あちらとこちら |
ある日、魔王城の地下倉庫の中で古めかしい鏡が一枚発見された。 城自体はレンが創造したものの、内装までは関知していないので稀にこういったものが見つかることがある。そもそも地下倉庫があったことすらレンは知らないだろう。未だレンですら知らない箇所が城の中にはたくさんあった。 そしてその誰も知らない倉庫の中で鏡の癖に何も映さずただ光だけを反射する鏡を見つけたのはロキだった。 事の起こりは特になんでもない日常から始まる。 相変わらず愛情の表現方法を知らず、贈り物を捧げることでしかそれを示せないロキは、その日もレンに贈り物を届けようとしていた。 贈ろうとしたソファをレンのいない間に部屋へ放り込み、代わりに元々レンの部屋にあったソファを持ち出してどこかへ押し込もうとしていた矢先、都合よく倉庫らしきものを見つけたのだ。 その倉庫には数多の年代を駆けた装飾品が無造作に置かれていて、その中で見つけた一枚の鏡はとても美しい装飾が施されていた。一瞬で見る者を魅了するような美しい鏡。 映すことを目的とするならばこれに鏡としての価値はないかもしれないが、その鏡からは強い魔力が感じられる。しかも相当に変わった類の魔力だった。 レンの部屋のイメージとは違うかもしれないが、磨き上げればこの鏡は今以上に美しく、そして魔王としてのレンに似合うだろうと思い、その鏡をレンの元に届けることにした。 鏡にかけられた魔力が何なのかという若干の好奇心もあり、ロキはそうっとその鏡に触れたのだ。 「って訳で。…どう?」 鏡の上部に嵌め込まれた大きな石をロキが指し示す。無色の、けれどどこまでも透き通ったような美しい石だ。 「え、これ…」 確かに自分だ。けれど、目つきも髪の長さもなんとなく違う。普段使う鏡に映る自分とは何かが根本的に違うような気がした。 「ねぇ蓮君、パラレルワールドって知ってる?」 平行して存在する別次元の世界。いい加減非現実的な事柄に慣れていたレンは、ロキの言と目の前のパラレルワールドを映し出す鏡という現物で素直に納得した。 「ねえロキ、あっちのロキってマゾっぽいけど、お前もそうなの?」 あちら側のロキに繰り出される攻撃は重く激しい。それと比べると普段のレンとロキのやり取りなど子犬のじゃれあいのようなものにも思えてしまう。 「どうしたの?」 鏡の中のシイナが風に紛れるのと同時に、鏡が吸収した魔力も切れたらしく、映像はそこでぷつりと切れた。
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