タルタロスに向い、さて探索、となったところで突然荒垣が声を上げる。ほえ？と怒られた意味のわかっていない唯がきょとんとした顔で見上げると、荒垣は慌てたようにコートを脱いで唯に被せた。

「どう考えても、過剰に露出しすぎだろーが！」
「いやいや、荒垣サン、いいと思いません？男だらけの探索に潤い！大事じゃないっすか！」

ちらりと見渡してみると、にやけた顔をしている順平、恥ずかしいのか唯から必死で目線を外そうとしている明彦、そんな男子勢を尻目に首を傾げている唯。
誰かまともにこいつを注意する奴はいないのか。
大体嫁入り前の女が…と言いつつ、その嫁入り前の娘さんを傷物にしたのは自分なのだけれども、その辺りは置いておいて。

「先輩、先輩」
「んあ？」
「先輩、こーゆうの嫌いですか？」

いや、嫌いではない。断固否定するけれども、全人類の男は嫌いなはずがないと思う。
水着だったりメイド服だったり、唯のタルタロスでの服装は防具というにはちょっと頭を抱えるような服装だけれども！自分用のサンタ服防具がないと嘆いてたりもしたのも聞いていたけれども！
とにかく荒垣だって一応男なので、服装自体は嫌いではない。だがそれは、2人きりの場合において、だ。
こんな格好でタルタロスを探索されてはシャドウどころか順平辺りに襲い掛かられる可能性だってある。必死で見ないようにしている明彦だって、男なのだ。
心配性の帰来がある荒垣にとって唯のこの格好はあまり歓迎出来るものではなかった。

「…あのな。嫌いとかじゃなくて、とにかく駄目だ。人前でそんな格好すんな」

盛大な溜息を吐き出しながら、被せただけだったコートの袖を通させる。荒垣の体型に合わせたコートは大きすぎて、袖がかなり余っているけれど、これはもう仕方がない。
前あわせを止めてやろうとして、さすがにそこまでやるのは過保護すぎるかと唯を解放すると、先よりにやけた顔で順平が声を上げた。

「いやーなんか逆にエロいっ！ぶかぶかなコート！そして中はハイレグアーマーってのもミスマッチでなんかいい！っくー！俺生きててよかったー！」
「……」

無言で持っていた斧を振りぬく。
さすがに刃先を向けることはしなかったが、鈍器で殴られたと同然の順平はぴくぴくと痙攣している。

「…馬鹿が」
「あれ、え、ちょっと真田先輩！？唯、まだ散開命令出してないですよっ！それにここ、初めてのフロア…！」
「すまん！シンジ、後は頼んだ！」
「ええ！？どうしよう、荒垣先輩…」

どうやら耐え切れなくなった明彦は勝手に散開してしまったらしい。
眉根を下げてどうしよう、と訴える唯の頭をぽんぽんと叩き、コートの前あわせを今度こそきちんと止める。過保護だろうがなんだろうが、構うものか。
未だにぴくぴく痙攣している順平はとりあえず放置で、唯に言い聞かせる。

「…とりあえず、今度からんな格好で他の野郎の前に出んな」
「……先輩やきもち？」
「ばっ…！」
「でも大丈夫ですよ。順平くんも真田先輩も、きっと唯なんか見てないから」
「どこがだ！」
「ほええ？」

まったくもってこいつは危ない。はねっ返りで気が強くて、しっかりしてるのかと思えば色々なところが壊滅的に抜けている。
しっかり見張っていないと何をしでかすかわからない。自分がちゃんと見ていなければ、とそこまで考えて、頭を振る。
ずっと見ていることなんて自分には不可能だ。
そう、わかっているのだけれど。

「はあ…行くか、探索」
「あれ、順平くんは？」
「ああ？んなもん放置だ放置。置いてけ」
「はあーい」

元気良く返事をする唯の手をそっと取って歩き出す。
もう少しの間、ぬるま湯に浸かっていたい。
タルタロスもシャドウもペルソナも、もう関わり合いたくはなかったのけれど。

「なんか、こうしてるとデートみたいですよね！」
「…馬鹿が」

もう少しの間だけ、こいつの心配ばかりしていることを、許してくれ。

「ぶかぶかコート…中、なんも着てないみたい…ごふっ」
「死んどけ」
「わあああっ！順平くんしっかりー！？」

荒垣先輩と特別な関係になった後行ったタルタロスでの会話があまりにもときめいたので。
順平が一番かわいそうなことになってますけど、階段上る頃には復活してると思います。でも調子こいてると荒垣先輩に撲殺されます。
うちの荒ハムこんなんです。心配性彼氏とぼけぼけ彼女。

2010/10/28　改訂