私だけ、あなただけ
どうして男というのは欲望に忠実すぎるのか。
修学旅行中に女子の露天風呂を覗くという痛いことをやらかした男子三名を無事?発見して、唯は溜息を吐く。
怒り狂う美鶴やゆかり、露骨に嫌悪を露にする風花。それを静観するアイギスを尻目に、唯はゆっくりと湯船に肩まで浸かりながら、やっぱり彼らも男の子なのだ、とどこか諦めのような気持ちを抱き、同時に少なくはないショックを受けていた。

「今回ばかりは私も手加減など出来んぞ…!」
「手加減なんて無用です、美鶴先輩!やっちゃってください!」

飛び掛る美鶴やゆかりを見ていると、シャドウ相手に総攻撃している様子にも見える。
それに関してはまったく止める気など唯にはなかったが、バスタオル一枚で蹴ったり殴ったりと言うのはある意味で彼らには逆効果なのではとも思った。
けれど、美鶴たちは自分の格好よりも処刑するということの方が重要らしくバスタオル一枚であることもここがお風呂場であることもどうでもいいらしかった。

「ねぇ唯ちゃん…」
「んー?」
「ちょ、ちょっとやり過ぎな気もするんだけど…」
「大丈夫だよー、多分死んだりしないし」
「唯ちゃん、ひょっとして、すごく怒ってる…?」

少し遠慮がちに訊ねてくる風花に、そんなことないよ、とにっこり笑顔を返す。
けれど風花は笑顔の裏に隠した真意に気付いたようで乾いた笑みを浮かべていた。
(三人共ぼっこぼこにされちゃえばいいんだもん)
そう。唯は風花の予想通り怒っている。覗きをしたという事実にもだが、それに明彦が加担したということに一番腹を立てていた。
綾時や順平ならば性格的にもまだ諦めが付くけれど、明彦までとは思わなかった。諌める立場にあるはずの明彦がどうしてこんなことをしたんだろう。
明彦と唯が恋人同士という間柄になって大分経つが、ケンカをしたことなんて一度もない。けれど、今回ばかりはケンカに発展しそうだな、とどこか冷静に唯は思った。

「唯さん」
「ほえ?どうしたの?アイギス」
「順平さんたちの生命維持に支障が出始めています」
「あー、そっかぁ…じゃあ…美鶴せんぱーい、ゆかりちゃーん、そろそろ出ませんかー?」
「あ、唯ちゃん処刑をやめろとは言わないんだ…」
「アイギス、お風呂出たらアイス食べようね」
「はい!であります!」

見るも無残な姿になった男たちを放り出し、湯船から出る。脱衣場に戻る道すがら、途中で美鶴は唯に向かって静かな口調で言った。

「影時間になったら、奴らを氷漬けにする」
「死なない程度にお願いしますね、美鶴先輩」
「ああ、わかっている。死ななければいいんだろう?」
「はい。死ななければ何しても大丈夫です」

にっこりと笑って返す唯とそれに賛同するゆかりの半歩後ろで、風花は湯船に浮かぶ不埒者に向かって、ご愁傷様、と呟いた。

  

修学旅行を終え、巌戸台分寮に帰ってきた唯は一通のメールを受信する。
明彦からだった。

『怒っているか?』

覗きの一件があってから、女性陣は徹底的に彼らを無視していたので、唯も同じように会話を避けていた。なので結果的に彼らには反論の機会も弁明の機会も与えられないままだ。
ゆかりや風花と共にソファに座って雑誌を広げながら、受信したメールにこっそり返信する。

『先輩なんであんなことしたんですか?』
『俺は巻き込まれただけだ、主犯はあいつらだぞ』
『一緒にいた時点で同罪です。』
『だから、俺は巻き込まれただけで…』
『そんなに他の女の子の裸、見たいですか?唯の裸だけじゃ足りないですか?』
『そんなことはない!』
『ていうか、唯の裸を順平くんや綾時くんに見られてもよかったんですか?』

こんなに近い距離にいるのにメールで話すなんて、どこかおかしい気もしたけれど、面と向かって話すのも気まずいものがあるのだろう。事情を知らない天田やコロマルは普段通りだが、修学旅行に行った女性陣と男性陣との間にはどうにも壁のようなものがあった。
自業自得だ、仕方がない。
それからメールの返信はなく、どうしたのかと、テーブルに座っている明彦の様子を伺ってみた。
普段の明彦からは想像も付かないくらい落ち込んでいるらしく、テーブルに突っ伏して頭を抱えている。どうやら相当にダメージを受けているようだ。
ここまで来るとなんだかそれが面白くなってきて、唯は駄目押しとばかりにメールを打った。

『タオル巻いてなかったら、全部見られてたんですよ?』

そう。普通温泉などの場所でバスタオルの着用が許可されている場合は少ない。たまたま旅館側がそれを許可してくれていたからよかったものの、そうでなければ自分たちは全裸を見られる羽目になっていたのだ。
送信したメールを読んだ途端、明彦は弾かれたように顔を上げた。
そしてその勢いのまま唯を振り返り、金魚か何かのように口をぱくぱくと動かしている。
ふい、と視線を外し、唯は雑誌を閉じた。

「唯、そろそろ部屋に戻るね」
「あー、おやすみー」
「おやすみ、唯ちゃん」
「うん、おやすみー」

階段を上り、二階で待つ。しばらくすると明彦が辺りを伺うようにしながら上ってきた。
唯の姿を見つけた瞬間、慌てて近づいてくる。

「ゆっ」
「……」
「あ、ああそうか…」

あまり声が大きいと唯がいることがばれてしまう。ジェスチャーだけで注意すると、明彦も小声になった。
明彦だってみんなに気付かれないようにわざと時間置いたのだろうに。
口元に当てた指を離し、そっと明彦の部屋を指し示す。
唯の言うことを理解したらしい明彦はそっと部屋のドアを開けた。

「…唯、その…すまなかった」

部屋に入るや否や明彦は唯に向かって頭を下げた。様子を見るに、相当反省しているらしい。
さすがにこれ以上追い詰めるのも可哀想で、唯はそっと息を吐く。
それはもう見事な氷のオブジェにされていた順平と明彦を思うと、唯がわざわざ怒る必要もないほどに痛い目は見ている気がした。

「もうやらないって、約束出来ますか?」
「当たり前だ!というか、考えが足りなかった…」
「むー…」
「お前があいつらに見られるって、考えてなかった」
「そうです!それに!」

乱暴にリボンを取り、ボタンを外してシャツの前を開ける。
ぐ、と詰め寄ると顔を真っ赤にした明彦が唯が詰め寄った分後退りしたけれど、無理矢理手を取ってそれを自分の胸に導く。

「こんなに、見たり、触ったり、いっぱいしてるのに…他の女の子なんか見ちゃ嫌です!」
「ゆ、唯!?」
「足りませんか?唯の全部じゃ足りないですか?」

至近距離まで迫ってじっと見つめる。身体は密着していて隙間がないほどだ。
明彦は顔をこれ以上なくらいに赤くしているけれど、唯だって充分恥ずかしい思いをしていた。追い詰めるのも可哀想だと思った割に結局追い詰めているようなのは少し気が引けたけれど。
けれどそれにも意味がある。彼女の裸をせめて見られないようにしようとは思わなかったのかとか、巻き込まれたとは言え他の女の子の裸を見てしまったことだとか、色々ぶつけたかった気持ちが唯の中では渦巻いているのだ。
自分を好きだと再確認させないと気が済まない。
手を離して首にしがみつく。耳元で囁くように名前を呼ぶと、ごくりと喉の鳴る音が聞こえた。

「唯のこと、好きですか?」
「当たり前だ」
「誰にも見せたくないって思ってくれますか?」
「ああ…」
「他の女の子、もう見たりしない?」
「ああ、だから…っ」

焦れたようにそう言って、明彦は乱暴に唇を押し付けてきた。深く激しく絡む舌の動きに、ほっとする。
もっとちゃんと、自分を好きだと思って欲しい。他の女の子なんか、目にも入らないくらい。
唇を離して息を整えながら、唯はようやくお許しを出した。

「先輩なら、もっといっぱい、触っていいですよ」

     


真田先輩がなんだかガツガツしてる感じになってしまった…。ごめんよ、先輩。
まあ、何と言うか、せめて順平とか綾時とかに見せないようにして欲しかったなとか、お前ハム子いんのに何やってるよとか思ったので。
順平はキャラ的にアリだけど、真田先輩はまずいよね。

2010/10/28 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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