辛いことは誰だって嫌。
苦しいのだって嫌。哀しいのだって嫌。
ひとりぼっちなんて絶対に嫌だ。
けれど、誰かがそんな思いをしているのを見るのは、もっと、ずっと、何より嫌だ。
だから別に構わないと思った。
自分がどれだけ辛くとも、苦しくとも、哀しくとも、誰かがその所為で泣くくらいなら、ひとりぼっちで泣く羽目になったって構わないと思った。(守りたかったの。ただ、それだけ、泣かないで)
白と黒の布地を見つめ、眉間にぎゅうっと皺を寄せて、滲み出る涙を必死に拭っている。
みんなは一人じゃなくて、みんなで一緒にいるはずなのに、みんなひとりぼっちの子供みたいな顔をしていた。
そんな顔をさせたくてこの道を選んだ訳じゃないのに。
涙の一つも流されなければ、勝手な自分はそれはそれで哀しむんだろう。
けれど、どうして、なんでと搾り出すように呟くみんなを見て、聞こえるはずがないのに必死で訴えた。
(唯は大丈夫…、ねえ、平気だから、…そんなに泣かないで)
死と戦って、死を封じて、自分の身体は世界に溶けた。
どこからが自分でどこからが違うものなのかわからない。ひょっとしたら、自縛霊とか浮遊霊とか、そんなものかもしれないけれど、ちゃんと大丈夫だから。
土気色をして白い着物の袷を逆に着せられて花に囲まれて棺の中にいる自分なんて、どうだっていい。あんなものはただの抜け殻だ。空っぽの入れ物だ。
約束の日まで生きられて、約束をみんなは果たしてくれて、これ以上何を望もうと言うのだろう。
(世界に溶けた。それでいいの)
世界に溶けて、すべてになった。
誰も気付かないけれど、それはとても哀しくて辛いけれど、みんなの世界がそのまま残ってよかった。
呼びかけても返事が返ってこなくたって、それで胸が苦しくたって、あのまますべてが終わってしまうことに比べたら些細な痛みだ。
(唯は誇れるよ。自分の選択を)
ねえだから。もう泣き止んで。哀しむのは今日だけ、今だけにして、明日からは前を向いて生きていって欲しい。
それが唯の望んだ世界だから。
自分の身体が炎に焼かれていくのをみるのは何だか変な気分だった。
煙突から煙が上がって、きっとあれは自分の身体の一部なのだと思ったら、本当に世界に溶けた気がして少しだけ嬉しくなった。
世界に溶けたなら、ひとりじゃない。ミクロレベルの因子でも皆の傍に自分が在れるってことだから。
(なんだ、ひとりぼっちじゃないじゃない)
唯が一番嫌いなひとりぼっちじゃない。
言い聞かせて、前向きに言い聞かせて、どうにか納得。
だからみんなも、納得して前を向いて、生きていって。
(唯は何ひとつだって、後悔してないんだよ)
2010/02/23〜2010/11/18までのもの。
P3の後日談をP3Pで想像して書いたもの。たまには死亡説のお話も書いてみたかった。
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