たとえばそれが嘘だとして |
人が好きだよと彼は言った。 私が好きだと彼は言った。 うそつきねと私は笑った。 人が嫌いと私は言った。 あんたは好きよと私は言った。 ありがとうとあんたは笑った。 薄っぺらな笑顔を貼り付けて。 人でないくせに、人と同じ外見を持ち、人と同じように笑い、人と同じ言葉を使い、彼は生きている。 「君が好きだよ」 「いつもどこかピンと張りつめた糸のように気を張っている君が」 「弱くて強くて、かなしい人」 「君が好きだよ」 嘘ばかりね。うそつきな笑顔でうそ臭い台詞。馬鹿じゃないの。 「あんたは好きよ」 「何もかも見通したような顔して、どっか遠いところにいるあんたが」 「人の格好をした、人でないかなしい人」 「あんたが好きよ」 人の私は、人でない彼の考えてることなんてわからない。 それでいいの。 私の中でだけ真実であればそれでいいの。
拍手。2009/4/26〜2009/07/12までのもの。
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