あなたのことが好きだから
放課後になり、美鶴は唯と共に学校を出るところだった。
先に靴を履き替え、唯のところへ迎えに行くと、唯は自分の下駄箱の前で手紙を選りすぐっているようだった。

「どうした?」
「えっと、普通のお手紙とカミソリ入ってるやつと分けてます」
「な、カミソリ!?」

カミソリ入りの手紙。話には聞いたことがあるが、そんなものが実在するのも、それを唯が送られなければならないということも美鶴は信じられなかった。
けれど唯は美鶴の様子にきょとんとして不思議そうに小首を傾げている。
手紙をむにむにと押し、怪しいと思った手紙とそうでないものとを選り分ける様は確かに手馴れていて、そんなものを受け取るのが初めてではないことを指し示していた。

「ゆ、唯?」
「はい、なんですか?美鶴先輩」
「その…なんというか、それはよくあることなのか?」

思わず心配で訊ねると、唯はころころと笑った。

「毎日ですから。どうもやっかまれたりしてるみたいです」
「なぜ君がそんな…」

美鶴の欲目ではなく、彼女は成績も優秀だし部活動にも熱心だ。友人も多く、可愛らしくて性格もよい彼女がなぜそんな目に遭っているのだ。
美鶴の疑問は特に強く訊ねるまでもなく唯が答えてくれたおかげで解消されたが、その内容はといえばとんでもないことだった。

「真田先輩とか、美鶴先輩のファンの子って、すごい熱心なんですよね。真田先輩と話してたり、美鶴先輩と一緒に帰ったりとかしてると、カミソリレターとか、画鋲とか、結構あるんです」

あ、画鋲はもう捨てましたけど、となんでもないことのように言う唯に美鶴は眩暈を覚えた。
美鶴の様子に唯は少し戸惑ったように言葉を続ける。実際怪我をしたことはないから大丈夫ですと。
怪我をしていなければいいと言う問題ではないだろう。まさか自分や明彦の所為で唯がこんな目に遭っているなどと美鶴は想像もしていなかった。
昇降口の隅に置いてあるゴミ箱へ、唯が危険と判断した手紙をばさばさと捨てていく。残ったまともな手紙を丁寧にカバンへしまい、唯は屈託なく笑った。

「さ、行きましょう?お待たせしてごめんなさい」
「……」
「先輩?」

ことりと首を傾げる唯はとても可愛らしい。けれどそんな可愛らしい彼女をこんなひどい目に遭わせていることに美鶴は耐えられなかった。

「あの…そのだな、もし私や明彦が学校で君と共にいるのが迷惑なら…」
「いやです」
「は?」
「唯、いやですからね。美鶴先輩と一緒に帰れなくなるの」

間髪入れずに唯は答える。その言葉は思った以上に強い声音で、美鶴は言葉を失った。

確かに美鶴だって嫌だ。放課後に時間がある時は少ないが、それでも数少ないそんな日々に彼女と共に寄り道をしたり、ゆっくりと話したりすることは美鶴にとってかけがえのない時間なのだから。
タルタロスでさえ彼女と二人きりで探索する時は気分が浮かれてしまうくらい、美鶴にとって彼女は特別な人なのだ。
ただでさえ、彼女を慕う者は多いというのに、唯を一人にしておいてはおちおち他のことも出来なくなるだろうことは想像に難くない。

「唯、美鶴先輩大好きですから、こんなのにめげたりしません」
「だが、」
「真田先輩だって気にせず一緒にいたりするのに、美鶴先輩と一緒にいられなくなるなんて絶対絶対いやですからね」

そう言って唯は美鶴の手を取って歩き出した。
それきり唯は嫌がらせの話題には触れようとせず、美鶴が何を言ってものらりくらりとかわすばかりで、結局何も出来なかった。
唯は人を頼らない。それは美鶴を信用していないとかいう類のものではなく、彼女は一人で解決することに慣れすぎている所為に他ならない。
自身とて人に頼ることを余りしない性質なので唯のことをとやかく言える立場ではないのだが。

「…やはり、寂しいものだな」

帰り道、ケーキショップでケーキを買い求め、美鶴の部屋で紅茶を飲みながら談笑していた唯は、連日のタルタロス散策や学校で疲れているらしく、ソファで眠ってしまっていた。
隣に座り、そっと唯の頭を膝に乗せてやる。ふわふわとした癖っ毛を撫でていると、不思議と美鶴の方が穏やかな気分になれた。
彼女の為に何かをしてやりたい。けれど先ほど言われたように、一緒にいなければいいというのは唯を哀しませるだけだし、根本的な解決には程遠い。そして美鶴自身だってそれは嫌だった。この際明彦に校内では唯と親しくしないようにしてもらうことも考えたが、それはそれで自分勝手な話だな、と美鶴は息をついた。
これがもし自分が男だったなら、自分の彼女に手を出すなとでも何でも格好のいい決め台詞を吐くことも出来たのだろうが、いかんせん美鶴は女だ。
それにああいうことを行う輩は美鶴がたとえそれに似たようなことを言ったところで嫌がらせを止めはしないだろう。
何か打開策をと必死に思考を巡らせるものの、何も出てこない。思わず天井を仰ぐと、不意に声をかけられた。

「気にしなくていいんですよ」
「起きていたのか…?」
「えへへ、ちょっと前から。でも甘えたかったんです。ごめんなさい」
「いや、それは構わないが…」

美鶴の膝に頭を乗せたまま、唯はじっと見つめている。
撫でていた手を止めて言葉を促すように視線で問うと唯は口を開いた。

「唯、困ってないですよ。唯にああいうことする人たちも、美鶴先輩や真田先輩のこと、すごく好きだって知ってるし。まあゴミを大量に出すことになるから、清掃のおばさんごめんなさいって思うくらいで」
「そういう問題なのか?」
「やり方は問題があるかも知れないですけど、そゆことしちゃうくらい、先輩たちのこと好きな気持ちはわからなくもないから」

だからいいんです。だから、変なこと考えないで、唯のこと好きでいてくださいね。
唯の言葉に美鶴は苦笑で返すことしか出来なかった。

「何と言うか…、君は人間が出来ているんだな」
「ちがいますよ?そんな気持ちもわかっちゃうくらい、嫌がらせも気にならないくらい、美鶴先輩が好きなだけです」
「…そうか」

何だか言いくるめられた感もしなくはなかったが、少しだけ救われた気がして美鶴は目を細めた。
髪を撫でる手の動きを再開し、強く優しい彼女に感謝だな、と関心していると、唯は思い出したように声を上げる。

「あ、いけない、真田先輩もです!」

慌てたように付け加える彼女がおかしくて、美鶴は思わず肩を揺らして笑ってしまった。

         


この美鶴先輩と唯ちゃんは出来上がってるもんだと思ってください。
すみません、意外と大好きです、女の子同士のいちゃこらしてる話(笑)。
あえて嫌がらせネタを美鶴先輩に持ってきたあたりが佐倉さんです。ふつーは真田先輩だよね!

2010/10/31 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル