グッドモーニングコール
朝、生まれたばかりの太陽が空を明るく照らしてゆく。
薄青い絵の具に朱を差したような魔界の朝の空は、当初本来の魔界を知る者にとっても人であった者にも馴染みの薄い空だったが、人間界に魔界が生まれてから月日も経ち、それが当たり前になっていた。

「主、失礼する」

魔王城の主であり、万魔を統べる王の部屋に軽くノックをした後ゆっくりとした動作でクーフーリンは歩み入る。
ナオヤに感化されたのか、血圧が低いのか、レンは朝がとても苦手だ。誰かが起こさなければいつまでだって寝ている。そのくせ起こされずに他の者が朝食を終えてしまってその後一人で朝食を食べることになると物凄く哀しそうな顔をするものだから性質が悪い。その為魔王に甘い魔王軍の面々は誰からともなく起こしてやろうと言い出した。
そしてその役目は今、専らクーフーリンが担っている。
最初、ナオヤが起こしに行くと言ったのだけれど、彼も朝が弱く滅多に起きてこない。アツロウでは返事だけで眠ってしまうし、他の者でも同じだった。
次いでロキが名乗りをあげたが、眠っているレンに悪戯をしかけでもしたのか返り討ちに遭い、結局一番まともに準備をさせられたクーフーリンに役目が回ってきた。
それがいつの頃だったかは覚えていないが、とにかくまだこの空に馴染みが薄かった頃からずっと、クーフーリンはこうして毎朝彼を起こしにきている。

「主、朝だ。起きられよ」
「んー…」

呼びかけても寝返りを打ってシーツに包まりすやすやと眠り続けている。
だがそれもいつものことなので、先ほどの声かけにも大した意味はない。
小さく丸まって眠るレンは可愛らしくあどけないが起こすのが役目のクーフーリンは申し訳なく思いながらもシーツに手をかけた。

「主、起きられよ」
「…や…寝る…ねむい…」
「今日の朝食は主の好きなパンケーキだそうだ」
「…ぅ…でも眠い…」

シーツを剥ぎ取って肩を揺する。目は閉じられたままだったが、この時点で反応が返ってきただけでもまだいい。ひどい時にはどれだけ揺さぶってもぴくりとも反応が返ってこないのだ。

「チーズオムレツもあるらしいぞ」
「…オムレツ」

うっすらとレンの瞼が開いた。
脇の下に手を差し込んで起き上がらせ、ベッドの端に座らせる。
持ってきた洋服を差し出すと、未だうつらうつらとはしていたものの、ちゃんとそれを受け取りレンは着替え始めた。
寝ぼけている所為かボタンを留めるのにもたついているレンの手をゆっくりと外し、きちんと嵌めて整えてやる。ズボンはどうにか自分で穿けたらしいがやはりというかベルトの部分でもたついていたのでそれも止めてやった。
人間から恐れられ、天使から忌まれる万魔の王も寝起きは本当にただの子供だ。

「主、起きているか?」
「…ん」

起きていないな、と思いながらも服を整えてやり、もう一度ベッドに座らせた。
そして今度はブラシでゆっくりと髪を梳く。レンの髪は柔らかい。毛先が跳ねるのはセットしている訳ではなくただの癖毛なのでさっと梳くだけでいつもの髪型に納まるのだけれど、それでも丹念にブラシを動かし、ゆらゆらしているレンの身体を支えた。
ブラシをしまい、レンの足元に跪く。片方ずつ足を取りそっと靴を履かせると、舌足らずな声でありがとう、と返ってきた。

「構わない。食堂まで歩けるか?」
「…ん」

どうにか立ち上がって歩き出すものの、足元が覚束ない。やはり、と思いながら駆け寄って横抱きに抱え上げた。
これもいつものことだ。
寝起きのレンは見ているこちらの方がハラハラしてしまうような行動をする。どうも他の者に言わせるとクーフーリンは相当過保護らしいが、この状況を見れば誰だってそうなるだろうとクーフーリンは思っていた。
食堂に行って朝食を食べ始める頃にはどうにか目が覚めるとわかっているが、それまでは本当に危なっかしい。
身体に力が入らないらしいレンをしっかりと抱え、ゆっくりと歩き出す。腕の中で困ったように笑いながらレンが呟いた。

「…ありがと…」

そう言ってレンは目を閉じ、どこか甘えるような仕草で頬をすり寄せる。それにクーフーリンは小さく微笑んで返した。
凛と背筋を伸ばして戦場に立ち天使を屠る姿とはかけ離れた彼の姿が見られるのは、そんな彼にこんな風に甘えられるのは、純粋に嬉しいと思う。
いつだって甘えることを嫌がる彼が素直に甘えるのは寝起きくらいだから。
しばらく歩いていると、レンの首がくたりと下がった。

「主?」
「………」

いつの間にだろうか、気付けばレンはすぅすぅと規則正しい寝息を立てて眠っていた。
無防備に寝顔を晒すレンをそっと抱えなおし、先ほどよりもずっとゆっくりと歩を進める。
食堂へ続く廊下をそれこそ長い長い時間をかけて歩いた。階段を下りる時も一段一段ゆっくりと、段差の衝撃でレンが目を覚まさないように。
一瞬で移動することだって出来ない訳でもないのにそれをしないのは、レンを少しの間だけでも眠らせてやりたいと願うだけでなく、クーフーリン自身がもう少し彼のぬくもりに触れていたいと思っているのに外ならなかった。

             


クフさんは恋愛には不器用だけど、いろいろ几帳面そうなので。
多分ロキは最初起こしにいった時にうざいとか言われて万魔の乱舞(真・全門耐性持ちだから)辺りを食らわされたんだと思います。
…てゆか、うちの主人公、食い意地はってますよね。佐倉さんも寝起きにいちごがあるよって言われたら起きるけど。

2010/10/26 改訂

           

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル