if...
アスカが弐号機のパイロットを降ろされたのは処遇としては軽すぎるくらいのものだった。
彼女は身重でエヴァ自体に搭乗することが出来なくなっていた為、処罰は無いにも等しかった。
ただ。

カヲルはそうはいかなかった。

    

「どうして…なんで、…なんでよ…?」

初号機に握りつぶされたカヲルを、アスカは呆然とした様子で見つめながら呟く。
シンジだってカヲルを確かに友人だと思っていたし、使徒であっても使徒としての自分を否定し人として生きたいと言ったカヲルをシンジは信じようと思った。
けれど、すべてがシンジの一存で決められるほど、この世界は優しくなかった。使徒殲滅の為の機関であるネルフの決断は無情だった。
カヲルを握り締めたままのシンジにも、呆然と膝を突いたアスカにも。

「殺せとも言ってくれなかった。殲滅しろって、言ったんだ」
「カヲルはもう使徒じゃないわ…」
「僕だって彼を人だと思っていたよ」

アスカとカヲルが弐号機の中に眠るアスカの母親に挨拶に行った時と同時刻、シンジは命を下された。
このまま弐号機を奪い、使徒としてカヲルが覚醒すればすべての人類が滅ぶと。だからこそ今この時に殲滅しろと。
殲滅しろとの命令はとうの昔から下っていた。
それをシンジは泣きながらカヲルに言った。僕は君を殺したくない、と。
使徒だと言うことを黙っていたカヲルに腹が立たなかったかと言えば嘘になる。シンジは裏切られた気持ちでいっぱいだった。
けれど、アスカと共に戻ってきたカヲルはシンジに言ったのだ。
騙してごめん。僕は使徒であることを捨てたかった。君の友人として、アスカの恋人として、生きたかったと。
シンジがその言葉を受けカヲルを許すと、言い辛そうにカヲルは言った。
おそらく自分がこのまま生かされることはないだろうと。そしてその命は、シンジに下されるだろうと。
その時シンジが感じた絶望をアスカにわかってもらおうとは思わない。
彼女の恋人を、家族を、奪ったのだ。
拒否しきれなかったシンジは甘んじて彼女の罵倒を受け止めるつもりだった。
自身も絶望を抱きながら、それでもその絶望はアスカの比でないことをシンジはわかっていた。

「カヲル、殺されたのね」
「…ごめん」
「シンジが殺したのね」
「ごめん…っ!」

謝ることしか出来ない自分を滑稽だと思いながらも、それ以外の言葉をシンジは持たず、ただひたすらにアスカに謝った。

「カヲルの命を奪ったあんたをあたしは許せない」
「ごめん…、けど、許してくれなくていい。僕がカヲル君を殺したんだ」
「…あんたは、使徒を殲滅したとは言わないでいてくれるのね」

アスカはおそらくひどく哀しみ、怒り、自分を憎むだろうと思っていた。
けれど、泣いているのはシンジだけだったし、そう言ったアスカの声はどこか、場にそぐわない柔らかな声音だった。

「あたし、カヲルが初めてだったの。淋しさに気づいてくれたのも、特別だって言ってくれたのも、愛してくれたのも」
「アスカ…」
「あたしが好きになったのは、使徒じゃないわ。渚カヲルという一人の人間よ」

そう言うアスカはシンジの知る彼女とは別人のようだった。
そこにいたのは、直情的で、我侭で、愛されることに人一倍貪欲なくせに人を愛することを恐れて、人の神経を逆撫でする言葉で自分を守っていた小さな子供ではなかった。
す、とアスカが手を伸ばす。
何をするのだろうを思って見ていると、アスカが口を開いた。

「シンジ、カヲルを返して。まだ、ほんの少しでも温もりがあるうちに」

言われるまま初号機を動かし、アスカの前にカヲルを横たえる。
しばらく迷ったが、結局シンジもエヴァから降りてカヲルの元へ駆け寄っていった。

「馬鹿ね。泣くぐらいなら本気で拒否して逃げればよかったのよ」
「そうだね…。僕は臆病者だ」
「でも、あんたは降りてきたわ。臆病者じゃない。ほら、ぼさっとしてないで、あんたも一緒にカヲルを見送るのよ」
「うん」
「…ほんと、馬鹿だわ。戻ってこなきゃよかった。お金が無くたって、病院に行かなきゃならなかったって、たとえそれで見つかったって、必死で抵抗してもっと本気で逃げればよかった」

アスカの言葉に、シンジは返す言葉が見つからず、ただ黙った。
アスカの白い指がカヲルの頬に触れる。その時になってようやく、アスカは泣いた。
それから、笑った。
え、とシンジは訝ったが何も言わず、温もりの消えていくカヲルをアスカと共に見つめていた。
完全にカヲルの身体が冷え切り、最後の使徒はいなくなった。いや、彼女の愛した人はいなくなったというのが正しいだろう。その瞬間まで、アスカは微笑みを浮かべていた。
彼女なりの精一杯の強がりだったが、その強がりはカヲルがいなくなってすぐ、崩れてしまった。

「シンジ」
「何、アスカ」
「あんた、報告してきなさいよ」
「……」
「使徒は殲滅しましたって言ってきなさいよ、あんたの父親に」
「そんな、」
「いいから行ってよ!…お願い、一人にして」

アスカの声は涙混じりだった。
仕方なくアスカに背を向けて歩き出す。きっとアスカは自分の前では本気で泣くことは出来ないのだろう。本当は今にも泣き喚きたい衝動に駆られているだろうに。
今はこの場を去って、思い切り泣かせてあげるべきだとシンジは思い、結局格納庫から出た。
そのすぐ後、防音がなされているはずの扉の向こうから、アスカの慟哭が聞こえた。
その声だけで、アスカがどれだけ傷ついているかがわかるほどだった。
自分の手のひらを見つめ、握っては開きを繰り返す。生々しい感触があった。エヴァとシンクロしていた所為でシンジはその感触をダイレクトに感じ取った。
人を殺した感触が。
ネルフの者はカヲルを使徒だと言う。見目が同じでも、人を滅びに導く使徒だと言う。
エヴァに乗せられている少年少女の心の痛みなど知らぬふりで使徒だから彼を殲滅しろと言った。
人ではない。だから殲滅する。人を脅かす者だから。けれど、彼は人として生きたいと言った。それは尊重されるべき願いだったはずだし、アスカを脅かしたのは使徒であるカヲルではなく、人であるネルフで、人であり友人であったはずのシンジだった。
がん、と壁を殴り、涙を拭うこともせずにシンジは前を睨んだ。
こんな世界、壊れてしまえばいいのに、と。

それを境に、ネルフはエヴァの搭乗者を三人失った。

         


うん、バッドエンド行き確定。暴走引き当てたのにいきなり1回転目でノーマル当たり通常セグ、みたいな!
でもサードインパクトは起きませんよ。大丈夫。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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