デート日和
「先輩、デートしましょう!」

昨夜、それは唐突に言われた。
デート、と言われても、荒垣は彼女の喜びそうな場所も知らないし、女が好むような洒落た場所も知らない。
きらきらした表情で上目遣いに見つめてくる唯に一抹の不安を覚えながらも、無理だとも嫌だとも言えず、結局は了承してしまった。

朝、いつもより少し早い時間に目が覚める。
待ち合わせはポロニアンモールだ。寮のラウンジか玄関で待ち合わせればいいものを、わざわざ唯はポロニアンモールの噴水の前で待ち合わせましょう、と言って指きりまでさせられた。曰く、それがデートなのだと言う。
唯のそう言った考え方を荒垣は理解できなかったが、彼女が喜ぶならそれでいい。
とにかく、時間はまだ充分に余裕があった。朝食を食べて出かける準備を初めても間に合うだろう。

洗面台で顔を洗い、髪を整える。
ああ、冷蔵庫には卵とベーコンがあったはずだ。本当は唯にでも作ってやるはずだった朝食の材料だが、彼女を起こしに行って朝食を食べさせるのは難しいだろう。それでは待ち合わせの意味もデートの意味もないと怒られそうな予感がする。
(適当に焼いて、自分で食べるか)
この寮で料理をするのは唯と自分と、食べられるかどうか怪しいものしか作れない風花だけだが、料理を作る者はこまめに材料を買ってきては朝食や弁当、夕食を作っていた。大抵、食べる時には他の人間が混じっているけれども。もしかしたら、そのうち朝食まで全部作らされる羽目になるかもしれない。
調理中に降りてこないといい、とぼんやり思い、あくびをかみ殺しながらラウンジに降りると、テーブルの上にサンドイッチとメモ用紙があった。不思議に思ってそっと置かれたメモ用紙を手に取るとそこには女の子らしい小さな文字が綴られていた。

荒垣先輩へ
サンドイッチ作ってみました。食べてください。 唯

卵サンドとハムサンド。ポテトサラダ。夜に作っている様子はなかったから、朝起きてから作ったのだろう。
考えることは同じだ、となんだか照れくさい気持ちになりながら、コーヒーを淹れてテーブルにつく。
いただきます、と行儀よく口にして食べ始めた頃、順平が大きなあくびをしながら降りてきた。

「はよーございまーす」
「おう」
「あれ、何食ってんすか?いいなーサンドイッチ…」
「俺が作った訳じゃないからお前の分までは知らねえぞ」
「え、じゃあ誰が」

答えるのもなんだか気恥ずかしくて、荒垣はそのまま口を噤み、サンドイッチを食べ進めた。
ハムサンドを手に取ったところで、ふと手を止める。パンに挟まれたハムとチーズの形がおかしいことに気付いた。気になってパンを外して見ると型抜きでくり抜いたのか、ハムもチーズもハートの形をしている。
(…んだ、こりゃ)
思わず固まっていると、冷蔵庫を漁っていたらしい順平が声をあげた。

「荒垣サン、あったっスー!!さすが我らがリーダー、唯っち!ちゃーんとオレらの分も…ってあれ?」
「……げほ、げほっ」
「大丈夫っすかー?」

なんでもない、と返し、そっとパンを元に戻す。
向かいに腰掛けた順平が食べるサンドイッチを盗み見たけれど、そんな手の込んだことはされていないようだった。というか、1人前をきれいに盛り付けられた荒垣の分とは違い、大人数のをまとめて乗せられている。作ってあるだけ唯の優しさなのだろうが。

「あー、てゆかポテトサラダ、荒垣サンの分で最後みたいっすね」

順平が何気なく言った言葉に、自分が唯に特別扱いされたのだと気付いて思わず笑っってしまった。

   

食器を片付けて部屋に戻り、出かける準備をして寮を出る。
日差しは柔らかく、空は青く晴れ渡っていた。
ポロニアンモールに着いて時間を確認すると、約束の時間より10分以上前だったけれど、朝起きてから寮で唯の姿を見ていない所為か、早く唯の顔を見たくて辺りを見渡す。
休日のポロニアンモールはそれなりに人通りが多く、ぱっと見ただけでは唯の姿はわからない。唯を探して辺りを見回していると、どこからか、男の声が聞こえた。

「あの子さ、可愛くね?」
「あー、ふわふわした髪の子?彼氏待ちじゃねーの?」
「かなー?」

なんとなく男たちが示す先を見る。
肩より少し長い、ふわふわとした髪。女の子らしいワンピース。荒垣の位置からではその少女の顔までは見えなかったが、確かに人目を惹く可愛らしさがあった。
視線に気付いたのか、少女が顔を上げる。一瞬、目が合ったように感じ、鼓動が跳ねた。
少し時間を置いて、その少女がこちらに向かって走ってくる。

「荒垣先輩!」

近づいて、名を呼ばれ、ようやくそれが唯であることに気付いた。普段まとめられている髪がおろされている所為か、雰囲気が変わって見える。
話していた男たちが荒垣を一瞬妬むように睨んでいたのがわかった。

「…女ってのは変わるもんだな」
「変ですか?」
「いや…」
「でも唯も最初、わかんなかったです。だって、あんまり帽子外してるとこ、見たことなかったし」
「…そうか」

なんだか恥ずかしい。唯を唯と気付かず見惚れてしまったのも、用意された朝食も、こうやって、外で待ち合わせをするのも、挙げたらキリがない。
うまく褒めてもやれないまま、気恥ずかしさを誤魔化すように唯の手を引いて、行き先も決まっていないのに歩き出す。

今日は休日、晴天。絶好の、デート日和。

     


+天泣+のaspettaさまへ相互お礼として書かせていただいたもの。
荒ハムで、と言われ、思いつくまま書いたんですが、なにやら恥ずかしい人たち(主に荒垣先輩が)になってしまいました…。
い、いかがでしょう…!?(びくびく)

ちなみにチーズとハムのくりぬいた残りはポテトサラダに細かく刻んで投入。
…朝からそんな手の込んだこと、佐倉さんならしたくない。

2010/10/28 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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