絶望の鐘と奇跡の種
色鮮やかに街が染まっていく。クリスマスが間近に迫った街はきらきらと輝いて、無気力症の人間がそこらにいなければ、まるで平和な世界だった。
重大な選択を迫られ、決断の時は刻々と迫っている。けれど、自分の中で答えを決めたからか、唯にとってはそこまで深刻な状況ではなかった。
不安がないといえば嘘になる。勝ち得ることの不可能な絶対の者に挑むのだ、怖ろしいとも思う。それでも毎日毎日深刻な顔をして日々を過ごすなんておかしいと思ったのだ。

ラウンジのテーブルいっぱいに広げられたたくさんの小箱。ネイルアート用のたくさんのストーンとモチーフ。
興味深そうに見る美鶴の視線を受けながら、唯はゆかりの手を取り、その爪の上に様々なストーンを乗せていった。

「うーん…、やっぱりピンクかなあ」
「ピンク?」
「ゆかりちゃんってピンク似合うし…どうかなあ、美鶴先輩」
「そうだな。ゆかりらしい可愛らしい色だと思う」
「じゃあピンクにしまーす」

淡いピンクと白で彩られたネイルに可愛らしいパステルカラーのバラを乗せ、唯は満足げに笑った。
完成したネイルアートにゆかりも目をキラキラとさせる。

「すごーい!ありがと、唯!」
「えへへー」
「ほう…。見事なものだな」
「じゃあ次は美鶴先輩の番っ」

感心したように言う美鶴の手を引くと、美鶴は戸惑ったように眉を寄せる。
ゆかりだけでなく美鶴の分だってやるつもりでいたのだが、もしかしたら迷惑だったのだろうか。
思わずじっと美鶴を見上げ、唯は訴える。

「ひょっとして、迷惑ですか…?」

ずきゅん。
どこからかそんな音が聞こえたような気がしたが、唯はまったく気に留めず、もう一度美鶴に向かって問いかける。迷惑ですか?と。
ほんのり潤んだ目で見つめられた美鶴があたふたとし始めたところで、ゆかりが助け舟を出した。

「ほーら、先輩!折角なんですからやってもらましょうよ。唯、すっごく上手ですよ。ね?」
「あ、ああ…」
「ほんとですか?やったぁ!」

美鶴の承諾をもらい、いそいそとストーンやらマニキュアやらを準備している唯を見ながら、ゆかりは美鶴にぽそりと呟いた。

「美鶴先輩、色々サクッてますけど」
「こ、これはだな、その…!」
「ま、可愛いですけどね。あんな満面の笑みで喜んだりとか」
「そうだな…。何と言うか…心臓に悪い」

溜息と共に吐き出された美鶴の台詞に、ゆかりは堪えきれずに噴出した。ばんばんと彼女にしては珍しく美鶴を軽く叩きながらおなかを抱えて笑っている。
美鶴はゆかりをたしなめるが、振り返った唯は訳が分からずきょとんとしていた。

「ゆかりちゃん、どうしたの?」
「え、だ、だって…!」
「唯、とりあえずゆかりは放っておいてやってくれるか」
「え?はい…」
「あー、美鶴先輩ひっどーい!」

和やかに談笑をしているうちに美鶴の爪も綺麗に仕上がり、途中でやってきた風花の爪にも可愛らしいアートを施し、唯はようやく自分の爪に取り掛かった。
今日は24日。クリスマスイブ。特にこの年代の女の子にとっては、クリスマスよりもクリスマスイブの方が重要な意味合いを持つ。
ゆかりや美鶴、風花にそう言った男性関連の話は聞かないが、折角のクリスマスなのだから少しは明るい気分で過ごして欲しい。
形を整え、薄いピンクのマニキュアを乗せる。キラキラ輝くストーンと可愛らしいバラ。リボンやレースも付けたいところだけれど、あまりひらひらしすぎてもおかしい気がする。
こんなものかな、と手を止めると、ゆかりたちが話しかけてきた。

「ねえ唯、唯は今日どうすんの?」
「ゆかりちゃんと私は2人でこれからケーキ買に行って部屋で遊ぶ予定なんだけど、唯ちゃんもよかったら」
「いいなあ、でも出かける予定があるんだよね」
「お、さてはデートでもするのか〜?」
「あはは、だったらよかったんだけど」

デートなんてものではない。約束なんかしていない。だって、相手は起きてもいない。
うっかりほろりと泣きそうになるのを堪えて笑顔で返す。
ゆかりと風花が同じように唯に笑顔で返す中、行き先を知っている美鶴だけは少し浮かない表情をしていた。

しばらくしてゆかりと風花を見送り、準備をし終えた唯が出かけようとした時、美鶴は唯を呼び止めた。

「行くのか?」
「はい」
「…話はつけてある。良いクリスマスになるといいな」
「美鶴先輩も良いクリスマスになりますように」
「ああ。…ありがとう」

行ってきます!と元気良く口にして、扉を開ける。行って来い、と優しい声が背後からかけられて、唯は思わず振り返り、ぶんぶんと手を振った。

  

病室に足を踏み入れると街の賑やかさとは無縁の静かな領域があった。
ベッドの脇にある棚の上に手のひらサイズのクリスマスツリーを置き、椅子に腰掛けて、ようやく唯はベッドに横たわる人物を見た。

「お久しぶりです、荒垣先輩」

返事は返ってこない。当たり前だがタカヤの銃弾に倒れて以来、彼は意識不明のままだ。
2人きりで過ごすクリスマス。こんな形で迎えるとは思わなかったけれど、誰にも邪魔されずにいられるだけで幸せなようにも思えた。

「今日ね、クリスマスなんですよ。ポロニアンモールもイルミネーションがすごく賑やかでした」

まるで独り言を呟くように語りかける。実際に返事が無くとも、会話をしているような気分で。
小さな箱を取り出して荒垣に見せる。得意そうな表情を作って、ほら、と箱を開けた。

「ケーキ、作ってみたんです。先輩ほど上手じゃないけど」

返事はやはり返ってこない。それでもまるで唯には返事をしている荒垣が見えるかのように彼女は笑う。
ケーキを箱から出して、お皿に乗せる。申し訳程度に、メリークリスマス、と呟き、ケーキを口に運ぶ。
荒垣が作った料理には敵わないながらも、相当においしく出来たケーキは、2つ並べられた皿のうち、1つだけが減っていく。何度かケーキを口に運び、それからしばらくして唯はそっとフォークを置いた。

「…ほめて、ほしかったな」

一生懸命作ったケーキも、綺麗に整えた爪も、買ったばかりのワンピースも。荒垣が起きていたら、きっと褒めてくれた。照れくさそうに笑って褒めてくれた。
目の前にいるのに、こんなにも近い距離にいるのに。
泣きそうになって、それでも泣くまいと頭を振り、投げ出された手を取って唯は微笑んだ。

「クリスマスには、奇跡が起きるんだもん。きっと起きるんだもん」

今日起きなくてもいい。いつかでいい。けれど、奇跡の種が芽吹くまで、この世界を無くす訳にはいかない。
荒垣が目を覚ました時、世界は今まで通りに存在していなければいけない。
だから。

「先輩、唯、がんばるからね」

だから、目覚めたら、今日の分も含めて、自分のことを褒めてほしい。
いつかの未来には、手を繋いで、イルミネーションを見に行きたい。
記憶を無くすことはしたくない。綾時は絶望を抱えたまま生きることになると言ったが、荒垣を忘れてしまうことの方が唯には絶望だと思った。

  

いつの間に眠ってしまっていたのか、唯が目覚めると、病室の窓から見える空は真っ暗だった。
そろそろ帰らなければ、と思い起き上がると、片方の手が引っかかる。

「え…」

そっと重ねられた手。起きるはずのない人。
泣くまいと堪える余裕もなく、唯は泣いた。

「ほら、やっぱり、奇跡は起こるんだよ」

今ならニュクスにだって勝てそうだ、と泣きながら笑った。

      


クリスマスに荒垣先輩と共に過ごせなかったのを脳内補完。
最初の辺、ゆかりや美鶴先輩とかにネイルアートしてるのは趣味。女の子いっぱいいてほのぼのしてると楽しい。
美鶴先輩は主人公が男でも女でも主人公のことがすごく好きだと思う。

2010/10/28 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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