夢の中の君よりも |
紅茶色の髪を風になびかせて、少女が笑う。 屈託のない笑顔で笑いかけられて、心臓が鳴ったと同時に、それが夢であると気づく。 彼女は一度だって、自分にそんな風に笑いかけてくれたことなどない。 そしてまた、笑った顔を自分に向けて欲しいと思ったこともなかった。 はずなのに。 夢の中だと理解しながら夢を見続けるのは、どこか滑稽で、どことなく淋しい。 彼女のことが好きなのかもしれない、と。 笑っていて欲しいと思うほど彼女と自分の距離は近しくないし、仲がいいとも言えない。 「でも、現実のアスカの方がいいなあ」 手酷く痛めつけられても、ばっかじゃないの?と見下されても、それでこそ彼女だと思うし、こんな風に優しく笑いかける彼女を見ていると、なんだか自分が惨めになる。 「ばっかねえ」 最後まで優しく微笑んだまま、彼女は消えた。 ぱちりと目を開けて何度か瞬きをする。光の加減からいって、まだ夜中だということはすぐに察することが出来た。 それは彼女への好意を自覚した日。 (まあ、だからって何も変わらないんだろうけど)
拍手。2009/10/7〜2009/11/25までのもの。
|