ライフイズハード
生きたい。
生きたい。
どんなに無様でも、どんなに惨めでもいい。
生きて、生きて、いつか自由になりたかった。

食べ物も着る物も、まして帰る家もなかった。
孤児といえば少しは聞こえがいいが、その頃の自分は道端に転がるごみくずのようなものだった。
力も知恵もない子供は淘汰されるばかりのろくでもない場所で、身体や心を蝕まれながら、それでも必死に生きてきた。

月日が経ち、年を重ね、それなりの力と知恵を得る。
金になることは何でもやった。利益になると判断すればどんな酷いことでも顔色ひとつ変えずにやることが出来た。
金になるなら身体も売ったし、仲間と自分が認識したことはないが、端から見ればドブネズミ仲間の人間を売ったこともある。自分たちを駆逐しようとするどこだかのオエライさんをとっ捕まえて自分の保身と引き換えに娼婦まがいのこともやった。

どれもこれも生きるためだ。

人がひとりで生き抜くには、スタート地点が悪すぎた。
生きるということは難しい。たった一日生き抜くことでさえ、死に物狂いだった。
死んでしまえば楽になれると、ドブネズミが呟いた。呟いたドブネズミは数日してただの肉の塊になってカラスが食い散らかしていた。
あんなものにはなりたくない。
どんな手を使っても生きる。
それは純粋な本能だった。それが何故かなんて疑問も抱かなかった。生き物としての本能が、自分を突き動かしていた。

人を殺した。
本来なら、そう、それはとてもワルイコトだ。
けれど自分の命を秤にかければ、それはさしてワルイコトでもないような気がした。
人が生きるためには水や食べ物が必要で、それを得るためには金がいる。
金をやるからと言って自分の腕を引っ張った男は路地裏に連れ込んだ途端、ナイフを取り出した。
男は相当なサディストだったのだろう、オルガの身体を引き裂き血を舐め取りながら股間を硬くしている。
男の指が首に巻きつく。このまま行為がエスカレートすれば殺されると思った。笑いながら男はオルガの喉を押しつぶす。生きるためにこんな真似までしているのに、殺されては意味がない。
そこで一度、思考は途切れた。
気づいたときには、男はもう死んでいたし、自分は何故か血まみれで笑っていた。
生きている。
生きて呼吸をして、自分の身体が自分で動かせる。
そうだ、人は殺せるんだ。
殺されるよりは殺す方がマシ。死にたくないのだから、それも仕方のないことだと簡単に割り切りが吐く程度にはオルガは病んでいた。

それからオルガは本当に何でもやった。
さっきまで自分の上に乗っかり腰を振っていた男が、自分の名前を聞き、女みたいな名前だと笑った。それだけのことで殺したこともあった。
金をくれるというのなら犬のように振舞うことも厭わなかったし、文字通り身体を張って手に入れた物をくすねようとしたドブネズミには容赦なく制裁を与えた。
自分だってドブネズミだということくらいはわかっていたけれど、それでも生きたかった。
生に対しての執着だけで立っていた。

幾度めかのヒトゴロシをして、衣服の乱れを直していた時のことだ。
突然、それはオルガにとっては突然だと思った、に起こった。

「オルガ、とは君のことだね」

否定も肯定もする間は与えられなかった。
ただ確認するような節回しでそう言葉をかけられたのを最後にオルガに記憶はない。
気づけば真っ暗な部屋に鎖で繋がれていた。

しくじった、と心の中で呟く。
このところ、少しばかり派手にやり過ぎたのかもしれない。

「オルガ」

名前を呼ばれ、反射的にその声に振り返る。
趣味の悪いスーツを着た男がそこにはいて、彼はオルガに取引を持ちかけた。

罪状は売春と暴行と殺人。執行猶予もない。もちろん温情もかけられない。犯したた罪が多すぎた。このまま行けば死刑だという。
戸籍もないようなドブネズミを法が裁くのかと笑い出したいような気持ちになる。
じっと男を見つめるオルガに、実験サンプルにならないかと彼は言った。
実験台となり、やがて生体CPUとしてMSに乗る。
そうすれば、死刑は免れると彼は言った。

「…死ぬのは、嫌だ」

でしょうね、と彼は笑い、その時から自分は彼の持ち物となった。

今思えば、どちらの選択肢が正解だったのだろう。
生き延びるために選んだ選択肢によって、死ぬほどの苦痛を味わう今。
けれど生きている。
死にそうになりながらでも生きている。
このままずっと生きていられるとは思わなかったし、道端を這いつくばって生きていた時だって明日の自分が安全に生きているとは思ったことはなかった。
あの頃よりずっとマトモな衣服で、ずっとマトモな食事をし、いつからか趣味になった読書をする。そしてあの頃よりずっと酷い苦しみを味わう。
楽になるには死ねばいい。
いつだったかの名前も知らないドブネズミの言葉が脳裏によぎる。
それでも生きたかった。
足掻き、もがき、生き抜けば、いつか自由になれるなんて、それこそ自分の手の中にある小さな文庫本の夢物語だ。
夢物語を語れるのは、平穏な日常にある子供だけの特権だ。自分は平穏な日常とは程遠いところにいるし、まして子供でもない。
だから自分はここにいるのだろうけれど。

障害を踏み越えて、襲い掛かる凶器を跳ね返して、忍び寄る死を笑い飛ばす。

生きてさえいれば。
生きて。
生きてさえ。

…生きていたかっただけなのに。

     


なんか、3馬鹿は死刑囚でGに乗ることを条件に刑を軽くしてもらうとかってどっかで聞いたので。
果たして罪が軽くなったのか、重くなったのか悩むところ。

2010/10/27 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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