金糸の檻
金色の上質な糸のように綺麗な髪が降ってくる。
人ならざる瞳が真っ向からレンを見据えていた。
さて。どうして自分は今、ベッドの上に縫いとめられているのだろうか。

「驚かないの?」
「うんと、驚いてはいるんだけど、ちょっとショート気味」

思考をうまくまとめることが出来ずに思ったまま口にすると、ロキは、くくっ、とくぐもった笑い声を上げる。
人型を取っていないロキは腕と髪で檻を作りレンを閉じ込めている。
何が起こったかを把握しようと必死で頭を働かせているレンをおかしそうに見てロキは言った。

「君は今、貞操の危機に直面してるんだよ?」

貞操の危機。穏やかではない台詞に眉根を寄せる。
確かにこの状況でレンがもしも女性であればその言葉も理解出来る。
けれど一応、自分は男な訳で。
(あれ?悪魔ってどっちでもいけちゃうの?)
同性間の性交渉は、悪魔の間では当然視されているのだろうか。確かに悪魔や天使に必ずしも性別がある訳ではないから、そうなのかもしれない。
であるならば、ロキの言うとおり、今まさにレンは貞操の危機に直面しているのだろう。
人間あまり驚くと身動きが取れなくなるのだとレンは初めて知った。うまく思考が働いていて、身動き可能であれば強烈な魔法の一つや二つ、寝室を犠牲にしたって放っているのに。
ついこの間まで健全な高校生をしてきたレンは今のような事態に遭遇したことがない。常識的観点から見て、たとえ遭遇していたとしても、それは女の子に迫られるという程度のことだろうとは思うが。
つらつらとそんなことを考えて、今はそんなことを悠長に考えている場合ではないと気づく。
近づいてきたロキの顔をどうにかよけてじろりと睨むけれど、この状況でどれほどの威力があるかは甚だ疑問だった。

「またお預け?たまには餌くれないと真面目に働かないよ?」
「たまにはって、こんな餌ねだられたのは初めてだよ!」
「まあそうかもね。君はひどく過保護にされてるから」

今度はよけきれずに唇が触れる。
何度か軽く口付けられて、静止を訴えようと開いた口から舌が入り込んできた。
息が苦しい。ぎゅっと瞑った瞳から涙が滲んだ。
(いやいやいや、ちょっと待て、てゆか待とう!?)
レンの心の叫びが聞こえたのか、はたまた次のステップに進もうとしたのか、とりあえずロキの唇から解放される。
は、と短く息を吐き、涙の滲んだ瞳のままロキを睨んだ。距離を取ろうとロキの胸元に伸ばした手が震えているのが苛立たしい。これではまるで怯えているようではないか。
(ロキなんかに)
レンのその動作をどう取ったのか。ロキはふぅ、と息を吐く。

「…ロキ……?」

ロキが動きを止めたことにはホッとしたけれど、まっすぐ見据えていた瞳が悲しげに歪んだのを見て、レンは慌てる。
どうしたの、とどこか場違いな台詞を投げかけると、ロキは困ったように笑った。

「うーん…。なんかねぇ、このまま事に持ち込んでひどいことしてやりたい気もするんだけど、何もしないよって言ってただ君を抱きしめて宥めてやりたい気もするんだよねぇ」
「は?」
「ほんと、大事に守られてきただけあるよね、君」
「いや、意味がわかんない」
「僕もわかんない。ひどいことしたいけど、優しくもしてあげたいんだ。人間に感化されすぎたかな。矛盾しすぎてる」

大げさに溜息を吐くロキに、溜息を吐きたいのはこっちだと、レンも同じように溜息を吐く。
一体何をやってるのだろう。いい加減馬鹿らしい。
ロキも同じことを思っていたのか、しばらくすると腕が離れ、金糸の檻から解放される。
抑えられていた腕をさすりながら起き上がると、ロキはすでに人型に変化していた。
そういえば、何故彼はわざわざ悪魔の姿でレンの前に現れたのだろうか。思いついた疑問をそのまま口にすると、悪魔の姿なら本能のまま突き進めるかと思ったと返ってくる。

「じゃあ人型の今は、もう何もしない?」
「今日はやめとくよ。でもせめて同衾の許可はいただけるかい?何もしないから」
「…信じられない」
「信じてよ。信じてくれないならもう一度組み伏せて続きをしたっていいんだけど?」

穏やかではない台詞に渋々了承する。
ちらりとロキを伺い見ると、彼らしくない柔らかい笑みを浮かべて彼はレンの頭を撫でた。
その撫で方がやけに優しくて戸惑う。

「僕はね、君が思うより君のことが好きなんだよ」
「……」
「だから、君が本当に嫌がることはしたくない。まあ君が望んでくれるとも思えないから、結局無理矢理になるかもしれないけど、今はまだ我慢してあげる」
「ふぅん…」
「信用されてないねぇ。淋しいな」

いきなりやってきて人をベッドの上に押し倒すような男を信用など出来る訳がない。
そうは思うのに、淋しいと言ったロキの声が、笑顔でいるはずなのにひどく沈んでいて、レンはまた一つ溜息を吐いた。
ふと自分の着ているパジャマが目に入る。これもロキが買ってきたものだ。妙にひらひらしているそれを着るのには抵抗があったが、肌触りはいいし、贈られたものを無碍にも出来ず頻繁に着用していた。部屋を見渡せば、ロキから贈られたものがそこかしこにある。レンが欲しいと思ったものは誰かに頼むよりも早く大抵ロキが買ってきてくれた。オーディオも、テレビも、ふかふかのクッションも、ロキが持ってきたものだ。
プレゼントで釣られる気はないけれど、いいなと思ったものを、頼まれもしないのに買ってくるのはきっと彼なりの愛情表現だ。贈られたものに対してレンが素直に喜べば、彼もうれしそうに目を細めていた。
ようやく彼の想いに気づいたレンは、どこか申し訳ないような気持ちになった。それにしたってあんなのはいきなり過ぎだとは思うけれど。

「ロキ」
「うん?」
「オレのこと好きだっていうのだけは、信じてあげてもいいよ」

意識して上から目線で言ってやると、ロキは、それはそれは!と大仰に笑って見せた。
それでようやく、レンも肩の力を抜く。
遠くで警鐘が鳴ったけれど、それを無視して、レンはベッドの中へロキを手招きした。

次に檻に囚われたら、もう抜け出せないかもしれない。

              


ロキ主で事に及ぼうと思ったら、ウッカリ寸止めになってしまった…。
で、でもね、この主人公はロキのこと憎からず思ってるんですよ!ただ恋愛感情を把握出来てないだけで!
なんだか悪魔×主は基本もだもだしますね…。

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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