられたことに、まずは祝辞を」
「ありがとう」
「…主」
「どうしたの?」
「私は、…罪深い。騎士にあるまじき者だ。魔王となった主に、私は断罪されるべきだ。…いや、あなたに裁かれたい」
「…どういうこと?」

唐突な申し出に首を傾げクーフーリンを見る。
普段なら唇を触れさせてすぐ、彼は手を離すのに、今もずっと彼はレンの手に触れたままだ。
そして思案気味に眉を寄せ、それから迷いを振り切るようにして、レンを見た。

「私は、あなたが陽の当たる道を行くべき人だとわかっていた。魔王になるべき人ではないと知っていた。魔に身を堕とすということがどういうことか、悪魔と蔑まれ続けた我らが一番よく知っている。だから、あなたにこのような苦しみを知って欲しくはないと思っていた」
「オレが決めたんだよ?それにもうそういう覚悟はしてる」
「ああ、わかっている。主が決められたことだ。けれど、その決断は、我らの嘆きの為ではないか?…主は優しい。我らのような悪魔にも、人にも、まるで人が望むままの神のように」

慈愛を注ぎ、労わり、悲しみ、愛する。人間が作り出した、都合のいい神様。
本来の神は、まったくそんなご大層なものではないし、レンだってそんなご大層なものではないはずなのだが。
黙ったまま聞いていると、クーフーリンはまるで取り返しのつかない失態を犯したかのように苦い顔をして俯いている。

「私は、願ってしまった。あなたが魔王となれば、あなたは今まで以上に苦しむとわかっていた。わかっていて願ってしまった。主が魔王となることを」
「……」
「主と離れることが怖ろしかった。私は生まれて初めて何かを怖れた。主の身を思えば止めなくてはならないことを、止められなかった。あまつさえ、それを喜んだ。その為にあなたは人であることを捨ててしまった。これ以上の罪があるだろうか」

だから、どうか。
そう願うクーフーリンに微笑みで返し、レンは言う。

「クーフーリンは、オレを置いていくの?」

レンの言葉にクーフーリンは慌てて首を振る。
そしてまた、私の主はあなただけだ、と誓う。
いつになく必死そうな形相のクーフーリンが少しおかしかった。

「オレもね、怖かった。みんなが離れていってしまうことが。クーフーリンが、オレ以外の主を見つけることが」
「ある、じ」
「だから魔王になった。それだけじゃないけど、魔王になれば失わずにいられるものの方が多かったから。魔王になったら君は、きっとずっと一緒にいてくれると思ったから」
「私は、」
「オレはクーフーリンを裁けない。オレはもう、たくさんの罪の犯したよ。人は生きているだけでたくさんの罪を犯すんだ。断罪されるべきはオレで、君じゃない」

クーフーリンを好きだと思った。彼を失くしたくなかった。魔王になろうと思った他他の理由も決して嘘や偽りではないけれど、きっと、一番願ったのは彼を失わずにいることだ。
何故かなんて知らない。初恋も知らずに生きてきたレンの元に突然やってきた感情は執着にも近い強い思いで彼を望んだ。
それを罪と言わず何と言う。

「主よ」
「なに?」
「私は仕える身分にあるまじき不相応な願いを抱き、主を魔に堕す一端を担った。それでもあなたは私をその御許に置いてくれるのか」
「じゃあ逆に聞いてもいい?私情を挟み魔王となって、その上また罪を重ねて、挙句君を縛り続けようとするオレを、クーフーリンは主と認められるの?」
「無論だ」
「じゃあ同じことだよ」

罪を重ねることを怖ろしいとは思わない。
それより怖ろしいものを知ってしまった。

「ねえクーフーリン」
「如何された、主」
「オレはね、うれしいんだ。オレが望むことをクーフーリンはいつも叶えてくれる。オレの為になることをいつも考えてくれる。けど、クーフーリンの望みを、オレは知らなかったから」
「私の望みなどに主が構う必要はない」
「構いたいの。だからね、うれしかったんだ。オレが魔王になることを望んでくれたことが」

傍にいたいと願ってくれたことが。
何よりもうれしかった。たとえ罪であっても、心はただ幼く、純粋に彼を求めていたから。

クーフーリンを立たせて、両手を取る。へへ、と軽く笑って、彼に抱きついた。

「今から言うことはね、契約じゃないよ。ただのお願い。だから聞いてくれても聞いてくれなくてもいい」
「申されよ」
「オレの傍にいてね?置いてったりしないでね?」
「あなたが許す限り、私はあなたの許を離れはしない」

魔王となったレンと仲魔の間に契約はない。悪魔を統べるベルの王となったのだから確かに主とはなるだろうが、彼らが何をしようと自由だ。言霊で縛ることも可能だろうが、それはしたくない。
だからこれは願いだ。命令ではない。
それなのにそれと同じような真摯さでレンの言葉を受け止めるクーフーリンがおかしくてレンは彼の腕の中で笑いながら少しだけ泣いた。

「…オレを、……すきになってね」

顔を真っ赤に染めながら、小さな小さな声でレンが呟いた言葉に、クーフーリンは優しくレンを抱きしめて返し、レンにだけ聞こえる声で言った。

「私の身も心も、とうにあなただけのものだ。契約などなくとも」

              


うちの話は基本的なとこで繋がってるようで、繋がってなかったりちょっと曖昧なものが多い。
以前のクフ主話から派生したような、そうでないようなお話。
多分ハグしてラブ時空発動させてるクフと主の背後でナオヤとかアツロウとかが地団駄踏んでると思う。
なんかこーゆう甘めオチでもいいんじゃないかなーって思ったんですけど、どうでしょう…?

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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