夕暮れの道。
似通った身長の、似通った歩幅。全然似つかない俺たちの、珍しく似た部分。
並んで歩く道はオレンジ色に染まった空の下に続いている。
けれどそれとは反対に風は冷たく吹きすさぶ。

空間にあるのは沈黙の重み。

すぐ近くにある、顔。目。手。存在。
なのに遠い。近くにあるように見えるけれど、ほんとうは遠くて。遠すぎて。
悲しくなるほどに永遠を思わせる距離がそこにある。
それを感じているのは俺ひとりだけれど。

何かが彼には欠けている。完璧な、完璧に見せかけたその中の欠けたもの。
完璧なはずの彼の、完璧ではない部分。
いつだったか俺はそれに気づいた。彼がとても遠くに思えた理由に気づいた。
彼には感情がない。
笑い、怒り、泣き、感情を露にするということがない。空々しく虚しい感情まがいのもので彼は日常を誤魔化している。
だから彼は人形みたいな瞳をしているのだ。
おそろしくきれいな、何にも害されない色をした瞳を。

その辺に生える草花も、赤く染まろうとしている今の空の色も、彼の瞳には映らない。
物体として認識しても、それに何の感慨も浮かばないのだから、映っていないことと同じだろう。
隣にいる自分も、同じように沼井充として認識されていても、そこに何の感慨も浮かばないし、沼井充が彼のそばにいることにも何の感情も抱きはしないのだ。

感情がないゆえに感情に左右されない瞳は、いつも安定してきれいな色のままだ。
俺の心も彼には届かない。俺の想いを認識しても、それに対して彼の中では何の感情も生まれてはこない。
そのくせ彼は変わらない表情と変わらない声音で俺の名前を呼び、変わらず同じ歩幅で同じように道を歩くのだ。

片道通行の想いはひどく辛い。痛い。
完璧な彼の完璧でない部分の所為で、完璧ではない俺の完璧に固められた想いが痛む。
叶わないことは知っていた。
彼は彼の意思にかかわらず常に鉄壁のバリアを持っていたし、どんなに近くて同じように歩いていても近くならない距離があった。

泣いたら負けだ。そこでおしまいだ。

わかっているのに立ち止まる。
笑いながら話しかけていた言葉がつまり、歩くことも出来なくなる。
ぱたりと音を立てて地面に落ちたしずく。くちびるを子供のように噛みしめて、こぶしを握り締めた。

心が痛いのはだめなんだ。

振り返る気配がする。
顔を上げればおそらく、何も映していない、ただ現状を認識するためだけに視力がとらえ反射するだけのガラス玉のような瞳がある。
ほんとうは気づいて欲しいと思った。立ち止まった理由に、笑い声がやんだ理由に。
俺の方へ歩いてくる気配。伸びた影が近づいてくる。
俯いた理由に気づかないなら、こっちへきたりしないで。

「充−?」

覗き込まれたのは、心の中身だ。
彼にとっては認識するだけの情報だ。
俺にとっては死にそうになるくらい胸の痛くなる感情だ。

好きなのに、好きだから、好きだけど、

「ボスのばかやろう…」


桐沼。
認識するだけでも反射するだけでも映すということに意味がある(かもしれない)ことに気づくべきだ。
てゆか、ばかやろうとか仮にもボスに対して言っちゃだめだよね。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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