誰のものにもならないで
さらさらとした美しい髪に、宝石のような青い瞳。白磁の肌。綺麗、可愛いと誉めそやされる容姿を持った少女。
そのくせ馬鹿みたいに強くて、気が強くて、口が悪くて、男を見下してばかりいる少女。
中身はともかく見た目は一級品。口さえ利かずに大人しくしていたら、というのが彼女を見る男子の意見だ。
ただ、それでもすべてをひっくるめて彼女に好意を抱く者は後を絶えなかった。
その為、彼女が放課後呼び出されて告白をされる、という場面も別段珍しくはない。
それを見る度、トウジは見た目に騙されとる、と呆れ、シンジはチャレンジ精神旺盛な人間にある種の尊敬の念を抱いた。そしてケンスケはよくあるその光景が、普段と何一つ変わらない結果で終わることを祈っていた。表面上はトウジと同じく、見た目はいいもんな、とため息を吐くだけだったが。

「ああもう!うっとうしい!」

教室へ戻ってきたアスカは誰に言うでもなくそう叫ぶ。
もてないその他大勢の少年少女からすれば、鬱陶しくなるほど告白をされる立場になってみたいというある種の羨望のようなものと、鬱陶しいと切り捨てられたであろうチャレンジャーに哀悼の意を示す。
機嫌が降下しているアスカをどうにかできる人間は数少ない。その数少ない人間であるヒカリは、少し困ったような笑みを浮かべてアスカに話しかけた。

「お疲れ様。最近多いわね、呼び出し」
「ほんっと!うんざりしちゃう!」
「でも仕方ないわよ。だってアスカってすごく目立つし可愛いんだもの」
「あら、あたしからしたらあんたの方がずっと魅力的だわ」

くすくすと笑うヒカリにつられて、アスカから剣呑な雰囲気が取れていく。
ケンスケは、トウジやシンジとの会話をしながら、その様子を横目で見て、今日も同じ結果で終わったことに安堵していた。
ころころと変わる表情。感情の起伏が激しいくせに後腐れがない。ねちっこく陰口を言う少女たちが多い中で、アスカはとても異質だった。
悩んだりしない。いや、実際には悩んでいるのかもしれないが、それを表にはあまり出さない。
男子に対する態度は横柄かつ尊大だが、女子に対しては大抵愛想良く、口が悪いのは変わらないけれど、とにかく優しく応じていた。
だから、頻繁に陰口を言っては他の女子とのコミュニケーションを図る女子たちの口にも、ほとんどアスカの名前は上らない。彼女がエヴァのパイロットであること。曲がったことが嫌いなこと。それは素直に賞賛された。
頭脳は大学を卒業しているほどなのに、漢字がうまく書けなくてテストの点がそれほどよくはないこと。ふてくされてドイツ語だったら満点なのに!と喚いた彼女はとても微笑ましかった。
ヒカリと共にファッション誌を眺めて、これがいい、あれがいいと話す、年相応の女の子らしさと、たまに誰も寄せ付けず、たった一人の世界に入り込む様は年齢に比べて、どこか大人びていて、その彼女の矛盾がケンスケは好ましかった。
そう思うだけなら、別に友達としての域は超えていない、はずだ。

「ねえヒカリ、帰りにこないだ行ったアクセサリーショップ行かない?指輪が欲しいの」
「指輪?」
「そう。なんかね、小指につけると幸せを呼んでくれるんだって。おそろいで買わない!?」

女の子は総じて迷信や占いごとが好きだ。
幸せなんか自分で掴み取るものだとでも言いそうなアスカの意外な台詞にぴくぴくと耳が動く。もちろん、比喩だけれど!
アスカとヒカリの会話ばかりを気にしていたら、隣からトウジに突っ込まれた。

「なにやっとんねん、オマエ」
「は、何がだよ」
「だってケンスケなんか話聞いてなさそうだったから」

二人がかりで言われてはケンスケも押し黙るしかない。
実際この二人の会話などほとんど聞いていなかったのだから。

「えっと、なんだっけ」
「ほんまに聞いとらんかったんやな…」
「ごめんごめん、えっと、そう、新しいモデルガンが欲しいなーって考えててさ」

我ながら苦しい言い訳だと思いつつ、けれどそれ以外のごまかし方をケンスケは持たなかった。
それでも気のいい友人たちはそれを言及することなく、またか、と呆れ顔で笑ってくれた。

「あ、またきよった」
「え、何が?」
「チャレンジャー。」
「ああ…」

カバンを持ってさあ帰ろう、とヒカリと共に教室を潜り抜けようとしたアスカたちの前には一人の少年がいた。
どこかに呼び出して、という段階を踏むのさえ面倒なのか、はたまたそれほど自信があるのか(確かにそこそこカッコいい部類に入るな、あれは)、その少年は教室の扉を塞いだまま、アスカに言った。

「僕のこと知ってる?」
「知らない。興味もないわ」
「じゃあ僕のことを知ってもらう為にも僕と付き合ってみない?」
「あんた、バカ?うっとうしいのよ、さっさとどいてちょうだい!」

すげなく断られても、僕を知りさえすればきっと君も僕の事を好きになるよ、としつこく付きまとう。
なんとなくイライラして、ケンスケは机に突っ伏した。

さっさと断れよ。
いつも俺らにするみたいに回し蹴りから始まるコンボでも決めてさっさとのしちまえばいいのに。
或いは平手打ちでもいい。罵詈雑言並べ立てて、あんたなんかお呼びじゃないのよ、といつものように言えばいいのに。

それが何という感情を示しているのかを、ケンスケは知らないふりをした。
廊下側から背を向けて、窓から見える空を見る。
年中夏の空は、下校時刻になってもまだ夕焼けには程遠い。

「なあ、俺さあ、ひょっとしてMかなあ」

ぼそりと呟いた。
突然言われたトウジやシンジは目を丸くするばかりだ。
意味のわからないまま、Sには見えないけど、と当たり障りのない言葉でシンジが返すのに、数秒のタイムラグがあった。
けれど、シンジが必死に返したその言葉もケンスケには届いていない。
馬鹿だのなんだの言われて散々殴られて、3馬鹿トリオだのって一くくりされて、女の子の扱い一つ知らない自分は相当に彼女の機嫌を損ねることばかりが得意で、見た目はともかく、内面だけ見たらちょっと遠慮したくなるような奴なのに。
いっそ殴られても蹴られてもいいから係わり合いたいなんて。と、そればかり考えていた。

「ああもう!ほんっといい加減にしてよ!あたしはヒカリとこれから買い物に行くの!これ以上邪魔したらあんた気絶どころじゃすまないわよ!」

という台詞と共に繰り出されたアスカの拳は、言い寄っていた男の顎にクリーンヒットしていた。
急所に華麗に入った拳のおかげで案の定伸びた男は廊下側で崩れ落ちる。意識があるとは思えなかった。
ため息と共にアスカを振り返ったケンスケはちょうど良くそのシーンを目撃して、心の中でガッツポーズを決める。
今日も彼女は誰のものにもならなかった。
それにほっと胸をなでおろして、不機嫌も露に教室を出て行った彼女を思う。
彼女は、彼女自身のもの。誰かのものになど、一生ずっと、ならなくていい、と。

「ケンスケ、どうすんの?」
「ワイなんや腹減ってきたわ」
「んじゃあどっかで買い食いして、それからどうするか決めようぜ」
「おう!」

アスカが通り抜けていった教室の扉を、自分たちも同じように潜り抜けていった。

         


ケンスケの「よぉ アスカ♪」が好き。
マンガ版のケンスケはアスカが好きだよねー。ってことでなんとなく思いつくまま書いてしまったもの。
こんなん書く暇あるならさっさとifの続き書こうよあたし…!

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル