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幸せに、手が届きそうだったのに。
目の前に並ぶネルフの職員は一様にして無表情で、人の心なんて持っていないように見えた。
こんな日が来るだろうと予想はしていた。それはアスカだけでなく、カヲルも同様だっただろう。二人とも、ただ諦めたように長いため息を吐いただけで、それ以上何も口にしなかった。

あれから約一ヶ月の逃避行は、アスカを病院に連れて行ったことに因って終わりを告げた。
どのようにしてネルフが包囲網を布いていたのかはわからないが、診察を済ませ、病院を出ようといた時にはすでに包囲されていた。
アスカたちがやってきたのは総合病院だ。ひどい吐き気と眩暈に苦しむアスカの病状を心配して、カヲルが病院へ行こうと言い出した。大きな病院に行けば、捕まるかもしれないということくらいはわかっていた。小さな個人の医者であれば、ネルフの手が回っていることも無かったかもしれないが、アスカの病状は、何、と特定出来るものではなく、それならばすべて診ることの出来るところに、とカヲルが決めた。
ここ数時間の間でアスカとカヲルは、歓喜と絶望の二つを味わった。

手を繋いだまま職員を見つめるアスカたちを訝ったのか、はたまた抵抗の意思さえ見せない逃亡者に面食らったのか、彼らの動きは緩慢だった。
本気で抵抗を謀れば逃げ出せるのでは、と思うほどに。
けれどそれをアスカもカヲルもせずにいた。アスカの身体に負担をかける訳にはいかなかったから。
無抵抗で職員に連れられる中でも、カヲルはアスカの手を離さなかった。精一杯、アスカを守るように、その手は繋がれていた。
数時間前、彼は父親となり、アスカは母親となったことを知らされたばかりだった。

       

「…おかえりなさい」

何とも言えない顔をしたミサトがネルフ本部にある一室で待ち構えていた。
感情に任せて怒りだしたいのを堪えているような、二人をいっそ哀れんでいるような、複雑な表情をミサトはしていたが、声だけは努めて冷静で、落ち着いていた。

「どうして出て行ったの?任務を放り出した自覚はしているんでしょうね」
「ここにいてはいけないと思ったからです」
「この東京が使徒に襲われたらどうするつもりだったの?シンジくんやレイだけに押し付けて逃げたのよ、あなたたち」
「使徒はもう来ません」

アスカはミサトとカヲルを交互に見ながら、どこか怯えたようにカヲルの手を強く握りなおした。
ミサトもこの時にはすでに予想がついていた。二人がどういう関係にあるのかを。二人一緒にいなくなって、見つかった時でさえ共にいたと言うのなら、気づかない方がおかしい。
けれど、それで許されることではない。彼女は、責任や義務を怠った子供を、仕方ないわ、と言って許せる立場ではなかった。
カヲルの言った、使徒はもう来ない、という断定的な言葉に首を傾げ、どういうこと?と訊ねる。

「使徒は、」
「待ってカヲル!」

カヲルの言わんとしていることに気づいたアスカは驚いてカヲルを止める。
けれど、アスカにその権限はなかった。

「アスカは黙りなさい。どういうことなの」
「最後の使徒は、もう現れています。ずっと、前から」
「はっきり言ってちょうだい」
「僕が、最後の使徒です。信じられないなら、コアを探してください」

ああ、とアスカは嘆いた。けれど、嘆いていても仕方が無いことは彼女にもわかっていたので、アスカは二人の間に口を挟んだ。

「待ってミサト、違うの、カヲルを殺さないで!」
「アスカ…」
「カヲルは確かに使徒よ、けど、あたしたちを攻撃したりしない!人として生きるって決めたの!」
「本当のことなの?」

無言で頷くカヲルと、必死でカヲルを庇おうとしているアスカを見て、ミサトはようやく二人の逃亡の意味を正しく理解した。
使徒であれば殲滅しなければならない。殲滅、と言うことは、人に置き換えれば殺すと言うことだ。
もし本当にカヲルが人として生きることを望んだとしても、ネルフはそれを許すだろうか。いつ何時使徒として覚醒するかわからない者を野放しに出来るほど、この任務は生優しいものではない。

「葛城さん」
「…何」
「使徒を殲滅しようとするなら、僕は甘んじてそれを受けます。僕は人を襲うつもりもないし、アスカの言ったように人として生きたいと思っていますが、あなたたちはそれを許さないでしょう」

どこまでも見透かすような赤い瞳がミサトを射る。
ミサトは長く重いため息を吐いて、それから、そうね、と呟いた。

「僕の処遇は葛城さんに任せます。その代わり」
「……」
「アスカは助けてください。彼女はもう、おそらくエヴァには乗ることが出来ません」

そう告げるカヲルの表情は不安そうなアスカとは対照的に凛としていた。

         


あんまりデキちゃったネタは好きじゃないんですが、まとめやすかったので…と言い訳をしてみる。
というか、先日見たそれ系のお話が余りにツボってしまった為にこうなった、とも言います(がくり)。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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