ずっとともだち
ある晴れた休日、唯は順平と連れ立って公園に来ていた。
珍しく用事のなかった唯がラウンジで遅めの朝ごはんを食べていたところ、順平に強制連行されたのだ。
他のみんなにも声をかけてみたけれど、各々用事があったり、すでに寮にはいなかったりで結局公園に来ているのは順平と唯の二人だけだった。
そして公園に来て何するのかと思えば、早速弁当を食べるらしい。
せがまれるまま弁当を作って持ってきてはいたものの、こんなに早く食べることになるとは思わなかった。
(あんまりおなかへってないんだけどなー)
そうは思いながらも早く早くと急かす順平はすでにベンチで弁当を食べる準備をしていた。
まるで餌をあげる時のコロマルのようで思わず笑ってしまう。

「おっ、急ごしらえの割にいい感じじゃん!」

ベンチに横並びに座って弁当を開いた順平は目を輝かせて喜んだ。
唯はといえば朝ごはんを食べた時間が遅かったのであまり食べる気はしなかったのだが、素直に喜んでくれる様子に悪い気はしない。
惰性で手に取ったおにぎりを口にしながら公園内に視線をやる。休日だというのにあまり人がいなかった。近頃の子供はあまり公園で遊ぶことをしないのだろうか。
ぼんやりそんなことを考えていると、おにぎりを頬張っていた順平が溜息を吐いた。

「あ、ごめん、おいしくない?」
「や、ちげえけど」
「?じゃあどうしたの?」
「みんなつめてーよなーって」

どうやら誰も誘いに乗ってくれなかったことに拗ねているらしい。
言い出した時間が時間だったし、当日なのだからそれも仕方のないことだろう。

「順平くんみたくみんな暇じゃなんだよ」
「そういうお前だって暇人だろー!?お前も同類だー!!」
「あはは、まあいいじゃない、ね?ほらほらタコさんウィンナーだよー」
「わーやったー、お母さんありがとー!…って何やらすんだよ!」
「あはははは!」

ぶつぶつ言いながらもタコさんウィンナーは嬉しかったのか順平は笑顔のままだ。
こんなことならもっと手をかけた弁当にすればよかったとほんの少し後悔する。急な提案だったとは言え、もう少し何か出来たのではないかと思わずにいられない。
おにぎりの具は余りものの鮭だし、たまご焼きの具だって冷蔵庫にあった残り物の野菜を細かく刻んだだけだ。ウィンナーだって余りにも淋しいおかずにせめてとタコの形にしただけ。
我ながら少し情けない気がする。思わず溜息を吐きそうになったけれど、それはしみじみとした様子で言った順平の言葉で止められた。

「…なんか、いいよな。お前いい嫁さんになるよ」
「ほえ?」
「ほら、だって急だったじゃんか、オレが言い出したの。なのに冷蔵庫ん中にあったもんだけで弁当とか作っちまうんだから、すげえと思うよ」

唐突に褒められて、思わず言葉を失う。
きょとんとした顔をしている順平に、今度は笑いがこみ上げてきた。

「順平くんもいい男になるよ、きっと」
「そーかー?まあ、なったらいいよな」

  

弁当を食べ終え、唯と順平は公園内を回ることにした。
さてどこから遊ぶか、なんて遊具を物色している順平に、唯はこの公園に入った時から気になっていた滑り台を指し示す。

「ねえねえ、あれ」
「ん、どしたー?」
「タコ!タコの滑り台っ」

大きなタコを象った滑り台は降り口と登り口が何箇所かあり、頭はドーム状の空間になっていて、唯も小さな頃よく友達と遊んだものだ。
苦労して登っていた傾斜も今はなんなく登れてしまって、それを少し淋しく思ったけれど、懐かしさの方が勝った。

「わあ、懐かしー!」
「はは、めっちゃ落書きされてんじゃん中」
「そうそう、唯の小さい頃よく行ってた公園もそうだった。でも不思議じゃない?」
「何が?」
「だってほら、あんな天辺、どうやって落書きしたんだろって思わない?」
「おー、確かに。肩車…いや脚立か?」
「脚立…落書きに命賭けてたのかな…」
「いや、それはない」

身体が大きくなってしまった所為で、やはり滑ってみてもすぐに地面についてしまう。
大人用の遊具があればいいのに、と少し残念に思った。
順平も同じことを思っていたのか、唯と同様に残念そうな表情をしていて、思わず顔を見合わせて笑いあう。
それから、公園の隅にある遊具を見つけた順平は子供のように目を輝かせて指を指した。

「おっ、ブランコあるじゃん!唯、乗ろーぜ!」

唯も頷いてブランコに駆け寄る。
錆びて塗装の剥がれた箇所がところどころに見受けられるのも、自分が小さい頃遊んでいた公園のものと変わらない。
ジャングルジムやシーソーも好きだけれど、やはり一番はブランコだ。

「二人乗りしよーぜ?前に約束したろ?マジぶっ飛ぶくらいおもっきし漕いでやるかんな」
「やったあ!」
「落ちんなよー?」

順平が立って唯が座る。ほんの少し窮屈な気もしたけれど、ブランコで遊びたい欲求には勝てなかった。
行くぞ、と前置いて順平が漕ぎ始める。何度か往復する度に空との距離が縮んでいった。

「わぁ…っ!すごーい!すごいすごいっ!」
「へへっ、どーよ?」

順平の漕ぐブランコはぐんぐんと空との距離を詰める。小さな頃自分で漕いだ時よりも空が近く感じて、唯は思わず歓声を上げた。
ブランコの仕組みもわかってしまって、金具がつけられていることも知ってしまって、このブランコが決して空に届かないとわかる歳になってしまったけれど、小さな頃、夢中で漕いで、漕ぐ度に近くなる空の距離にはしゃいだ記憶が甦る。
まるで空に手が届きそうな気がして思わず手を伸ばしそうになったけれど、さすがに手を伸ばしたら危ないと言うことはもう理解していたので諦めた。
そんな唯の行動を知ってか知らずか、順平が声をかける。

「なあ、空、すっげー近いだろ?」
「うん、なんか、ほんとに飛べそうなくらい」
「ははっ、マジにやったら危ねぇからやめとけよー?」
「てゆか、やらなかった?ブランコ限界まで漕いで、それからぴょんって飛び降りるの」
「あー、やったやった!オレなんかさ、飛び降りたとこが悪かったらしくて戻ってきたブランコで頭強打したことあるぜ」
「うそだぁ」
「いやいや、マジで。あれはやばかった。怖いもの知らずのちっせー頃だから出来たことだよな」
「そうだねー。でもあの一瞬中に浮いた感じ、好きだったなあ」
「オレも」

子供は恐れを知らない。そしてただのブランコでも空へ飛べると思えるくらい純粋だ。
もう自分たちは痛みを知ってしまって、ここから飛び降りることも難しく、またブランコでは空は飛べないことも知ってしまった。
成長してしまったことを哀しくは思わないが、少し淋しくはある。

「なあ唯ー?」
「うん?」
「頼みがあんだけど」
「なあに?」
「約束しよーぜ」

不意にかけられた真剣そうな声と約束という言葉に唯は顔を上げるけれど、順平はまっすぐ空を見つめながらブランコを漕ぎ続けていた。

「五年後…いや、十年後?ま、どっちでもいーんだけどさ」
「?」
「またこうやってブランコ二人乗りしようぜ?」
「うん?いいよー」
「お前が結婚しても、オレが中年のオッサンになっても、オレらがじーさんばーさんになってもさ、たまにこうしてブランコ乗ろーぜ」
「え、おじいさんになったら、きっと順平くんブランコなんか漕げないよー」
「ばっか、オレをなめんなよ?百歳のじーさんになったって百歳のばーさんになったお前を連れ出してブランコ乗せるかんな!」
「そしたらまた今みたいにめいっぱい漕ぐの?」
「おう!」
「あははは!」

これから先、順平にも彼女が出来るだろう。唯にだって彼氏が出来るだろう。けれど、それでもこんな風に一緒にブランコに乗れたら素敵だと思う。
くだらないことで笑って、今みたいにブランコに乗って、空には届かないねって言って、大人になっちゃったねって笑えたら、きっとそれはとても素敵なことだと思う。

約束ね、と笑うと、順平も視線を合わせて笑ってくれた。

     


順平とハム子は友達以上恋人未満っていうイメージ。だって順平にはチドリがいるし、ハム子には荒垣先輩(他含む)がいるし。いや進展してくれてもいいんだけど。ほら、チドリや荒垣先輩死亡ルートとかなら逆にしっくりくると思うんだ。
ちなみにこれはまだチドリにも荒垣先輩にも会う前の時期。

2010/10/28 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル