あちらとこちら
突然だが、魔王軍の悪魔や幹部はレンを飾り立てることが好きだ。
美しいものや珍しいものを見つけてきてはレンに気に入られようと、その花のような笑顔を見ようと、たくさんの贈り物をする。
以前、クーフーリンがレンの名の由来となった花を贈ったことがあった。また、ロキが魔王らしくという言の元、実際はただの趣味なのだろうがプラチナのティアラを贈ったこともあった。
クーフーリンの贈った白き花は髪飾りとされレンの髪に飾られていることが多い。そしてロキから贈られたティアラもまた、レンの頭上で輝きを放っていることが多かった。
つまり、着せ替え人形よろしくレンは常に誰かからの贈り物を身につけていた。
シイナの魔界に赴いていた時でさえ、プラチナのティアラと、レミエルから贈られた高貴の意味を持つアメジストのピアスを身に着けていた。
そしてこの日、レンはクーフーリンから贈られた自分と同じ名の花を髪に飾り、オーディンから贈られた知識の石言葉を持つアクアマリンの指輪をしていた。
もしもこの時、悪魔を侍らせテラスで普段のように歌を歌っていたり、特に仲の良い悪魔を呼んでお茶会を開いていたのなら、状況はまた変わっていたかもしれない。レンは今、アツロウの部屋のパソコンでチョコレートファウンテンの材料の下調べに夢中になっていた。

  

「…レン」
「なに、アツロウ」
「俺たち目的もなくうろついてるけど、大丈夫なのか?」

この時、シイナとアツロウはガーデンを後にして当てもなく探索を進めていた。シイナには何か当てがあるのかもしれないが、アツロウにはわからない。訊ねても簡単に教えてくれるほど優しい性根をしている訳でもないシイナに視線を合わせながらアツロウはそれでも問うた。
レンそっくりに変化したシイナにはまだ少し慣れない。整いすぎるほどに整った美しい造作は変わりなく、ただ髪が伸びただけだ。元々のパーツだって似通っているのだから、別段髪の長さと呼称以外にシイナに変わったことはない。
ただ、話し方が少しだけ柔らかく感じる。それがおそらくシイナとレンとの決定的な違いなのだろう。
アツロウが訊ねた事柄にもことりと首を傾げてふうわりと笑って見せた。

「大丈夫だよ、アツロウ。心配しすぎ」

シイナは何でもないことのようにそう言うけれど、アツロウの不安は大きくなるばかりだ。
シイナの強さは知っている。バ・ベルの試練に打ち勝ち、強大な力を手にし、真摯にナオヤの為だけに強くあろうとしている彼の強さは良く知っている。
けれど、では、こちらの魔王はどうだろう。
こちらの魔界が、本当にシイナの言うように生ぬるい世界で、その頂点に立つレンも同じようにただぬるく、弱く、運だけでバ・ベルの試練を乗り越えたとでも言うのだろうか。そんなはずはない。
あの日、異界の魔王が連れていた従者は相当なレベルの猛者だった。
それを従えているのだ、レン自身が弱ければ魔界などとっくに崩壊しているはずだ。何と言っても悪魔は欲望に忠実で本能のままに生きる種族なのだから。
ピクシーたちがガーデンで花を育てているのだって、それだけの余裕があるという見方も出来る。そういう意味でもたった二人きりの今、下手な行動は慎むべきではないかとアツロウは思うのだけれど、おそらくはそんなアツロウの思惑すらお見通しで、それでもシイナは大丈夫だと言ってるのだろう。
彼は強い。けれど、自身の強さを過信しすぎる帰来があるのだ。
そして、彼が本気の力を発動させた時、自分一人でどうにか出来るかという不安もあった。

そんな不安を抱えながらただシイナについて歩を進めていると、一体の悪魔がこちらにやってきた。    

「陛下」
「あれ、クーフーリン、どうしたの?」
「いえ、お姿が見えましたのでご挨拶をと」

そう言って傅きシイナの手を取った瞬間、微妙な違和感がクーフーリンに芽生えた。
その違和感は何かであって、しっかりと名を付けられるほどの確固たるものではない。
けれど、どうしてもその手の甲に口付けることが出来ず、触れるか触れないかの僅かな距離で唇を止め、クーフーリンは顔を上げたのだが、もちろんそんなことはアツロウにもシイナにも知る由はない。クーフーリンとレンの挨拶は傍から見ればある種奇異なものでもあったので、普段の挨拶を知らないシイナにとってもそれが彼らにとって普通の挨拶なのだと納得したのだが、クーフーリンの方はその違和感に引っかかりを覚え、彼にしては珍しい言葉を吐いた。

「今日は私の贈った花飾りをつけてくださってはいらっしゃらないのですね」
「…!」

やばい。そう一番に思ったのはアツロウだ。もしもその花飾りが常にレンが身につけているものであったなら、すぐにばれてしまう。
けれどシイナはと言えば、

「うん、気分じゃなくて。ごめんね」

と、平然と返していた。以前シイナの魔界に来ていたレンをアツロウは見た訳ではなかったが、当然シイナは間近で相対しているはずで、であるならそれくらいのことは記憶にあったのかもしれないし、レンという名の魔王だって、四六時中同じものをつけている訳でもないだろう。焦った自分の方が情けなく、アツロウは思わず二人から視線を逸らした。
クーフーリンに対し、柔らかな微笑を湛えるシイナは、封鎖中全てを偽っていた時のように完璧な演技で以ってそれを乗り切ったはずだった。

「青い薔薇ばかりでは飽きもしましょう。何かご所望の品がありましたら」
「…そうだなぁ…、赤がいいな。ナオヤの眼と同じ色の花が良い」
「承知しました。では」

そう言って立ち去るかに見えたクーフーリンはゲイボルグを構え、こちらを睨みつけていた。切っ先は迷いなくシイナの首元に向けられている。
彼から感じられるのは殺気ではない。ただ、抑えようとしても抑えきれないといった雰囲気の憤りを感じる。これはただの主に対する忠誠に因るものだけなのだろうか。

「…何の真似?クーフーリン」
「我が主の名を騙る者よ。貴殿は異界の魔王だな」
「何を言ってるのかわかんないよ」
「私が主に差し上げたのは白き蓮の花だ。そして、主は赤を悲しい色だと言った。その主がそんな色の花を所望するはずがない」

くすくすくす。
さもおかしそうに、けれど花のように可憐に笑みを乗せながら、シイナの瞳が冷たく凍っていく。目の前のおもちゃをどうやって甚振ってやろうかと言わんばかりの、捕食者の瞳に変わっていく。
アツロウもまた、シイナの騎士たる者として目の前の古の騎士と対峙した。

               

                                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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