魔王ご一行のとある日の出来事。〜アツロウは決して主人公には勝てない〜
がちゃがちゃがちゃ。
城の一階にある、使われることの方が少ないキッチンで格闘する魔王の姿があった。
手にはボールと泡だて器。その中には生クリームと砂糖とバニラ。
天使との戦いよりもずっと必死な顔でレンはケーキを作っていた。

「ああもうなんでスポンジケーキをわざわざ焼かなきゃいけないの!?」
「スポンジケーキが必要になるなんて思わないからだろ…」
「なんで?ケーキ食べたいよ!?」

半ばキレ気味に愚痴を零すレンの相手をしているのはアツロウだ。人がいいアツロウはこんな時まで付き合いよく手伝いを申し出た。
レンは甘党だ。本人に言うと恥ずかしいらしく否定されるが、頻繁にケーキが食べたいと言い出すのはそれを肯定しているも同じだ。
定期的に甘いものを与えないとレンは彼らしくなく短気になるので日持ちのする焼き菓子を食料調達に行く際には買ってくることが義務になっている。
ただ、生菓子を食べたがることまで想定していなかった。
そう。食材はそれなりに揃っているものの、さすがにケーキを食べるとまでは想定していなかった為にレンご所望の焼かれたスポンジケーキは置いていない。
ケーキは作れるものの、スポンジを焼いたことのないレンは相当に憤慨したのだけれど、アツロウがネットで調べて作り方わかるから!と宥めたのが数時間前。
なんとか形になったスポンジを冷まし、三等分に切ってレンに渡すと、こちらも出来上がったらしい生クリームを乗せて形作っていった。

「…なんでいちごもないんだろう」

いちごが常日頃冷蔵庫にある訳がないというアツロウの中の常識は彼には通用しない。
けれどここで機嫌を損ねさせては元も子もないので、

「今度買ってくるよ。いちごもスポンジケーキも」

と、ご機嫌取りに勤しむことくらいしかアツロウに出来ることはなかった。これでも王の盾とか呼ばれてる人間?オレ、と少し悲しくなったけれど。
レンは仕方なさそうに生クリームだけを挟み、削ったチョコレートで飾りつけていく。あまりに真剣な表情なので、笑うのは憚られたけれど、一生懸命な様は見ていて微笑ましい。
そうこうしていると、多少いびつではあるものの、どうにかケーキは出来上がった。
これで失敗していたらケーキ屋を襲撃に行くとか言い出しそう…とまで思っていたアツロウはこっそりと安堵の溜息を漏らした。

「アツロウ、アツロウ、テラスで食べよう」

邪気のない笑顔でアツロウの服の袖を引っ張りながらレンが言うので、これまでの苦労も忘れて頷いた。
いつだってこの魔王にアツロウが勝てた試しがない。

              


拍手。2009/04/07から2009/04/26までのもの。

              

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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