もしも今日、七色の虹を見かけたら。
もしも今日、季節外れの雪が降ったら。
そうしたら歩みだそうとしているのに、まさかね、やっぱり。いつだって今日も言い出せないと肩を落す。相変わらずラウンジの隅っこで壁に背を預けて何をするでもなくそこにいる。
出かけましょうと誘えばそれを断られることはない。それだけでも唯にとっては幸せな事実だった。
店に行く間、唯の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれることも、決して置いていったりしないことも、荒垣にとってはなんでもないことかもしれないのだけれど、恋する女の子はお手軽だ。唯の顔に浮かぶのは終始笑顔のまま。
二人きりで出かけるだけで、信じられないくらい嬉しくなる。
自分を気遣ってかけてくれた言葉に涙が出そうになる。
帰る時、行くぞ、と声をかけてくれるだけで笑顔がこぼれる。
人を好きになることがこんなにも素敵なことだなんて知らなかった。
すべてがきらきら輝いて、なんでもないことまで奇跡のように感じてしまう。
だからもっと、もっとと願ってしまう。
そうそう起きない自然現象を奇跡の目安にしてしまって、きっかけを一生懸命探してる。
もしも今日、伸ばしかけて止めた手に気付いてくれたら。
もしも今日、その手を取って歩いてくれたら。
そうしたらきっと、今日は素敵な日。
「……」
「何やってんだ、行くぞ」
「…はい!」
繋がれた手に満面の笑みを返して、やっぱりあなたがいれば今日も素敵な日。
まだ好きだなんて、言えないけれど。
2010/02/23〜2010/11/18までのもの。
何かきっかけを探して一生懸命なハム子と荒垣さんのお話。
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