僕が望む世界
(あれ、オレはどこにいるの?)
気付けば辺りは眩い光に溢れていて、見慣れた赤い空も街並みもなく、美しい花々が咲き乱れていた。
(ここは、どこ?)
ぱちぱちと瞬きを繰り返していると、背後から愛しい人の声が聞こえる。
振り返ればやはり思ったとおりの人物がいて、シイナに微笑みかけてくれていた。

「あともう少しだ…、もう少しで奴を倒し、奴の呪縛から逃れることが出来る…。そうすれば俺たちは自由だ」
「ナオ兄…」
「どうした、シイナ。まさか迷っている訳ではあるまいな?」
「う、ううん」

ああ、そうか。
そうだ、今は神との最終決戦に赴く真っ只中だ。
認識してしまえばここがどこであるかも自分が何の為にいるかも容易に理解することが出来た。
永劫続くナオヤの苦しみから解き放ち、ナオヤの願い通り他の誰でもないア・ベルである自分が神を打ち倒す。
ナオヤの望んだシナリオ。そしてシイナの望むシナリオ。
そうして迎えるのは、至上の楽園であるとシイナは疑わなかった。
ナオヤと自分が永劫共にあり、永劫別離の訪れない、ナオヤと自分の楽園。ナオヤの嫌いなもの全てが消え、ナオヤの悲しみの種になるもののない世界。それはシイナにとってこんな神の創った紛い物の楽園なんかよりずっと美しい世界だ。
そんな世界が来ると…いや、創ると、シイナは思っていた。

「やめて。やめてよ…」

神は倒せた。いっそ呆気ないほどに、創世神であり唯一絶対の支配者はシイナの前に膝を付いた。
けれど神を打ち倒した所為でナオヤが苦しむことになるなんてシイナは考えてもなかった。ナオヤが転生を繰り返し因子となったア・ベルとは違い、彼がカインでしかないことを忘れていた。
崩折れるナオヤの傍に駆け寄り、必死に声をかける。普段から青白いナオヤの面がそれ以上に色を失って、ひゅーひゅーと音を立てる喉元を長い指先が掻き毟っていた。
(嫌だ。嫌だよ、ナオ兄…!)

『君はいつか、神に打ち勝つだろう。けれどその時、君は一番大切な者を失うだろう。そして君の兄が味わった以上の孤独を味わうことになるだろう』

いつだったか、ロキが自分に吐いた言葉がシイナの脳裏に甦る。
(まさか、あの馬鹿、これを知っていたの…?)
意地の悪い笑みを浮かべ、愉快そうにシイナを見下した紫の悪魔。自分の呪詛は解かれたことはないんだと自信たっぷりに哂った悪魔。
それに対してシイナはあの時、嘲笑するばかりだった。それが何を指すのかも知らず、所詮は悪魔の戯言と気にも留めなかった。
(ナオ兄…っ!)
涙がぼろぼろと零れていく。彼のこんな姿が見たくて、自分はこのシナリオを選んだのではない。
彼と共に、彼にとって優しい世界で、永劫壊れることのないナオヤと自分の為の世界を望んだだけなのに。
どうして彼はこんなにも苦痛に顔を歪めているのだ。どうして彼の首筋からは血が流れているのだ。どうして彼の目はこんなにも虚ろなのだ。
どうして自分は、この可能性を考えなかったのだ。

「ナオ…兄…」
「あ…っぐ…」
「ナオ兄っ!しっかりして…!」

嫌だ。ナオヤが死ぬのは嫌だ。ナオヤのいない世界など、シイナにとって何の価値もない。
ナオヤの心の臓が止まるのなら自らのそれを抉り出して彼に渡そう。目玉が潰れたなら、両の目を刳り貫いて彼に渡す。
血が必要なら、自分の内側に流れる全ての血を彼に渡して構わない。
ベルの王の力全てをもナオヤに差し出すから。
(ナオヤを、助けてよ…っ)
強く目を瞑った瞬間、何か強い力で魂ごと引きずられるような感覚がした。

   

「っ!」
「ククククッ…お目覚めの気分はどうだい?魔王様」

目を開けるとそこには苦しむナオヤの姿の代わりに金糸の髪の悪魔があり、眩い世界もなく、美しい花もない、慣れ親しんだ魔界の景色があった。

「…お前が見せたの?」
「今のまま進めば必ずやってくる未来のビジョンさ。お気に召さなかったかい?」

カッと目を見開き、内側を巡るベルの王の力を解き放つ。
一筋の閃光がロキ目掛けて放たれたものの、それは彼の金糸を散らしたに過ぎなかった。

「相変わらず、ノーコンだよね、魔王様」
「そうかな」

けれど、ロキの動きもシイナはわかっている。
微妙な角度をつけてターンした光が、ロキの移動した先に背後から襲い掛かった。
背中からまともに食らったロキはさすがに相当な痛みを受けたのか、ぐ、と膝を付いた。
少しくらい情けない顔をすればシイナの溜飲も下がるのに、彼は相変わらず人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

「ハハハッ…さすが魔王様。僕みたいなヒヨッコの魔王なんかじゃもう太刀打ちできないね」
「…なんで見せたの。あんなもの」
「美しく愚かな元人間の魔王様へ贈るプレゼントさ。君はどうも僕の呪詛を本気にしていないみたいだったからね」

心底愉快そうに言うロキをこれ以上相手にしていたくなくて、シイナはそっと風の中に身を委ねた。
去り際、ロキが、僕の十八番なのに、とまた一つ癇に障る笑いを浮かべて、肩を揺らしているのが見えた。

(あんな未来、絶対に認めない)

風の中彷徨ってナオヤの部屋に降りる。
幼き頃より見てきた背中が、幼き頃と同じようにそこにあって、シイナは思わず抱きついた。

「しい?」
「ナオ兄…」
「どうした、甘えたい年頃は過ぎたんじゃないのか」
「オレはいつまでだってナオ兄に甘えたいよ」

声のトーンがいつもより元気がなかった所為か、ナオヤは不思議そうにシイナを見る。
アルビノの瞳がシイナを優しく包むように見つめていた。

「ナオ兄はオレが絶対守るからね」
「ククッ…アツロウのように騎士を気取るか?」
「そうだね。それもいいかも。そしたらずっと一緒だよね」
「しいは良い子だな」

神を倒すだけではいけない。
ナオヤを本当の意味で呪縛から解き放たなければいけない。
それを教えられたのがロキからだと言うのは相当に癪に障るけれど、ナオヤの為ならばそれも致し方ない。
未来を変える。今はもう遠い昔、ナオヤに会う為だけに封鎖中奔走していた自分と同じ気持ちを抱いてシイナはナオヤにしがみつく力を強くした。

             


月代さまのサイト、EISTの50000ヒットのお祝い。ナオ主でダークな感じにラブラブ…予定だったんですが。
放置すると本気でやばいくらいダークになるのでどうしようかと迷った挙句あまりダークではないという最悪な事態でございます…。
ごごごごごめんなさい!
ラブラブなのかどうかも怪しくてごめんなさい!
シイナくんらしい病んだ感じが出ればと思ったんですが…力不足ですね…(ほろり)。
こんなものでお祝いと言うのもおこがましい気がしますが、50000ヒットおめでとうございます!

2010/10/26 改訂

           

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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