「身体だるいのに血色いいとか、変なのー…」

ぶつくさと文句を言いながらも制服に着替え、朝食を取る為にラウンジへ降りる。
ゆかりはすでに部活に行っているようでいなかったが、普段ならすでに学校へ向かっている明彦も、もっと遅い時間に起きてくる順平も荒垣もなぜか押し黙ったまま個々に散らばって座っていた。
珍しい顔ぶりに少し驚きながらも唯は声をかける。

「おはようございまーす」

そう唯が言葉を発した瞬間、時が止まったのではないかと思うほど見事に三人は動きを止めた。
（え？）
朝の弱い荒垣はともかくとして、朝から無駄に元気な明彦や順平までもが小声で挨拶を返しただけで誰一人唯と顔を合わせなかった。
順に三人の表情を窺っていくと、何やら妙に気まずそうに視線を彷徨わせている。
話しかけるのも躊躇われるほどだったので、仕方なく朝食の支度に取り掛かった。
チーズオムレツとサラダを手早く用意して買っておいたロールパンを一つ皿に乗せテーブルへ運ぶ。
唯と視線を合わせたくなさそうに見えるのに、時折視線を感じる。気まずそうなくせにラウンジから誰一人として出て行かない。なんとも妙な光景だった。
朝食を食べ進める中、紙パックから注いだ牛乳を飲む。途端、唯は咳き込んだ。

「うぇ…っげほ！けほ！」
「何やってんだ、お前…」
「ど、どうしたんだ！？」
「ゆ、唯っち？」
「な、なんかこの牛乳、変な味がする…っ」

生臭いような、青臭いような。変な味。腐ってでもいたのだろうか、と賞味期限を見るとまだ製造日から日にちも経っていなかったし、紙パックの封を開けたのも今さっきだ。
さっきまでの沈黙ぶりはどこにいったのか、心配そうに唯を見る三人に事情を説明すると一様に不思議そうな顔をして牛乳の臭いを嗅いだ。直後、明彦はすごい速さでその牛乳を捨てに行ってしまったが、ちらりと見えた明彦の顔は青褪めているようだった。

「え、何？」

行ってしまった明彦を不思議に思う間もなく荒垣に腕を引かれて台所に連れて行かされる。口を濯げ、とコップに入った水を渡された。
心配そうに見守られる中、なんとも言えない居心地の悪さを感じながら口を濯ぐ。人に見られながらというのはどうにも恥ずかしかった。

「おい、口ん中、もう平気か？」
「うーん…さっきよりは大丈夫…かな。でも、まだなんか、つっかかる感じが…」
「ゆ、唯っち！昨日買ってきたオレンジジュースまだ封開けてないし、口直しに飲んでみ？な？」

新しいコップにオレンジジュースをなみなみと注がれ、さすがにオレンジジュースまで腐っていることはないだろうと唯も口をつけた。
100パーセントのオレンジジュースは少し酸味が強かったけれど、その分さっきの妙な味は消えていく。牛乳を捨て終わったらしい明彦も荒垣も順平も、心配そうに唯を見つめていた。
コップの半分ほどを飲んだところで唯はようやくほっと息を吐いた。

「ありがとう、順平くん。荒垣先輩も真田先輩もありがとうございます」

どうにか微笑んで返しながら、一体あの牛乳はなんだったのだろうと唯は考えた。腐っているという理由だけでは済まされないほど牛乳らしい味がしなかったのだ。
それに三人が妙に慌てた様子だったのも気にかかる。だが現物も処分されてしまったし、それを調べることも出来ない。
あれは何だったんですか、と訊ねても、三人とも答えてはくれなかった。

「…しばらく牛乳飲むの怖いな…」

そう呟く唯のポケットの中、ペルソナカードの中の一枚が怪しく光り、それに封じられた悪魔がけらけらと腹を抱えて笑っていた。
昨夜から装備したままのサキュバスだった。

今回あえて露骨に男性誌的な台詞を唯に言わせてみる努力をしてみたり男性誌的な展開（笑）にしてみたりしたんですが、どうでしょう…？
夢魔さんは男性の夢に忍び込んで精液を集めるんですが、ベッド脇に小皿に入れた牛乳を置いておくと難を逃れられるらしいです。でもレベルMAXになった夢魔さんはそれを逆にやってイタズラした訳ですね。
……はい、くだらなーい☆（笑）
たまにこういうくだらないことやりたくなります。発作です。病気です。うふふふ！
インキュバスとサキュバスの話まんまで男性の夢に現れて精液を集めて女性の夢に現れて受精させるとかしても楽しかったかもしれない。

2010/10/28　改訂