無意識破滅型
彼は誰かと繋がりたがるくせに誰かと自分を区切ることが好きだ。
いや、好きというのは語弊がある。
周りの者を幸せを願うくせに自分の幸せは願わない。願っているのかもしれないが、少なくともロキの目にはそう見えなかった。

「神って、オレ一人で倒せないのかなあ」
「…え?」

ある日、ケーキを持ってレンの元を訪れると、ベッドにだらしなく横になって窓をじっと見つめているレンの姿があった。
ケーキだよ、と言えばいつもなら飛びつくように起き上がるのに、今日は何故か視線も寄越さない。何かあったのかと訝るロキに、レンは突然そんなことを言った。

「軍を動かさずにさ、…えっと、タイマン?だっけ、そんな感じで戦えないかなあ」
「それは、…無理じゃないかなあ」

現実的に考えたとして、確かに今の魔王軍には神に対抗しうる力がある。強い悪魔も揃っているし、天使の中にもレンの元へ降った者も多い。
だが、それは軍というものの力だ。神の許には未だ無数の天使がいるし、創世神なだけあって、奴は天使を生み出すことが出来る。レンには出来ない。それを軍で立ち向かうのではなくレン一人でなんて。無謀とまでは言わないが、レン御付きの悪魔も叡智たちも許しはしないだろう。もちろん自分だって承認することは出来ない。よしんば勝ったとしてもそれではレンの身が保つかどうかわからないのだ。
ベルの王も悪魔も不老ではあっても不死ではない。もちろん天使や神にもそれは言えるが、とにかくそれではレンの身が危ないし、その上で神から開放されたとして、自分たちは何の為に、何に対して喜べばいいのだ。

「なんでまたそんなこと思ったんだい?」
「…どうやっても、被害がまったく出ないっていう状況が作り出せない」
「自分一人でなら被害が出ないんじゃないかって?」
「そう。ウッカリオレの方が死ぬかもしれないけど、どうにかして神だけは倒せたらそれが一番いいのにって」
「ウッカリで済まないよそんなの」

(蓮君は破滅型だ)

自分を大事にしなければ周りが哀しむとか、そういうことを考えない。
周りさえ幸せであれば自分は後回しで、本人はそうは思っていないかもしれないが自己破壊に近いこともよくしている。
それを知らずに王と崇めている悪魔を見ると、同胞とわかっていても殺したくなるほどだ。そんなことをすればレンが哀しむことくらい考えなくても予想がつくのでそれを実行したことはないけれど。
誰かが止めなければいけない。でなければ彼はそれこそ刺し違えてでも一人で片をつけようとする。誰も喜びはしないのに。

「一人で幾万の天使と天使を作り出せる創世の神を相手取って勝てるつもりなの?」
「……」
「それは余りにも自分の力を過信してるよ。君は強いけれど、相手だって相応に強いんだ。愚かだよ、そんな考えは」
「わかって、る、けど…」

重ねて言い募ろうとしたロキはレンの声音の変化に慌てて口を閉じる。
言い過ぎたのだと自覚した時には遅く、何か労わる言葉をかけなければと思うのに、先ほどとは違い、思うような言葉は出てこなかった。

「…どんなに強くなったら誰も死なずに済むんだろう」

「あとどれだけ強くなってあとどれだけがんばれば、みんなを傷つけずにみんなが幸せな世界を作れるんだろう」

「あと、一体、どれだけ…」

言葉を発せないロキなどお構い無しで言葉を紡ぐレンは、ロキを相手に話をしているようには見えなかった。ただ感情を吐露している。そしてその感情はと言ったら優しすぎて苦しくなるような痛みを伴うほどの周りの者に対する慈愛。
いよいよ聞いていられなくなって、蓮君、と声を発すると、思いの外その音は強いものになった。

「…ごめん、あは、なんか弱音っぽいね、だめだな、ちゃんとしなきゃ」
「蓮君…」

思わず表情を消して見つめてしまった。
僅かに見える彼の表情が、笑った形をしているのに泣いているように見えて。
持ってきたケーキの箱の取っ手をぎゅっと握って、胸に広がる苦いものをどうにか押さえ込む。
優しすぎて、人のことばかりで、そうやって苦しみを背負い込んで、自分を追い込んで、その内壊れてしまいそうだ。本当に無意識的な破滅型だ、と息を吐きながら思った。

「…どうして、それを僕に?僕のことそんなに信用しちゃっていいの?」
「ふふ…どうしてだろうね。気が向いた、からかな。あと、たまたまちょうどよくお前が来たから」
「僕はトリックスターだよ?事態が面白おかしく転がるなら、君の心が弱くなっていると天使たちに告げ口することすらするかもしれない」

乾いた笑いを浮かべながら思ってもないことを言うと、レンは小さく笑って、それからロキを見ないまま、言った。

「お前はそんなことをしないよ。今のお前は絶対にオレの不利益になることだけはしない」
「それは…、…ちょっと甘いんじゃない?」
「いいんだよ。お前がオレのこと好きなのはちゃんとわかってるし、それくらいは信じてやって多分ちょうどいいと思うから」
「っ!」

それにね、と今度は起き上がってロキの目を見つめて微笑んだ。

「オレ、お前のこと、言うほど嫌いじゃないよ」

だからいいんだ。弱音を零したのがお前で、多分間違ってないから。
そう言われて、何故だか急に泣き出したくなった。泣いた記憶なんてほとんどないけれど、とにかくそんな気持ちになった。

「そう言えば、ケーキ持ってきてくれたんだよね?一緒に食べよう」
「え、あ、うん」
「今日はオレがお茶淹れてあげる。弱音吐いちゃったお詫びに特別ね」

先ほどまでの姿は見間違いだったのかと思うほどの変わり身で、少しだけ申し訳なさそうに口にしながら、レンはベッドから降りた。
今度こそレンはちゃんと笑っていたけれど、返す自分の笑みは少し引き攣っていた。

繋がりたがるなら切り捨てないで。
命を預けて共に来いと、命を捨てる覚悟で自分と来いと、いっそ都合のいい手駒だと言ってくれてもその方がずっといい。
自分が周りの者を大切に思うように、周りから自分がそう思われていることをこれっぽっちも理解しない。愛するばかりで愛されようと思わない。

(蓮君はひどい)

(悪魔なんかよりずっと、優しくひどいことを平気で言う)

(僕たちには責めることも許してくれないくせに)

責めれば傷ついた顔をして、駄目だと諌めればわかったふりをして頷いて、ぱっと隠して話題を変える。
だからこちらはそれ以上何も言えなくなるのに、ひっそりと彼の心のうちには選択肢として残されている。そして最後、どうにもならなくなった時は、自分たちの止める声も聞かずにそれを選ぶんだろう。

(僕が、どんなに止めても)

それが、彼の中で最善だと確定してしまったら。
握り締めたままだったケーキの箱の取っ手は完全に潰れて原型をとどめていなかった。

              


まあ多分うちの悪魔さんたちは死ぬ気で止めますけどね。そんなことになったら。
ふつーに戦えば多分勝てるだけの戦力はあるんですけどね、うちの魔王軍。
犠牲をまったく払わず勝とうと言う甘さがゆえに現状維持みたいな感じです。

           

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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