if...
弐号機に乗ること。エヴァのパイロットであること。特別であること。
中学生にして大学の卒業資格を持つほどの頭脳を持っていたり、見た目に気を使ったり、とにかく普通の少女よりもずっと有能であり、珍重されなければいけなかった。
母が、アスカを見なくなってから、それは脅迫概念に近く、感じていた。
エリートと呼ばれるほどの英才教育を受けた。
けれど、シンジより、レイより、碇ゲンドウはアスカを重要視しない。むしろ軽んじていると言ってもいいほどだ。
何故自分ではいけない。自分では何が足りない。頭脳か、血か、時間か、実力か。
特別でなければならない自分は、そういった意味でも特別にならなくてはならないのに。

カヲルの言葉に答えを返せなかったまま、日は流れた。
それを彼は咎めるでもなく、相変わらずの笑みでいっそ馴れ馴れしいと言っていいほどアスカに構う。いや、シンジにも同じように構っているから、ただ単にそういう人間なのだろうとアスカは認識した。
そんなある日のこと、シンクロテストが行われた。

初回のシンクロテストでシンクロ率400%を叩きだしたカヲルは、相変わらず400%を超えていて、レイはいつもどおり、シンジは少しシンクロ率が上がっていただろうか。
何が原因かわからない。原因があったのかさえもわからない。
ただ、エヴァとシンクロするという作業自体がひどく困難だった。

「アスカのシンクロ率、上がりませんね…」

マヤの呟きが聞こえる。
わかっている。けれど、これではいけないと焦れば焦るほど、エヴァはアスカを拒絶する。
嫌だ、いらないと言われるのは嫌だ。自分は特別にならなければならないし、それにはエヴァに乗っていなければいけない。
そうだ、エヴァに乗ることで自分は自分でいられる。なのに!
なのに!…なんで。

(エヴァさえ、あたしを否定するの?)

シンクロ率が二桁を切った。
エヴァは沈黙したまま、アスカに答えない。

「…テストを中断しましょう」

リツコのため息を共に吐き出された言葉が、アスカにはまるで死刑宣告のように聞こえた。

ああ、ダメだ、ダメだ、このままでは弐号機を降ろされる。
自分が自分でいられる為には、これはなくてはならないものなのに。

   

プラグスーツを脱いでシャワーを浴びる。
がんがんと鈍器で殴りつけられたような痛みが頭に響く。湯ではなく水をかぶり、必死に落ち着こうとするけれど、アスカの心はずんと重いままだった。

適当にタオルドライしただけの髪で、制服に着替える。いつものようにコロンをふってみたけれど、気分は落ちたままだった。
ついこの間、四号機に助けてもらった時とは比べ物にならないほどの苦みがあった。
人を避けるように廊下を歩き、気づけば全力で走っていた。

前も見ず、道も見ず、よく人とぶつからなかったなと思うほど一心不乱に走って、気づけば公園にたどり着いた。
先日のシンクロテストの後、おいしくもないハンバーガーを食べようとした場所。
カヲルが来てくれた場所。

「はは、来る訳ないじゃない…」

別にそれを期待してその場所を選んだ訳ではなかった。
けれど、たどり着いてみればそれを願っている自分がいた。都合のいい、どこかの御伽噺なら、それもあるかもしれないけれど、誰にも見つからないように走ってきたのだ。それを誰かが、そう、カヲルが見つけられるはずもない。
見つけられても困るのだけれど。
おそらく、当り散らしてしまうから。シンクロ率二桁を切ったアスカと、400%超えを維持しているカヲル。そんな、事実を、知っていて。

「あたしは、特別になりたかった…」

ひとりごとのように呟く。
人形を自分と間違えたまま死んだ母。目の前にいたってこちらを見向きもしなかった母。
どんなに努力しても、薄汚い人形ばかりを愛でて、アスカを見なかった母。
特別になれば、そんな人形よりもっとずっと価値のあるものになれれば、そう言った思いは、いつしか脅迫概念となってアスカに根付き、やはり今も、そうでなければ自分は無価値なのだと思っている。
その間違った基準を正してくれるような人は、誰もいなかった。

        

空が茜色に染まっていく。どこからか、能天気に鴉がかあかあと鳴いた。
帰りたくない。帰れない。帰ればミサトがいるし、シンジもいる。どんな顔をすればいいのかわからない。
いらない子。
誰かに縋りたいのに、誰にも縋れない。縋ってしまうことを恐れる気持ちもあるし、縋る自分の手を突き放されたらという恐怖もある。
ああもう、どうしていいのかわからない。

「アスカ」

幾分聞きなれてしまった感のある、独特の声が降ってきた。

「ずっと、ここにいたのかい?」

思わず顔をあげてしまい、それからすぐに俯いて視線を避ける。
来ないで欲しかった。来て欲しかった。ぐちゃぐちゃになった思考回路と同じくくしゃりと歪んだ顔は、泣き顔に近かった。
目の前にしゃがみこんで、カヲルがアスカの表情を伺おうとするけれど、こんな顔を見られては恥の上塗りだ。
けれど突き放そうと伸ばした腕を、逆に捕まえられて、どうしたらいいのかわからなくなった。

「君はそんなに特別になりたかったのかい?」

それは核心。

「そんなに、」
「…なりたかったわよ!特別に!」

核心を突かれた心が、言葉の刃をアスカの意思と関係なく発した。

「愛されたかったの!」
「母親に?」
「何で知ってるのよ!」
「知っているから。答えにはならない?」
「…もういいわよ。…そうよ、特別になりたかった。そうすればあたしを見てくれると思ったの」
「でも特別にもなれなかった?」
「あんたにはわからないわよ!シンクロ率400%超えのエリートなんかには!どうせあたしは出来損ないなのよ。ファーストよりも、シンジよりも、あたしは価値の低いパイロットで、あたしは、誰にも、…必要とされない…!」

そこでようやく、アスカは顔を上げた。
その途端、涙の粒が宙を舞ったけれど、カヲルは何も言わなかった。
ただ、ああこのままだとやはり思ったとおり、彼女は壊れてしまうと感じていた。

「君がなりたかったのは、母親の特別かい?そう思う相手は、僕では務まらない?」

カヲルの言葉に目を見開く。また一筋涙が頬を伝ったけれど、気にはならなかった。
それどころではない。
何を言ったのだ、目の前の少年は。
そしてそれを口にしたカヲル自身も内心、何を言ってるのだろう、と思っていた。

「僕にとって、君は多分、特別と言う括りの中にいるんだけど」
「…うそ。うそよ、そんなの」
「嘘じゃないよ」

(やめて。言わないで。その言葉をあたしが鵜呑みにしたらどうするの?)
(縋りつきそうな手を、堪えるのが精一杯なのよ)

掴まれた腕を離そうともがくけれど、やはり男だということなのだろうか、カヲルの腕はびくともしない。
掴まれた位置が位置だけに小手抜きも通用しない。
それどころか、カヲルはその手をぐ、と引き寄せてアスカを抱きしめた。

「僕も今気づいたんだけどね。君は特別だよ。少なくとも僕にとっては」

言い聞かせるようなカヲルの言葉に涙が止まらなくなる。
抱きしめられて感じた体温にも、言葉にも、アスカの求めていたものが詰まっていた。
夢ならどうか覚めないで。

「うそ、じゃ…ないわよね…」

これが嘘だと言うのなら、自分はもう、立ち上がれない。

       

けれど、気づいた時にはアスカは公園ではなく、病室のベッドの上で、カヲルの姿もなく、ただぼんやりと天井を見ていた。
あれはやはり夢だったのだ。自分の願望が夢となって現れたのだ。顔が皮肉るように歪む。
けれどでは何故、自分はこんなところにいるんだろうか、と疑問に思った時だった。

「アスカ?」
「え」
「もう起きて大丈夫なのかい?」
「ええ…。何?お見舞いかなんか?あたし倒れた記憶もないんだけど。ああ、それとも馬鹿にしに来たのかしら。エリートさん?」

言ってすぐ後悔をする。
夢とはいえ、アスカが縋り、その手を取ってくれた相手だと言うのに。
けれどカヲルは気分を害した風でもなく、いつもより、少しだけ優しい笑みを浮かべて、

「君は僕の特別だから」

忘れちゃったのかい?と。
どこからが夢で、どこからが現かわからない。
顔が一気に朱に染まった。

         


パチエヴァ5を元にすると楽しくカヲルアスカが書ける素敵な罠。
多分パチのエヴァ6が出るまでふつーにカヲルアスカを推進してきます、当サイトは。
シンジに言った台詞やらなにやら心ときめくものはすべてアスカに言ったのだと脳内変換でよろしく!(待て)
…ちなみにまだ続きます。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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