惚れた弱み
「アツロウ、大丈夫?」
「え?あ、ああ…」

心配げに見つめるレンにどうにか言葉を返すけれど、笑みを浮かべるのだけは難しそうだった。
象ろうとした笑みは変に歪み、無理のある笑みにしかならなかった。
ベル・イアルとの戦いを終え、夜が来た。ハルを救ったと喜ぶユズとは対照的に、アツロウの心は晴れない。
レンの気持ちを知っていた。
悪魔を帰還させる歌を作ろうと提案しても、制御プログラムを書き換えようと提案しても、結局彼は、他のどの道でもない、修羅の道を歩むだろうと。
それなのに彼は言う。ユズが眠りに付いた頃、アツロウの隣に寄り添って、困ったように眉を寄せて、優しく微笑みながら言う。

「ねえ、アツロウ…オレはアツロウが本当に望むなら、悪魔を制御出来るようにサーバーを書き換えたっていいと思ってるんだよ…?」

うそつき。
悪魔を利用するだけ利用するようなことを、レンは絶対に選ばない。
いや、選べないと言うべきか。
彼は優しく、そして意志を曲げない頑固さをも持っている。
悪魔にも天使にも、人間にも、等しく慈愛を注ぐような人間が、自分の示した道を選べる訳がない。
アツロウが示した道は、人間の為の道だ。天使の介入を遠ざけ、悪魔を利用し、けれど人が愚かであればまた今のような悲劇を生み出してしまう道。
そんな道を、自分で指し示しておいて何だが、レンが選ぶとは思えなかった。
そんなレンがアツロウに対してこんな問いかけをするのは、彼が誰に対しても優しくて、アツロウがレンの優しさに甘えないことを彼がどこかでわかっているからだ。
レンほど優しい人をアツロウは知らなかったが、同時にレンほど残酷な人も知らない。
彼は無意識に相手を自分の意のままに操ることが出来てしまう。

「なーに言ってんだよ、レン!」

ああ、自分は今度こそ、うまく笑えているだろうか。

「オレはオマエが望む道を一緒に行ければそれでいいんだ。オレはその道を増やしただけで、オマエはオマエが納得できる道を選べばいいんだ。オレのことなんか気にすんなよ」
「でも…」
「仲魔を守りたいんだろ?神様なんかに屈したくないんだろ?オレをあんま甘くみんなよな!どれだけオマエと一緒にいると思ってんだよ」

結果としてみれば、良いように扱われているはずなのに、まったくそんな気がしないのは、彼の優しさが残酷すぎるほど深いだけだと知っているからだ。
たとえレンが何も言わなかったとしても、彼の望むようにしてやりたいと思わされる、レンにはそんな雰囲気があった。
レンの残酷さは、優しすぎるがゆえのものだと知っている。だからこそ自分はこうやって無理にでも笑顔を作って彼の背中を押してやりたくなる。
自分の願いを押し殺してでも。

「なあ、レン?」
「…なあに?」
「たとえば、答えを10にする為の組み合わせっていくつあると思う?」
「え、なに、いきなり?」
「足し算でも掛け算でも割り算でも引き算でも、どんな公式使ってもいいし、どんな数字使ってもいい。なあ、いくつあると思う?」
「いくつって…そんなの多すぎてわかんないよ」
「だよな。オレ、今それと同じ気持ち」
「アツロウってたまにナオヤと話してる時みたいな説明の仕方するよね」

意味がわからない、と口を尖らせたレンの髪をそっと撫でて、アツロウは続けた。

「オレはオマエと一緒にいたい。これが答え。さっきので言う10な訳。オレが悪魔を制御しようって言ったのが、まあオーソドックスに5+5だとするじゃん?別にそれ以外でも構わないんだよ」
「4+6でも2×5でも?」
「そうそう。もっとでっかい数字だっていいんだ。答えが変わらなければオレはオマエを受け止められるってこと」
「……魔王に、なったって?」

不安げにアツロウを見るレンに、やはり、と心の中で溜息を吐きながら、表面上では精一杯の笑みを浮かべて返す。
当たり前だろ。オレはオマエの一番の親友だぜ。
親友という響きにほんの少し哀しくなったけれど、それには気付かないふりをする。
レンがレンの望む道を歩みやすいように。

「オマエ、優しいからさ。迷いやすいんだよ、今みたいに」

本当は、アツロウだって一生懸命考えた道だった。
悪魔を好いているレンが哀しまなくて、人間が便利な生活になって、天使が介入してこない、今までとは少し違うけれど、それでも日常へみんなで帰れる道。
くだらないことを笑って、全然大したことじゃないことで泣いて、学校帰りに寄り道して、休日には目一杯遊んで。
そんな日常への回帰を願わなかったといえば嘘だ。
けれど。
誰より、そう、ナオヤと同じくらいにレンを知っているアツロウだからこそ、レンの葛藤も願いも祈りもわかってしまったから。

「…優しいのは、オレじゃないよ」
「レンは優しいよ。ちょーっとにぶいけどな!」
「に、にぶ…!?」

自分の気持ちを押し殺してまでアツロウがレンの背中を押す訳を。
無理矢理に笑顔を作ってまでレンの負担を軽くしようとする訳を。

(オマエはいつになったら気付くのかなあ)

             


60000ヒットフリーリクエスト企画、蓮さまよりのリクエスト。
主に万年片思いなアツロウとそれに気付かない優しくて残酷な主のアツ主。
…どちらかと言うと、優しいのはアツロウのような気がしてきました。
なんかこう、いつもリクエストと違うものが出来上がってしまったような気がして不安だらけになるんですけど、どうしましょう…。

2010/10/26 改訂

           

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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