僕の過ち、彼の我侭
もしも彼の望みを撥ね付けたら、彼はどんな顔をするだろう。
悲しむ彼というものは想像がつかない。
怒るか、責めるか。それとも呆れるだろうか。愚かなことをと罵るかもしれない。
ナオヤは自分の示した道が最良の道だと思っているだろうし、またレンがその道を選ぶことを確信しているようだった。

ユズやアツロウに後で来るようにと言って一人で歩く。
夜道を一人で出歩けるほど治安がいいとは言えないが、COMPも持っているし、多少の時間なら一人でも大丈夫のはずだ。
それにこれは、レン一人で片をつけたい問題だった。

来いと言った。選べと言った。
当然のような顔で非現実的な提案を掲げ、それでもナオヤはそれをレンが選ばないことなど有り得ないと思っている。

ナオヤのことは好きだ。歳の離れた従兄で、本当の兄のように一緒に育ってきて、過保護に過ぎるほど甘やかしてくれて、時には厳しくレンを諭した彼を好きだと思う。
彼の言う理屈は、多少おかしなところはあるものの、レンが求める解決の道には変わりない。神よりも悪魔の言い分を尤もだと思う自分には魔王になる道の方が合っているとも思う。
だから彼の望んだ道を選ぶことに、本当はそんなに悩まなかった。
けれど。

(傲慢すぎるんだよね。頭良すぎるのも考えものかなあ)

不満はあった。
ナオヤの道を選ぶということは、ナオヤを良く思っていないユズは嫌がるだろうし、その道の内容はと言ったらユズどころか封鎖中共に戦ってきた仲間を失わなければならないようなものだ。
仲間が離れていくことは薄々感づいていた。アツロウだけは来るなと言ってもついてきそうな気がする。それが有難い反面悲しくもあった。魔王となるは修羅の道だ。魔に身を堕とすのは自分だけでいいし、道連れはナオヤだけで充分すぎる。大切な人たちにそんな道を歩ませたくはない。
数少ない友人との離別を覚悟してまでこちらはそんな道を選ぼうとしているのに、それをナオヤはわかっているのだろうか。
家族同然のナオヤと離別することと同じくらい、レンにとってそれは辛いことなのに。

「来たか、蓮」

レンが顔を見せると、彼はやはり当然と言った顔で出迎える。
あれこれと今後を話すナオヤはおそらく上機嫌なのだろう。饒舌なのがその証拠だ、とレンは思った。

「しかし、アツロウたちは一緒ではないのか?俺の計算ではお前たちは共に来ると踏んでいたのだが」
「ねえナオヤ」
「なんだ、蓮」

深く息を吸い込んで言葉を紡ぐ。

「やっぱり、もう少し考えさせて」

レンが言うと、ナオヤは一瞬表情を消した。元々大して感情の起伏が読み取れるような豊かな表情はしていなかったけれど、その一瞬は本当に無表情で、まるで能面のようだった。

「何が気に入らない?お前も望む道のはずだ。お前が成したいことを成す為に一番効率がいい道だろう?」
「ナオヤ」
「アツロウ、か?」
「違うよ。ただもう少し考えてみたいだけ」
「いいか、良く聞け。お前は俺と共にあるべきだし、お前も神の不平等さはわかっているだろう?封鎖を解くにも一番良い方法のはずだ。お前の望みは俺が一番よくわかっている。俺と来ることが最善だとわかるだろう?」

(焦っている?あのナオヤが?)
ナオヤの言葉の中に焦りと呼べる感情を感じ取ってレンは困惑した。予想していた反応のどれとも違ったからだ。
計画が破綻することを恐れているのか、それとも他の何かを怖れているのかはわからない。ただ彼はひどく焦っていて、まるで追い詰められた獣が仲間を呼ぶようにひたすらにレンに助けを呼びかけているようだった。
一緒に行くよ、と言ってやればいい。わかった、と頷くだけでも彼は満足するだろう。
そう思って実際口にしかけた時だ。

「奴等か…!またしても奴等が邪魔をするのか…っ!永劫続く苦しみを与えただけでは飽き足らず、まだ我等の邪魔をするのか…!」

ナオヤはこちらが怖ろしくなるほどの怒りの滲んだ声で言った。
奴等とは誰か、我等とは誰と誰を指しているのか。
レンにはわからないことだらけだったけれど、彼が錯乱していると言っていいほどの状態だと言うことはわかった。

「ナオヤ、ナオヤ!?」
「蓮、お前は俺と共にあるべきだ、そうだな?!」
「ナオヤ…っ、ねえ、どうしたの?落ち着いてよ」

今まで彼に対して、落ち着け、なんて口にしたことはない。
戸惑いながらナオヤを伺い見ると、彼は強い力でレンの腕を掴んだ。余りの強さに痛みを覚える。
レンがどれだけ呼びかけても、聞こえているとは思えなかった。事実彼はレンの言葉に応えもしない。ただ思いをぶつけてくるだけだ。

「俺とお前は共にあるべきだ…、たとえ、奴等がそれを望まなかったとしても…!」

レンの腕を掴んだままずるずると崩れ落ちるナオヤに、レンも同じように膝を付く。
そうすると本当にナオヤが自分に縋っているように見えてレンは悲しくなった。こんなになるまで追い詰められていたのに、どうして自分はすぐに一緒に行くよと言ってやらなかったのだ、と。
ナオヤが俯いてしまった所為で、彼の表情はうまく読み取れない。
ただレンの腕を掴むナオヤの手は、僅かだが震えていた。

「俺と、来い…蓮…っ」

ぽつ、と膝に何かが落ちる音がした。
信じられない気持ちになったけれど、それは確かに涙だった。
レンは彼は泣くところを見たことがない。瞳が潤んでいるのだって目薬を差した時以外に見たことがなかった。
胸が締め付けられるとはこのことだ、とレンは思う。こんなになるまで彼を追い詰めたのは自分だ。
そっと手を伸ばし、ナオヤを抱きしめる。ナオヤの身体が一瞬強張ったように感じた。

「一緒に、行くよ」
「…蓮」
「ごめん、ほんとごめん…、オレ、ちゃんと一緒に行くから」

悪魔が傷つかない世界をと望んでいたはずなのに、人が苦しまずに済む世界を望んでいたはずなのに、彼の辛さを見落としていた。
ナオヤは、いつだって傲慢で、こちらの迷惑なんか顧みなくって、けれどレンに対してはこちらが驚くほど甘くて、そのくせいい格好ばかりしたがる性質の悪い大人のはずだ。
間違っても弱弱しく泣くような彼は、レンの知るナオヤではない。

(もう二度とナオヤが哀しむようなこと言わないから)

ぎゅっと抱きしめて、泣かないでと願う。
レンの願いが聞き届けられるにはしばらくの時間を要したが、彼はぱっと涙を拭い立ち上がると、先ほどまでの醜態が嘘のように尊大な態度で、さっさと行くぞ、と言ってレンの手を取った。
一見無表情を装った彼の耳は赤くて、感情を高ぶらせた所為か繋いだ手は熱い。
それが少しおかしくて、レンはナオヤに気づかれないようにそっと笑った。

(ごめんね。ちゃんとずっと、一緒にいるからね)

(もう、離れたりしないからね)

              


ナオヤさんの対主人公用最終兵器「泣き落とし」。
発動されるのはきわめて稀です。

…や、あの、たまには弱弱しいナオヤさんを書いてみたいなー…なんて。
うちのナオヤは主人公に嫌われたら生きていけません、多分。
でもって基本的にはナオヤさんはちゃんと大人なんだけど、実は主人公の方が大人だったりすると楽しいナオ主。
この後みなさん追いかけてくる予定。この辺大抵公式無視ってる(がくり)

2010/10/26 改訂

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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