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いつものようにシンクロテストを行いながら、アスカもカヲルもまったくエヴァとは違うことを考えていた。
少女も少年もシンクロ率よりもずっと大事なことを抱えていた。
アスカはカヲルとシンジのことで頭がいっぱいで、結局周囲が望むような数値は出せなかった。
魂の入っていないエヴァならいくらでも操れるカヲルは数値こそ確かに400を超えたままリツコたちをほっとさせたが、脳内では自分の取った行動とアスカのことばかりを考えていた。
テスト終了の声がかかっても、それに気づかないほど。

「聞こえてる?アスカ、渚くん、テストを終了するわよ」

         

プラグスーツから着替え、シャワーを浴びて通路に出るとカヲルが待っていた。

「考えごとかい?眉間に皺が寄ってるよ」
「うるさいわね」
「僕の所為かな。あの日からずっと、君の眉間の皺が取れない」

それはカヲルが生まれて初めて感じた後悔であり、アスカが初めて感じた戸惑い。けれどカヲルはアスカに手を差し伸べてしまったし、アスカもその手に縋ってしまった。
二人ともわかっていた。
この気持ちに、この状況に、未来がないことを。
決して簡単に考えていた訳ではない。痛いほどわかっていた。
アスカは人であり、カヲルは使徒であるということ。その意味。それが何を示すのかということを。
アスカは妙に冷めた表情をしてため息を吐き、

「あんた、いつまで生きてるの?」

と聞いた。

「シンジくんが僕を殺してくれるまで」
「それっていつ?」
「きっと、もうすぐ」

その言葉にアスカはなんとも言えないような顔でカヲルを見た。

「ねえアスカ。僕が死んだら、君は泣く?」

ふと思いついた疑問だった。
人は人の死を悼む習慣があるらしい。では使徒である自分の死にアスカは泣いてくれるのだろうか。
返ってきたのは答えではなく、平手打ちだった。
じんじんと頬が痛む。アスカを見ると、目にいっぱいの涙を溜めて、カヲルを睨み付けていた。

「泣いてなんかやらない!」

何度か見たアスカの涙。気が強いくせに、涙をこらえるのはへたくそで、嘘みたいにきらきらした、アスカの涙。

「…ねえカヲル。あんたはこれでいいの?」
「これでって?」
「このまま、ここにいるの?ずっと、最期まで?」

(自分のことを友達と慕う人を裏切るような行為の為にいて、殺される為にいて、それでいいの?)
アスカは問いかけながら、答えは決まっているだろうと感じていた。

(使徒は人と生きられない。いや、僕は人と生きられない。アダムに還る前に殺されなければならない存在なんだ。)
カヲルはアスカの問いを誤魔化すように彼女を引き寄せて抱きしめた。

「やめてよ…やめてよ!いなくなるなら抱きしめないでよ!」

悲鳴のような泣き声でアスカが叫ぶ。
どうにかしてやりたかった。それは衝動だった。後も先も考えずに体が動いた。

「…っ!」

それは、愛情がゆえのものだったのか。愛というものを本当の意味で知らないアスカにもカヲルにもわからない。
ただ貪るように口付けてきつく抱きしめた。
泣きながらしがみつくアスカを見て、自分が死んだら、この少女はまたいつ壊れるかわからない。ピンと張られた細い細い糸の上に経ち続けるのだろうかと思った。

「君は、…君は、君の存在意義と僕とを秤にかけて、それでも僕を望んでくれるのかい?」

唇を離し、それだけを問う。訊ねられたアスカは何も言わず、ただカヲルのシャツをきつく掴んだ。

「もし、君が望んでくれるなら、」
(僕は何を言おうとしている?)

それは本来なら言ってはならない言葉。
アダムに還る為に存在し、使徒として存在し、今はただシンジに殺される為に、自分はこの場に留まろうとしたはずなのに。
何故アスカに手を差し伸べてしまったのか。何故彼女にすべてを曝してしまったのか。
答えは出ない。
あの日アスカに言ったように、疲れていたというのも事実だ。そしてまったく違うくせに同じように疲れて諦めて、哀しそうな目をしていたアスカに何かを突き動かされた。
課された使命は簡単だった。ターミナルドグマの中にあるというアダムに還るだけ。けれどそこにあったのはアダムではなくリリスで、還る場所を失った。その内にカヲルはシンジに触れ、アスカに触れ、人というものを知った。
ゼーレの人間はカヲルを使ってサードインパクトを起こそうとしていたけれど、そんなものを起こして彼らを死に追いやることはしたくないと思ってしまった。
では何の為に自分は存在するのか。
人でないくせに救われたかったと言うのか。
真実なんて一つだって話す必要はなかったのに話してしまったのは、そういうことではないのか。

「僕は君と生きてもいいと思ってる。いや、生きたいと思っているのかもしれない」

こんな感情は初めてでわからないんだ、とカヲルが言うと、腕の中でアスカが笑った。

「あんた、変なところでこどもね」
「そうかもしれない」
「…一度だけしか言ってやらないから、ちゃんと聞きなさいよ」
「うん」
「あんたがあたしを特別だって思って、ずっとそう思ってくれるなら、あたしはあんたのすべてを望むわ」

アスカは自分に出来る一番きれいな笑みを浮かべてそう言った。

         


原作とかいろいろ見返してみてどうしてもいれておきたいものを入れたり矛盾点を解消しような回。
カヲルくんの自殺願望的なところをどうにかしないと先がないのでどうにか生きたいと思わせたかった…ら、えらくシリアスになってどうしような感じ。
パチエヴァを元に軽く書くつもりだったのに!

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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