「仮にも魔王なんだから魔王らしい格好したいんだよね」 と、レンが言い出したのは朝食の席。
サラダとトースト、ベーコンエッグ、とオーソドックスな朝食を食べながら魔王が言う。
「洋服そろそろ新しいの欲しいし」
「買出しに行くってことか?」
「うーん、オレ魔界から出れないからなあ」
がじがじとトーストを齧りながら首をひねる。東京にはもう人間はいない。当たり前だが店も営業はしていない。
多少破壊はしてあるものの、商品はそのままなのに勿体ないと思う。
…思って。
「ああ!」
「へ?」
「うるさいぞ、アツロウ。飯時くらい静かにしろ」
「あ、すみません」
「どうしたの?」
そう。レンは魔界を離れられない。服が欲しい。営業してなくても商品はある。
なら、取ってきちゃえばいいんじゃないか?
「え、それっていいの?」
「構わんだろう。どうせここに戻ってこようとする愚か者などおらんだろうしな」
「そうそう、ってことでメシ食ったら見に行こうぜ、レン」
ところどころコンクリートが剥き出しになっている壁。倒れたトルソー。元々はきれいな外観をしていたのに、と少しアツロウは残念に思った。
けれどそれを見慣れているのも事実で、危なげなく店の中を進んでいく。
魔王らしい格好と言うものがどういうものなのか考えてみたけれど、少なくとも一般的な、そう、カジュアルでないことだけは確かだ。
ゲームや漫画の魔王の記憶を手繰り寄せて思いついたのはゴシック系の店。
こういうのはどう?とレンに合わせてやると、これで少しは魔王っぽい?と訊ねられた。
幼い仕草は、魔王と言うには程遠いけれど、天使と敵対する時の彼の表情で身に纏えば、それは絵になるだろうと思った。
「でも高いよね、これ」
「いや値段気にしなくていいだろ、この場合!」
「あ、そっか」
うっかりレジまで持っていきそうなレンを制してレンの好みそうな服を片っ端から手に取っていく。
レジの棚からショップバッグを拝借して、折癖が付かないようにしまいこんだ。
「これでよし!」
「あ」
「うん?」
目的は果たした、さあ帰ろう、としたアツロウをレンの指が引き止める。
何?と振り返るとやけに目をきらきらさせたレンが言った。
「王冠!魔王って王冠いるよね!?」
…彼はどうやら魔王をどこか勘違いしているらしい。
拍手。2009/04/26〜2009/07/12までのもの。
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