つまるところ。
一人でいたかった。
けれど同時に一人にだけはなりたくなかった。

立て直せないほどぐしゃぐしゃに崩れた家庭にも居場所はなかったし、素行不良の加藤には学校での居場所もなかった。
それを望んでいたはずだった。
それでもどこかで居場所を求めていた。
ガラの悪い連中と付き合い、適当に夜遊びをして、女をおもちゃのように玩んだ。
ヤバいバイトを始めたのは、いつだっただろう。
孤独を求めていたくせに誰かに必要とされたくて。
立ち上がれないほどの痛みを求めていたくせに救いが欲しくて。

クスリに手を出した。

掻き消えていく不安や恐怖。代わりにやってくる高揚感と快楽。
花畑が見えるというのもあながち間違いではないのかもしれない。
狂いだしたくなるような悦楽の時が過ぎて、ぼんやりと溜まり場にしているロフトの壁を見る。
何も考えられない。思考がまとまらない。
ただ漠然と、壊れてくというのはこういうことか、と知る。
すべてがどうでもよくなれる。
加藤にとって、すべてが意味をもたなくていい世界とは、存在に意味をもたない自分が赦される世界と同義だった。

「そんなに意味が欲しいか」

突然かけられた、低く冷たい声に首を振る。
加藤は自分という存在に意味や価値を求めているのではない。

「じゃあそんなに居場所が欲しいか」

今度はもう、首を振る気にさえならなかった。
それを吉良が肯定と採ったのか否定と採ったのかも加藤にとってはどうでもいいことだった。
ただ伸ばされた手に、身体を預ける。
何をされるのだろうと漠然と考えていたら、頭を吉良の膝に押し付けられた。

「もう眠れ」

ああ、眠り、辿り着ける先が安らかであるならどれだけ。

「…安らかに」

無理言うなと言おうとして口を開き、結局何も言わずに唇を閉じる。
瞬きをするでもなくぼんやりと床を見つめていると目が乾いて引きつったようになる。
その違和感を嫌い目を擦ると、咎めるように吉良の手が伸びる。

「泣いてんの、お前」
「は、」

笑おうとした。

無理だった。

「…加藤」

一人でいたかった自分は、結局一人でいられずに。
一人にだけはなりたくなかった自分は、結局いつも赦されている。

覗き込む吉良の瞳から逃れるように腕で顔を覆う。
何もかもを見透かすような目で見られても、加藤の内側には何もない。
痛みと空虚とそれから逃れようとする無様な姿しかない。

「空っぽだな」
「なら見るなよ」
「中身、継ぎ足してやろうか」
「はあ?」
「同じ有害なら俺でもいいんじゃないの?」

そう言って勝手に人のズボンのポケットを探る。
目当てのものを見つけたらしい吉良は、けれどそれを一瞥しただけで背後の壁へ放り投げた。
それに対して文句を言う気力もない。後で拾おう、それだけ考えて目を閉じた。
好き勝手に髪を梳く吉良にももう何も言う気になれない。
その指先から心に入り込んでくる何かにも、何も言う気になれなかった。

「眠れ、安らかに」

じゃあ、お前が永遠の眠りを与えてくれ。


久しぶりに天禁読んでキラカト。
セヴィー(ライラ)と吉良と加藤が好きですと言ったら脇役キャラ好きだよねと返されてへこんだ。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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