月明かりの下で
「薄浅葱の髪が月明かりに煌いて宝石みたいだね、クイーン」

恭しく礼をする金色の髪を持つ悪魔はチェシャ猫のような笑みを張り付かせて万魔を統べる女王の前に立った。
魔王となって数ヶ月。悪魔は魔王となった少女をクイーンとして崇めた。クイーンの名は花蓮。魔王となるまでは、どこにでもいる高校生だった少女だ。
目の前の悪魔はロキ。花蓮が人である頃から、何かと付いて回っていた悪魔だった。

「…また来たの?ロキ」
「恋をした男が恋い慕う少女の元を訪れるのに、理由がいるのかい?」

バルコニー越し、空中に浮かぶロキは自分の口にした台詞がおかしかったらしく、くすくすと笑っている。
花蓮はと言えば笑うより先に呆れてしまって、何も言う気になれなかった。
胡散臭い台詞も、その笑い方も、何もかもが苛立たしい。ロキのそういうところが花蓮は大嫌いだった。

「そんなくだらない用なら帰って。急がしいの。これでも」
「僕と語らう時間もないほどに?」
「ロキと語らうような時間を割くくらいなら寝たい。夜更かしは美容の天敵なのよ」
「相変わらずつれないね」

仰々しい溜息を吐いて、ロキは一歩前に踏み出した。空中も彼にとっては地面と大差ないのか、そこに見えない道があるかのように近づいてくる。
そっと伸ばされる腕を、まっすぐにロキを見つめたまま、花蓮は待った。

「へぇ?逃げないでいてくれるんだ?」
「どうして逃げなきゃいけないの?」

逃げる必要なんてない。自分は万魔を統べる女王。彼はその女王に侍る悪魔のひとり。
少しばかり手癖が悪いことと気分屋なところを除けば、魔界にとっても自分にとっても有益な存在だ。
触れる程度どうということはない。害を成そうと言うのではないのだ。だからこの手も振り払う必要がない。
口の端だけで笑んで見せれば、ロキは一瞬動きを止めて花蓮を凝視した。

「クイーンは悪魔を恐れない。クイーンは悪魔を統べる魔の頂点だからね」
「わかってるなら」
「けれど君は女の子だよ。女の子は、男を恐れるべきだ。でないとそのうち、取り返しが付かなくなるよ」
「きゃあ!」

ぐっと急に距離が狭まり、抱えあげられる。自力で浮くことも出来るけれど、誰かに抱えられて宙に浮くのは心許無くて、思わず花蓮は身を竦ませた。
間近に感じるロキの存在に思わず縋りそうになって、それをしてしまうのはなんだか悔しくてただ身を硬くしていると、ロキは珍しく笑みを乗せないまま花蓮を見た。

「いつになったら、君は僕を君に侍るだけの悪魔以上に思ってくれるんだろうね?」
「…そんなの、待つだけムダだわ」
「永遠に近い時間を費やしてでも、君がその気になってくれる確証があるなら僕は待てるよ」

胡散臭い笑みを乗せて言う愛の言葉は信じるに値しないと思うし、跳ね付けることは簡単だ。
けれど稀にこうやって、真剣な瞳で告げられる言葉に対して花蓮はうまく返すことが出来なかった。
悔し紛れに、ばかみたい、と呟いて、それからふっと身体の力を抜く。

「落したら許さないからね」
「もちろんだよ。さあクイーン?今しばらく月夜のデートにお付き合いいただいても?」
「……ばかみたい」

月明かりに照らされたロキの金色の髪はとてもきれいだったけれど、それを言ってやるのは悔しくて、花蓮はふい、と視線を逸らした。

              


レンが女の子だったら、ではなく主人公が女の子だったらという設定でロキ主。
…とのことだったので、蓮ではなく花蓮という名の女主人公を書かせていただきました。
ネコミミ君が女の子というのもレンが女の子と言うのも考えたことがなかったのでちょっと勝手がわからないまま書いたんですが、いかがでしょうか…。
マリ先生とかに恋の悩みを相談したりっていうアイデアも出していただいたんですが、り、力量不足でした…。

2010/10/26 改訂

           

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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