カキ氷が好きな理由
「あ、カキ氷売ってる」
「え?」
「ほら、あんたも買いなさいよ。一緒に食べるの!」

夏以外の季節がなくなって久しく、夏の蒸し暑さにも人間は当然のことだと諦めをつけた。
けれど、暑ければ涼を取りたくなるのはそれこそ当然の結果である。
ネルフから家に帰る道すがら、アスカの見つけたレトロなカキ氷屋に相も変わらず引きずられるようにしてカヲルは連れて行かれた。
イチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイ。ああ、カキ氷、というようなラインナップが、これまたレトロな看板に書かれている。
それを見て真剣に悩むアスカの姿は微笑ましい。カヲルもその看板を覗き込んで、何にする?と訊ねた。

「うーん…イチゴかレモンね。あんたは?」
「ブルーハワイかな」
「そう。あたしどっちにしよう…」

散々悩んで、結局レモンシロップを選んだアスカは、満足そうにカキ氷を受け取って店のおじさんに愛想を振りまいている。同世代の男子に対する態度とは大違いだ。

「やっぱり日本の夏って言えばカキ氷よね!」
「そうかな?」
「そうよ。アイスクリームも好きだけど、カキ氷もたまには食べたいわ」
「アスカはカキ氷が好きなのかい?」

訊ねるといたずらっこのような笑みを浮かべて、ぺろ、と舌を出した。
その舌は合成着色料で黄色く染まっている。

「黄色くなってるでしょ?着色料って身体に悪いんだろうけど、あたしこれが好きなの」

彼女にしては珍しく屈託なく笑うので、カヲルも同じように舌を出してみる。
レモンのカキ氷のアスカの舌が黄色に染まっているのなら、ブルーハワイのカヲルの舌は青く染まっているだろうか。

「あはは!あんたの舌も青くなってる」
「予想通り?」
「そう!あんたがブルーハワイ頼んだ時、ちょっと楽しみにしてた」

カキ氷を口に運びながらアスカは笑う。
色の変わった舌に子供のように喜ぶ彼女は、どこにでもいるただの女の子だった。

         


拍手。2009/8/23〜2009/09/16までのもの。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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