堕天した御使い
古の契約に従い、万魔の王となりし者の為に反旗を翻せ。

「…さあ、おいで」

面倒な召喚の儀式はプログラムが代わってやってくれる。けれどそこにある契約はナオヤが作ったプログラムが代行していようと、レンが順序だてて行おうと差異はない。
魔神と龍王を生贄に差し出し、代わりにやってきた人ならざる者は、レンの姿を見咎めた途端、眉を顰めた。

「…蓮。何用ですか?あなたは神に背いた。私などを呼び出して何をしようというのです?」
「神に背いたオレの元へ呼ばれたのなら、理由はわかっていると思うけど?」

くすりと微笑んで返す。
朱色の羽と淡い白の羽を持つ天使、アマネの中にいたはずの天使。神の御使いであり、レンに救世主になれと言ったレミエル。
彼はレンの言葉を受け、呆れたように溜息を吐いた。

「天使もさ、悪魔と一緒で生贄と引き換えにやってくるんだね」
「何が仰りたいのです?」
「天使も悪魔も神も、等しくバケモノだってこと」
「…あなたから悪魔をバケモノだと言う台詞が聞けるとは思いませんでした」
「そう?だって、オレはそのバケモノを愛してるし、人の子もみんな等しくバケモノだと思っているよ?」

微笑みながらそう伝えると、レミエルは驚いたようで、ほんの少しだけ、眼を見開いた。
バケモノだなんて、一度だって思ったことはない。異形であるだけでバケモノだっていうなら、動物だってバケモノだ。けれど人は悪魔をバケモノと言う。天使も大方悪魔のことをそう見ているだろうことくらいレンにだってわかる。
(でも、レミエルだって同じ異形の者だ。あえて言うなら、バケモノでしょう?)
皮肉を込めた物言いは予想以上にレミエルの動揺を誘えたようで、笑い出したい衝動をやり過ごすのに相当労力を要した。

そうっと手を伸ばし、レミエルの頬を包む。
彼は呼び出されたのだ。召喚された悪魔や天使は召喚した者に逆らえない。たとえ、意に沿わぬ行いをされようとも。

「オレは、悪魔の子たちが好きだよ。純粋で、本能に忠実で愚直に過ぎるほどまっすぐだから」
「人を堕落させるだけの存在ですよ、悪魔など」
「オレは天使の子たちも好きだよ。純粋で、当たり前のように神を絶対の者だと信じている」
「所詮神に背こうとしている者の言葉ですね。御主の御意思も知らず」
「…だって神は嫌い。でも悪魔や天使はどちらも好きだよ。だから君も、オレのところへおいで」

悪魔が好きだ。彼らの為にも自分は神と戦い、万魔の王となる。
けれど天使も好きだ。神になど従わず、自分の力で立てばよいのに。
自分の許で、いや、魔王となりし者の許で、自分の足で立ち、自分の目ですべてを見極めろ。
レンの呼び出しに応じ、自分の目で何かを見ることを怖れない天使なら、レンだって無駄にその命を奪わずに済む。

「…どちらにせよ、私は呼び出された身。あなたが契約を破棄しない限り、私はあなたの許を離れることは出来ません」
「そうかな?なんか言い訳みたい、レミエルの言葉」

(だって、呼び出しに応じなければよかったんだ。)
呼び出され、それに応じた時点で契約は成される。ならば、呼び出しに応じなければ契約は成しえないはずだ。
だからレンの召喚に応じ現れた時点で、彼は自分の許に侍る覚悟があるのだろう。

「君は聡明だね。神の言葉を信じるふりをしながら、人の言葉にも真実があるんじゃないかって思っている」
「戯言を」
「悪魔の言にも耳を貸してくれるようになってくれたらいいんだけど」
「無理でしょうね」
「やってみないとわからないじゃない」
「命令ですか?」
「命令って言ってやってくれるならそういう」

頬を包んでいたレンの手にレミエルの手が重なる。人ならざる者にしては、あまりに人じみた手のひらだ。
人と同じ体温。自分と同じ体温。どれほど神に疑問を抱いて嫌悪しても、天使までは嫌いになりきれない。

「オレと一緒においでよ。自分の目で見極めて、神を見定めればいい。立場を変えれば見えてくるものがあると、君たち天使はそろそろ気付くべきだよ」
「どこまでも不遜な物言いをする。神に背くだけでなく、私たち天使をも取り込む気ですか?」
「そうだね。取り込まれてくれる?」

茶化すように言うと、レミエルはふわりと微笑んで、レンの手のひらに爪を立てた。

「私を取り込むのは、蓮、あなたにとって邪神を侍らせるよりも危険かもしれない」
「構わないよ」

いつか寝首をかくかもしれませんよ?とレミエルの目が訴える。その視線を真っ向から受け止めて答えると、手のひらに立てられていた爪はすぐに引っ込んだ。
代わりに今度は爪痕を撫でる。大した痕が残っている訳でもないのに、そっと労わるようになぞる指がどこかおかしかった。

「嘘ですよ。私たち天使でも、人を謀るような嘘が吐けるんですね」
「君がオレの呼びかけに応じて出てきた時点で、君はもう純粋な天使じゃないのかもね」
「ふふ、では私はすでに堕天使という訳ですか。ならば神にelの綴りを返還しなければなりませんね」
「ルシファーみたく?」
「ええ」
「じゃあ君は、もうオレのものだね」

ふと口をついて出た台詞に、レミエルは一瞬目を見開いた後、笑った。
清廉な天使の微笑ではなく、どこか人を食ったような、悪魔のような微笑みで。
それでいいと思う。
何も考えず、ただ神の御言葉にのみ従い、自分の意見を持たず、駒として生きるよりは。
契約ばかりは創世神とて破れない。
自分の足で立ち、何が正しく何が間違いか見極め、神が絶対の善であるという妄想から解き放たれるといい。

              


レミ主…の予定。
時期的にはバ・ベルに上る直前で。
アマネの中にいて、一番レンたち人間に接触してたからこそ、人なりの真実があるのではと考えたレミエルさんがレンの召喚に応じたっていう。
レンはこれを境に自分の意志をちゃんと持ってる天使さんを片っ端からスカウトしてくれたらいい。
でもってなんで天使のくせに魔界にいるんだとか悪魔に文句言われてケンカしたら楽しい。

2010/10/26 改訂

           

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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