両親が亡くなって数ヶ月。とりあえずという形で遠縁の親戚の家に置かせてもらっている中、クリスマスはやってきた。
親のいない初めてのクリスマス、せめて妹の分だけでもプレゼントをと一臣は少ない小遣いで手のひらより少し大きいサイズの赤いリボンを付けたテディベアを買っていた。
サンタを信じている唯には申し訳ないが、一臣はサンタの存在が親だったことに随分前に気付いてしまっていた。だからその親がいない今、唯の元にはサンタが来ないことも知っていた。
いい子にしていればサンタがくると信じている唯の夢を壊す訳にはいかない。
厄介者然としてしか自分たちを見ない親戚は他の引き取り手を捜している最中だし、クリスマスだからといってケーキやプレゼントを用意してくれるとも思えなかった。
ならば、唯のサンタは自分が両親の代わりに務めよう。

唯がすやすやと寝息を立て、熟睡したのを確認して、一臣はベッドからそっと抜け出した。クリスマスらしいラッピングをされた包みをカバンから取り出し、そっと枕元に置かれた靴下にプレゼントを入れた。
これできっと、明日の朝、唯はとびきりの笑顔を浮かべてくれるはずだ。

これから先、自分と唯は別々の場所に引き取られる可能性だってある。
その時のクリスマスに彼女の元にサンタは訪れるだろうか。
子供でしかない自分は、唯と二人だけで生きていく力がない。本当なら、唯が大人になって、サンタの正体にも気付くような年になるまで、いや、なってからもずっと、クリスマスの朝、唯が微笑んでいられるようにサンタの役をやり続けたいのだけれど。
いつか自分と離れて暮らすようになった唯が、クリスマスの朝、空っぽの靴下を見て泣き出さないか、それだけが心配だった。

「お兄ちゃん！お兄ちゃん起きて！」
「んー…？」

翌朝唯に起こされて一臣が目を覚ますと、満面の笑みを浮かべた唯が飛びついてきた。

「サンタさん来たよ！ほら！」

そう言って唯が差し出したテディベアは昨夜一臣が唯の枕元に置いたプレゼントだ。
予想以上にうれしそうな唯に一臣も笑顔になる。
けれど唯が発した言葉に一臣は目を見開いた。

「お兄ちゃんのところにも来たよ、サンタさん！」
「えっ…」
「ほら、見て！」

先ほどまで寝ていたベッドの枕元、小さな包みがあった。
不思議に思いながらラッピングを解いていくと、中には青いリボンをつけたテディベアがクリスマスカードと共に入っていた。
カードを開くと、拙い文字でメリークリスマスと書かれている。文字の癖や大きさでそれが唯の文字であることに一臣は気付いた。
唯に贈ったものと同じ型のテディベア。店の陳列棚に、そう言えば赤いリボンのほかに青や黄色のものもあった気がする。自分と同じように、唯も買ってくれたのだろうか。

「お兄ちゃん…？どうしたの？うれしくない？」

心配そうに見つめる唯に、泣きそうなのを押し殺して笑顔を返す。

「そんなことないよ。すごくうれしい。…こんなうれしいプレゼントは初めてだ」
「ほんと？よかったあ！」
「何がよかったの？」

意地悪く訊ねると、唯は慌てたように、お兄ちゃんのところにもサンタさんが来てよかったね、と言い直した。
そっと唯の髪を撫で、抱きしめる。

「きっと今年来てくれたサンタさんはとっても優しいサンタさんだね」
「えへへ」

サンタの役を演じきったつもりの唯に気付かれないように、心の中でだけ、何度もありがとう、と繰り返した。

おうちが変わってしまって煙突がなくなったのでサンタさんは来られないと思っていた為、唯はおにーちゃんの分だけでもとプレゼントを買っていたのです。
一臣のところには自分が用意したプレゼントしかないのを見て、今年のサンタさんの正体になんとなくは気付いてるんですが、煙突があれば例年通り来たんじゃないかとか夢見てます。

とにかくクリスマスにクリスマスネタをと思ってぼんやり考えてたら荒ハムでも真ハムでもなくキタローがごり押しで佐倉の脳内から飛び出してきました。
うちのキタローとハム子は双子という特殊設定なので、他の話をアップしてもいないのに（書き途中だから）どうかとは思ったんですけど、折角なので。

2010/10/28　改訂