「最近平和っすね」
「天使共も闇雲に戦いをしかけるだけではどうにもならんと気づいたのだろう」
「平和だと言って気は抜いちゃダメってことっすね」
「当たり前だ」とか人々に恐れられる叡智と盾が話し込んでいるのを黙って聞いていたレンはマカロンを口にほおばりながら首を傾げる。
三人でお茶をしているのに、なんだか疎外感を感じて会話に割って入ろうと思うけれど、口の中いっぱいに詰め込まれたマカロンの所為でしばらくは無理そうだ。
「………」
必死に咀嚼してマリの入れてくれたアイスミルクティーで流し込む。
自己主張の為に二人の服の袖を引いて、なんとか飲み込んだ後にレンは口を開いた。
「オレ、全然平和じゃない」
「どういうことだ?」
「何かあったのかよ、レン」
心配そうなナオヤとアツロウの様子にレンは少し表情を硬くして言った。
「夜な夜な胡散臭い紫色の馬鹿がやってきて安眠を妨害するんだ」
胡散臭い紫色の馬鹿。
そんなキーワードで思い浮かぶのは彼らの知る限り一人だ。
うっすらとではあるが、確かにレンの目の下にはクマが出来ている。鏡でそれを視認した時は、今までクマなんて出来たことなかったのに!とへこんだものだ。
レンの神妙な様子にアツロウは同情するように眉を八の字に曲げ、ぽんぽん、と肩を叩いた。
「………」
そこでふと首を傾げる。
ナオヤのリアクションがなさすぎる、と。
普段から兄バカ全開なナオヤが愛する弟の悩み(と言うほどのものかはさておいて)にここまで反応を返さないのは珍しい、とアツロウもレンもナオヤを見る。
……。
アツロウは思った。見なければよかったと。
レンは思った。ナオヤには言わなければよかったと。
しかし見てしまったし、言ってしまった。事実は覆らない。
鬼のような形相でなにやら小声でぶつぶつ呟いているナオヤははっきり言って怖かったのだけれど。
「ナ、ナオヤ…?」
「ナオヤさん…?」
二人が声をかけるのにも構わず、ナオヤは立ち上がり、ふっと消えてしまった。
残された二人はナオヤのいた場所を見つめたまま、
「なあレン、安眠妨害って具体的には?」
「あー、うん、いつものようによくわかんない台詞吐いたり、訳のわからないお土産持ってこられたり、土産話を聞かされたり」
「…オレ、なんかナオヤさん誤解してる気するんだけど」
「誤解?」
「いや、うん、わかんねえならわかんないままでいいよ、オマエは」
言葉足らずな魔王と、勘違い暴走な叡智の兄弟は何かと人騒がせだ。
それに慣れているアツロウは、いつものこと、で片付けてしまえるが、ほんの少し、ロキが可哀想になった。
が、夜中にレンの部屋に上がりこんでいるという事実にひっそりとむかついていたので黙っていた。
その夜、紫色の馬鹿はレンの部屋にやってこず、レンは久しぶりに安らかな眠りというものを体験した。
あの後ナオヤが何をして、ロキがどうなったかなんて、誰も気に留めなかった。
拍手。2009/07/12〜2009/08/23までのもの。
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