ほんとのきもち。
あんたに優しい言葉なんて期待してなかった。
仲睦まじい恋人同士が囁きあうような睦言も、体全部を包まれるような優しさも、ほんとの愛情も。
そんなもん、ハナっから期待なんてしてなかった。
別に欲しくもなかったし。
それは強がりなんかじゃない。
だって俺は男だし、ボスも男だし。まずその時点で不自然だ。
それに甘ったるい言葉を吐くボスも、呆れるくらい優しくて俺のことが大好きなボスも、俺が知ってるボスじゃない。
そんな気持ちの悪いボスは、俺の好きなボスじゃない。考えただけで寒気がするね。

でも。

一回、そう、一回くらいはさ、そーゆうのも、よかったかもしんない。
ほんとはさ、好きって、ゆって欲しかった。一回くらい、ゆって欲しかった。
少しだけ優しくして欲しかった。ほんの少しだけでも愛情が欲しかった。
ほんとは。ほんとは。

……ほんとはね。

感情の無い冷たい瞳も、俺に理解出来ないような小難しい言葉や必要最低限の言葉しか発しない唇も、好きだけど。
優しさや愛情なんて言葉すら知らないボスをほんとに大好きだけど。
俺はガキだから、特別になりたかった。
けれどそれは俺ばかりで。そう、独りよがりで。

ずっと、苦しかったんだよ。

甘い言葉も優しさも愛情も、欲しがったりしない。お菓子を買ってくれって駄々をこねるガキじゃあるまいし、望んでも手に入らないことを俺は知ってるから。
そうだ。わかってた。知ってた。それでもいいと思ったんだ。
だって俺にとってボスは特別で、『俺の』ボスで、ずっとそばにいたくて、必死だった。
ボスの隣にいる人間は俺じゃなくてもよかったんだと思う。俺にとってボスの代わりはないけれど、ボスにとって、俺の代わりなんていくらでもいると思うし。
それでも俺をいさせてくれた。
俺とセックスしたのも、たぶんあんたのよくやる気まぐれの一環だっただろうけど。そんでもってその気まぐれの相手が俺じゃなくても誰でもよかったんだとしても。
俺で済ませた。手近にいたからとか、後々に面倒が無いとか、そんな適当な理由でいい。
ちっとも特別じゃなくても、ボスの中に俺がいたってことじゃん?それ。
ボスの中、桐山和雄の中に、沼井充っていう人間がいたんだ。膨大な量の知識がしまわれているボスの頭ん中に、俺がいたんだ。
だからそれ以上を望むことは悪だと思った。
ボスの中にある俺のちっぽけな居場所をなくしたくなかったから。

でもね、ほんとは後悔してるんだ。

どうせこんなんなっちゃうならさ。一回くらいゆっときゃよかった。
どうせいつかなくすなら、もう少しくらい、ふんばればよかった。
ひょっとしたらあんたは、また気まぐれを起こして何か答えてくれたかもしれない。
そうしてみるのも面白そうだとか、まったくもって失礼な言葉を頭の中で付け足してさ。

ねえボス。
もしさあ、俺があんたを好きだってゆったら。もし俺があんたに俺のこと好きになってってゆったら。
体ばっかじゃなくて、もっと深いとこちゃんと触ってってゆったら。
あんたはどうしてたかな。

ねえ、どうしてた?

赤い赤い水たまりに俺はひとり。
大好きで大好きでしょうがない人にころされて。
なのに体がしんでしまったから泣くこともできなくて。
ただ体からはじきだされたこころでいっしょうけんめい名前を呼んでた。
一回だけふりかえって俺のきずぐちを触って、そのまま何もなかったようにだいすきな人は歩き出した。
名前をいくら叫んでも、もうふりかえってはくれなかった。
何度も何度も呼んだのに。


桐沼。プログラムで桐山に殺されたときの充の独白っぽい。
基本ベースは小説版。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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